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氷湖の都市
作:灯夜


三日月が空に浮かんでいる
冬の澄んだ夜空に雲は無く
満天の星空が瞬く


望は、凍った湖の上を歩いている。
ここでは別に珍しい事ではない。
雪国であるこの地方は、冬になれば全てが凍りつく。
湖面を覆っている氷はガラスのように澄み渡り、深い水底の闇を湛えている。
「あれ?」
下を向いて歩いていた望は、水中の闇の中に光を見つけました。
しゃがみこんで眼を凝らすと、湖面の下の闇にも星々の煌めきがあります。
「でも・・・。」
空を見上げれば月が輝いているのに、湖面の空に月はありません。
どうやら夜空が写っているのではなさそうです。
不思議に思い、もう一度空をみあげようとした時、ふいに湖面の月に気が付いきました。
そして地面の感覚を失い、ゆっくりと羽のように落ちていきました。
何が起こったのか、望には分かりません。
ただ微かな浮遊感と、辺りに散在する光が水底に向かっているのだと思わせました。
望は不思議と慌てる事も無く、その幻想的な世界に見入っていました。

次に地面を感じた時、そこは湖底の町の大通りのようです。
全てが、雪と氷で出来ているような町。
ですがそこにある家々は、まるで銀で出来ているように美しく輝いていました。
湖面の下に見えた光は、この家々のものだったのだと望は思いました。
ですが、どこにも人の気配はありません。
望は心細くなって、近くの家をノックしてみます。
「すみません、誰かいませんか?」
ですが、どの家からも返事は返ってきません。
そうしていると、通りの向こうに広場があることに気が付きました。
「ここで、こうしていても仕方が無いよね。」
望は広場に向かって歩き始めました。
広場は中心に時計があり、冷たい雪の光に満ちていました。
これまでの疲労で、望は時計の下でうずくまりました。
「お母さん・・・。」
重くなる瞼、悲しい気持ちで瞳を閉じました。

どれくらい時間がたったのでしょう。
辺りの話し声で望は目を覚ましました。
するとどうでしょう、そこではお祭りが始まっています。
屋台を見てみると、それは望が今まで見た事も無いような物ばかりでした。
夢中になって、あちこちを回っていると一際小さな屋台をみつけました。
そこでは縁が乳白色の雪で出来ているような、小さな鏡が並べてありました。
ですが、肝心の鏡の部分は夜の闇の様に真っ暗です。
「お婆さん、この鏡なにも写らないよ?」
望は、屋台を開いているお婆さんに聞いてみました。
ですが、やわらかい微笑みが返ってくるだけ。
そして、その中から一つ鏡を取り望に差し出しました。
望は困りました。
「ごめんなさい、お金もっていないんです。」
「気にしないで、あなたには必要な物なのだから。」
少し迷い。
「お婆さん、ありがとう。」
と、笑顔でお礼を言いました。

そして、花火が始まりました。
それは流れ星で出来ているかのような、不思議な軌道と儚い光の欠片を残しました。

気が付けば、祭りは終わり辺りには誰もいなくなっていました。
望はとても心細くなり、駆け出します。
でも、どうすれば帰ることが出来るのか分かりません。
悲しくて、うつむき泣き出してしまいました。
すると、あの鏡に三日月が映っています。
「鏡は空を向いているのに・・・。」
ふと、空を見上げると変わらずに三日月が輝いています。
ここはあの湖の氷の上でした。
望は怖くなって、家路を急ぎました。
帰り着き家族にその話をすると、望のお祖母さんはこう答えました。
「ずーっと昔あの湖の下にも町があったんだよ、地形が変わり町は今の場所へと移ってきたけどきっとそこに居続けたモノ達と出逢ったのだよ。その鏡は大切におし、きっとあなたを守るから。」

 あれから月日は流れ、私も大人になった。
それでもいまだに、あの鏡を大切に持っている。
あれ以来何も映す事はない。
けれど、疲れたとき、不安なとき、心が弱くなると鏡を見つめる。
すると、穏やかな気持ちになる。
あの、ぞっとするほど美しく儚い世界を思い出す。


それから数年後に他界した祖母の死に顔は、鏡をくれた老婆とよく似ていた。


最後まで読んでくださってありがとうございます。
この作品は、これまでと違うジャンルに挑戦したものです。今後の参考にしたいと思いますので、評価、コメントをいただけたら大変嬉しいです。













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