38.家から経済を回す
庭の外側。
俺がウッドゴーレムの調整をしていると、ヘスティがとてとて歩いてきた。
「ちょっと、いい?」
「どうした?」
「話しておきたいことがある。武装都市のこと。この前、来てたから」
「ああ、そういや、そうだったな」
スキンヘッドのイメージが強すぎて、都市の名前がうろ覚えだった。
「伝え忘れてたから、今、教えておきたい」
「おお、ありがとうな、ヘスティ先生」
正直、知らない場所だったから、そういう情報は助かる。
「ん、いい、家賃代わり」
そう言って、ヘスティは懐から大きな地図を取りだしてきた。
「それ、俺にくれた奴と同じか? いくつ持ってるんだよ」
「いっぱい。竜になると、よく破っていたから、予備は沢山ある」
言いながら、ヘスティは地図上で、魔境森のずっと南を指差した。
そこには丸い壁で囲まれた、複数の家が描かれていた。
「ここが、武装都市。平地に立てられた、都市国家。黒の竜王が住む土地と、森の人狼と、鬼とゴブリンとオークの住処に囲まれている。あとモンスターもそこそこ」
おいおい、他種族に包囲され過ぎだろ
「どうしてそんな所に街をつくったんだ?」
「都市の中央に、魔力の塊を生み出すダンジョンがあるから。そこに武装して突っ込んで、稼ぐのが、産業」
「偉く乱暴な産業だな」
「でも、効率いい。枯れないし。他の種族も、そこで魔力を稼いだり、している」
なるほどなあ。つまり、そのダンジョンが一種の魔力スポットになっている訳か。
「ここの土地ほど、濃くて強力ではないけれど、ね。でも、有用なのは変わらないから、街が出来た。周囲にいるのも、荒っぽい種族が多いけど、人間の武装、多いし。だからまあ、なんというか、荒くれ者か肉体労働が好きな人向きの、街」
ああ、なるほどなあ。俺には縁がなさそう街だ。
危険地帯っぽいし、肉体労働はそこまで好きじゃない。
「ん、この魔力スポットがあるから、縁はないね。でも、アナタがいくと、すごく、稼げると思うよ?」
「そうなのか。でも、これ以上の金があっても、どう使えば良いのか分からないんだよな」
なにせ、あの姫魔女は、事あるごとに俺に金を渡してくる。
この前も、恩義だなんだと金を持ってきたし。その代わりにリンゴを渡したら、また金を持ってくるとか言っていたし。
そんなものだから、自宅には銀貨袋が積み上がっていたりする。
「そういえば、二階が銀貨袋で溢れていたね」
「おう。そうなんだよ」
どこで貨幣を作っているのか知らないけれども、俺の家で経済が留まり過ぎてヤバイ。
だから、人狼たちに渡すことで消費してはいるものの、
『こ、これ以上は、我々への対価としては大きすぎます! 恐れ多くて受け取れません!』
とかいって、大金は拒まれるのだ。
無理やり渡しても良かったが、泣きそうになっていたので、やらなかった。
「大量の食材や、道具を持ってくるから、別に渡してもいいと思うんだけどなあ」
人狼という奴は、良くも悪くも素直らしい。
お陰で、もしもの時用の銀貨が、置いているだけになってしまっているが。
「普通は、武器とか、防具とか、魔法具とか揃えるけど……アナタは、そういうの、使わないの?」
「買ってもなあ。使う機会がないんだよ」
武器や魔法具はウッドゴーレムがいる以上、振る必要がない。
防具だってウッドアーマーがあるから、問題がない。
魔力の行使の簡単な割に、便利すぎるのがいけない。
「いや、それ、言えるの。アナタだけだからね?」
「まあ、ともあれ俺は貯めこむしか出来ないけど、ヘスティは金、いるか?」
「生命維持には、必要ない。けど、あれば、杖の材料とか、買える、かも」
ああ、そうか。
杖を作るにも金が掛かるよな。
「じゃあ、欲しい時は言ってくれ。渡すから」
軽く言うとヘスティは驚いた顔でこちらを見た。
「いい、の? 杖、良い素材使うと、お金が掛かる。我の、骨、素材的には良いけど、それに合わせたものを使うと、値が張る」
「使い道ないって言ったろ」
だったら使う人に渡したほうが、経済的だ。
「そう。なら、貰って、今度、買ってくる。……ありがとう」
そう言って、ヘスティは頬を掻いた。
「このお礼は、杖の作成で、するね」
「おう。一番いい杖を頼むぞ」
こうして俺は、新たなお金の投資先を見つけたのだった。