俺の過去、高校生のころだった。
初めて入るとき、宇宙人とか超能力者に関心を持っていた。
そして高校もどーせ、普通だろうと思っていた
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力 者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
と、長くて真っ直ぐな黒い髪にカチューシャつけて、クラス全員の視線を傲然と受け止める顔はこの上なく整った目鼻立ち、意志の強そうな大きくて黒い目を異常に長いまつげが縁取り、薄桃色の唇を固く引き結んだ女が一人いた。
何の紆余曲折もなく単なるハルヒの思いつきにより、新しく発足するクラブの名は今ここに決定した。
SOS団。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。
略してSOS団である。
そこ、笑う所?
と言うわけだ。
神楽「続き聞かせて」
新八「教えてよ、銀さん」
銀時「しょうがないなぁ。パソコン部からパソコンを強奪する話をするぞ!!!」
「コンピュータも欲しいところね」
SOS団の設立を宣言して以来、長テーブルとパイプ椅子それに本棚くらいしかなかった文芸部の部室にはやたらと物が増え始めた。
どこから持ってきたのか、移動式のハンガーラックが部室の片隅に設置され、給湯ポットと急須、人数分の湯飲みも常備、今どきMDも付いていないCDラジカセに一層しかない冷蔵庫、カセットコンロ、土鍋、ヤカン、数々の食器は何だろうか、ここで暮らすつもりなのだろうか。
今、ハルヒはどっかの教室からガメてきた勉強机の上であぐらをかいて腕を組んでいた。その机にはあろうことか「団長」とマジックで書かれた三角錐まで立っている。
「この情報化時代にパソコンの一つもないなんて、許し難いことだわ」
誰を許さないつもりなのか。
一応メンバーは揃っていた。相も変わらず長門有希は定位置で土星のマイナー衛星が落ちたとかどうしたとかいうタイトルのハードカバーを読みふけり、来なくてもいいのに生真面目にもちゃんとやって来た朝比奈みくるさんは所在なげにパイプ椅子に腰掛けている。
ハルヒは机から飛び降りると、俺に向かって実にいやぁな感じのする笑いを投げかけた。
「と言うわけで、調達に行くわよ」
狩猟区へ鹿撃ちに行くハンターの目でハルヒは言った。
「調達って、パソコンを? どこでだよ。電気屋でも襲うつもりか」
「まさか。もっと手近なところよ」
ついてきなさい、と命令された俺と朝比奈さんを引き連れてハルヒが向かった先は、二軒《けん》隣のコンピューター研究部だった。
なるほど。
「これ持ってて」
そう言って俺にインスタントカメラを渡す。
「いいこと? 作戦を言うから、その通りにしてよ。タイミングを逃さないように」
俺に身を屈めさせてハルヒは耳元でその「作戦」とやらをごにょごにょと呟いた。
「ああん? そんな無茶苦茶な」
「いいのよ」
お前はいいかもしれんが。俺は不思議そうにこっちを見ている朝比奈さんを一瞥し、アイコンタクトを図った。
とっとと帰ったほうがいいですよ。
目をパチパチさせている俺を朝比奈さんは怪訝な顔で見上げ、いかなる理屈か、頬を赤らめた。だめだ、通じていない。
そんなことをしているうちにハルヒは平気な顔でコンピュータ研究部のドアをノックもなしに開いた。
「こんちわー! パソコン一式、いただきに来ましたー!」
間取りは同じだが、こちらの部室はなかなかに手狭だった。等間隔で並んだテーブルには何台ものディスプレイとタワー型の本体が載っていて、冷却ファンの回る低い音が室内の空気を振動させている。
席についてキーボードをカチャカチャと叩いていた四人の男子生徒、何事かと身を乗り出して入り口に立ちふさがるハルヒを凝視していた。
「部長は誰?」
笑いつつも横柄にハルヒが言い、一人が立ち上がって答えた。
「僕だけど、何の用?」
「用ならさっき言ったでしょ。一台でいいから、パソコンちょうだい」
コンピュータ研究部部長、名も知れぬ上級生は「何言ってんだ、こいつ」という表情で首を振った。
「ダメダメ。ここのパソコンはね、予算だけじゃ足りないから部員の私費を積み立ててようやく買ったものばかりなんだ。くれと言われてあげるほどウチは機材に恵まれていない」
「いいじゃないの一個くらい。こんなにあるんだし」
「あのねえ……ところでキミたち誰?」
「SOS団団長、涼宮ハルヒ。この二人はあたしの部下その一と二」
言うにことかいて部下はないだろう。
「SOS団の名において命じます。四の五の言わずに一台よこせ」
「キミたちが何者かは解らないけど、ダメなもんはダメ。自分たちで買えばいいだろ」
「そこまで言うのならこっちにも考えがあるわよ」
ハルヒの瞳が不適な光を放つ。よくない兆候である。
ぼんやり立っていた朝比奈さんの背を押してハルヒは部長へと歩み寄り、いきなりそいつの手首を握りしめたかと思うと、電光石火の早業で部長の掌を朝比奈さんの胸に押しつけた。
「ふぎゃあ!」
「うわっ!」
パシャリ。
二種類の悲鳴をBGMに聞きながら俺はインスタントカメラのシャッターを切った。
逃げようとする朝比奈さんを押さえつけ、ハルヒは右手につかんだ部長氏の手でぐりぐりと小柄な彼女の胸をまさぐった。
「キョン、もう一枚撮って」
不本意ながら俺はシャッターボタンを押すのだった。すまない、朝比奈さん。と、名も知らぬ部長。朝比奈さんのスカートの中に突っ込まれる寸前に部長はやっと手を振りほどいて跳びすさった。
「何をするんだぁ!」
紅潮したその顔面の前で、ハルヒは優雅に指を振るった。
「ちちち。あんたのセクハラ現場はバッチリ撮らせてもらったわ。この写真を学校中にばらまかれたくなかったら、とっととパソコンをよこしなさい」
「そんなバカな!」
口角泡を飛ばして抗議する部長。その気持ちはよく解る。
「キミが無理矢理やらせたんじゃないか! 僕は無実だ!」
「いったい何人があんたの言葉に耳を貸すかしらねえ」
見ると朝比奈さんは床にへたり込んでいた。驚きを通り越してもはや虚脱の境地である。
なおも部長は抗弁する。
「ここにいる部員たちが証人になってくれる! それは僕の意思じゃない!」
唖然と大口を空けて石化していた三人のコンピュータ研部員たちが、我に返ったようにうなずいた。
「そうだぁ」
「部長は悪くないぞぉ」
しかしそんな気の抜けたシュプレヒコールが通用するハルヒではなかった。
「部員全員がグルになってこのコを輪姦したんだって言いふらしてやるっ!」
俺と朝比奈さんを含む全員の顔が青ざめた。いくらなんでもそれはないだろう。
「すすす涼宮さんっ……!」
足にすがりつく朝比奈さんの手を軽く蹴飛ばして、ハルヒは傲然と胸を反らした。
「どうなの、よこすの、よこさないの!」
赤から青へ目まぐるしく変色していた部長の顔はとうとう土気色になった。
ついに彼は陥落した。
「好きなものを持って行ってくれ……」
倒れ込むように椅子に背を投げ出した部長に他の部員たちが駆け寄った。
「部長!」
「しっかりしてください!」
「気を確かに!」
糸の切れたマリオネットの動きで部長は首をうなだれた。ハルヒの片棒をかついでいる俺ではあるのだが、同情を禁じ得ない。
「最新機種はどれ?」
どこまでも冷徹な女である。
「なんでそんなことを教えなくちゃいけないんだよ」
怒る部員の言葉もなんのその、ハルヒは無言で俺が持つカメラを指さした。
「くそ! それだよ!」
そいつが指したタワー型のメーカー名と型番を覗き込みつつハルヒはスカートのポケットから紙切れを取り出した。
「昨日、パソコンショップに寄って店員にここ最近出た機種を一覧にしてもらったのよねえ。これには載ってないみたいだけど?」
あまりの周到さに慄然《りつぜn》とするね。
ハルヒはテーブルをぬって確認して回り、その中の一台を指名した。
「これちょうだい」
「待ってくれ! それは先月購入したばかりの……!」
「カメラカメラ」
「……持ってけ! 泥棒!」
まさしく泥棒だ。返す言葉もない。
ハルヒの要求はとどまるところを知らない。各ケーブルを引っこ抜かせたハルヒはディスプレイから何からいっさいがっさいを文芸部室に運ばせたあげく配線し直すように求め、さらにインターネットを使用できるようにLANケーブルを二つの部屋の間に引かせ、ついで学校のドメインからネットに接続できるようにすることを申しつけ、そのすべてをコンピュータ研部員にやらせた。盗人猛々しいとはこのことだろう。
|