62.空を飛ぶまであと一歩
土煙の中、俺はゴーレムの上で首を傾げていた。
「んー、やっちまったか」
家からゴーレムを飛ばしたのは良いものの、数秒飛んだだけで墜落してしまった。
細かいコントロールが必要だと思って、背中に半ば同化した状態でやったのだが、それでもうまく飛べなかった。
一応、俺の体の保護を考えてゴーレムは厚く作ってある。
落下しても、外部に傷がついているだけで、同化していた俺は無事だ。
そう、ある程度の高さから落ちても平気だったのは、良かったんだけど、
……落下して、何かを潰してしまったみたいなんだよなあ。
「人の声が聞こえてたから、やばいかもなあ……」
なんて呟きながらゴーレムの下を覗こうとすると、
「だ、大地の主の旦那じゃないっすか。なんで空から降ってきたんすか!?」
「あん? お前らは……あの時の冒険者じゃないか」
周囲には、見覚えのあるスキンヘッドの男たちがいた。
「ヒャッハー! ……お世話になってます!! そして助かりました! 病み上がりの体でコイツきつかったんすよ!」
そして彼らが指さした先には、ゴーレムに体の半分を下敷きにされているイノシシが二匹いた。
思いっきり衝撃が掛かったらしく、失神している。
というか、その下の地面に大きな凹みを作っている。
モンスターを押しつぶしてなお衝撃が地面まで突き抜けたようだ。
「……かなり重いのか、この体」
頑丈に頑丈に、と改良していった結果、重量は上がっている。
うまく飛べないのはそれが理由だろうか。
次に飛行実験するときは、軽量化をしてみよう。
あるいはブースターの数を増やそう。足だけじゃなくて背中にも付けていく感じで。
「旦那?」
「ああ、いやこっちの話だ。というかアンタら、確か武装都市に戻ったんじゃなかったのか?」
武装都市の冒険者だから、もう帰ったのかと思っていたんだが。
だが、スキンヘッドたちは首を横に振って、街の方を指差した。
「ヒャッハー。今はあの街に、腰据えてるんすよ」
「何かの依頼か?」
「まあ、人出が足りないってもあるんですが、酒と飯が美味くて、可愛い子も多い! そして良い装備も買える。残る理由はいくらでもありますわ」
ニカッと笑って言ってくる。
あの街がよっぽど気に入ったらしい。
「ひゃっはー、旦那のお陰で助かりました。とりあえず、討伐の報告はこちらでしておきますんで、クエスト報酬はあとで受け取ってください」
「うん? クエスト報酬?」
「ヒャッハー。そこのファフニールのっすね」
ああ、失神してるこいつらか。
討伐クエストだったのか。まあ、それはいいけどさ、
「俺は落ちてきただけだし、報酬はアンタらのモンだろ」
「? でも、旦那が倒した奴っすよ?」
「それは偶然の結果だ。アンタらの報酬を横からかすめ取る格好になるし、俺はいらない。だから持っていってくれ」
俺はゴーレムを再起動させ、体を起こす。
そしてイノシシ二匹をシャイニングへットの連中に渡すと、彼らはそれを重そうに受け取った。
「ひゃ、ヒャッハー! ありがとうございます! し、しかし、本当にいいんすか?」
「本当も何も、これが普通だろう」
「じゃ、じゃあ有難く貰いますが……、今回助けられた恩を返したいので、近いうちに酒でも持って行かせてくだせえ!」
「おう、分かった」
「それでは、俺たちはこれで。ヒャッハー、オメエら、帰るぞ」
「お、応!!」
そう言い残して、シャイニングヘッドの連中は街に帰っていった。
そして一人、平原に残った俺はゴーレムの体と、足に付いたブースター装置を見やる。
「ふむ、戻ったらブースターの数をもうちょっと増やすのと、軽量化するか。水分を抜くか、樹木の分量を減らそう」
とりあえず、出来る事は試して行くことにしよう。
既に数秒、滞空出来るようになっているんだ。
……このまま行けば、そう遠くないうちに飛行できるんだからな。
それがとても楽しみだ。