表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/309

28. 直帰します

 結論から言うと、俺が今回、得た特典は、


 ・銀貨一万枚

 ・街の一等地

 ・好きな時に街に出入りする権利、

 ・好きな時に公共施設を利用する権利

 

 などなど、街での活動を豊かにするものばかりだった。


 うん、まあ、貰っても損はないから、貰っただけだ。

 ほとんど使わないだろうし、いらないんだけどさ。


「さあ、これで表彰は終わりだ、ダイチ殿。この後、下でパーティーを開こうと思っているのだが、一緒にどうだろうか?」


 ディアネイアがそんな事を言い出したのを皮切りに、部屋の外が途端に騒がしくなる。


「早く、我らが救世主さまのお顔を見せてくれ!」

「一瞬だけみたけれど、あんなに素敵な人見たことが無かったわ……!」

「是非、お目通りを! 一言だけでも、お話させて頂ければと!」


 なんて声が、扉の向こうから聞こえてくる。

 

 声だけで分かるが、明らかに、人が多い。

 さっき見た様子では、人混みも物凄かった。


 ……うげえ。


 正直な話、俺は、そういう忙しない系の飲み会は好きじゃない。


 忘年会ですら、ストレスの原因になるくらいだ。

 酒や料理は、見知った人と、適当に会話しながら楽しみたい。だから、


「俺、あんまりこういうの得意じゃないから、帰るわ」

「な、なに!? お、王城のパーティーに、さ、参加、しないのか?」

「かなり、贅を尽くした料理が並んでおりますぞ!?」


 ディアネイアと騎士団長が驚いたように言ってくるが、特に興味がない。


「ああ、贅を尽くしているなら、皆で仲よく食ってくれよ。俺は帰りたい。なにせ……メシの時間だしな」


 そう、そろそろサクラが家で夕飯を作り終えているころだ。

 帰った頃には温かい食事が食えるだろう。


「う、ううむ、約束だからな。帰りたいというのなら、そうするが……むむむ」


 ディアネイアはなにやら口惜しそうだ。

 なんだ、ディアネイアも、パーティーに参加したいのか。


「だったら、俺の事は気にするなよ。俺、歩いて帰るし」


 幸いにも、森に入れば、俺の家は見える。そのくらいの高さにはなっている。

 だから迷う事もない。歩いて帰れるぞ。


「い、いや、そういうことではなくてだな……私は――」


「――ただいま」


 なにやら、ディアネイアが言い淀んでいると、ヘスティが窓から戻ってきた。

 その手には、何やら小さな革袋があった。


「そっちの用事はすんだのか?」

「うん、もう、大丈夫」

 

 どうやら無事材料集めは終わったらしい。


「丁度いいや。一緒に帰ろうぜ。ディアネイアの奴が、パーティーに参加したいって言うから、徒歩になっちまったけど、大丈夫か?」


 ヘスティはこくり、と頷いた後で、俺の顔を見上げてくる。


「平気。でも……それなら、我が変身するから、背中に乗って帰る?」

「お、そんな事が出来るのか?」

「出来る。もう、大分、魔力が戻ったから。歩きよりも、ずっと早いと思う」

「よし。それなら、それで帰ろう。よろしく頼むわ」

「ん」


 ヘスティはもう一度頷くと、窓の外に身を投げた。


 ――瞬間、その体は変化する。


 白く綺麗な竜の体に。

 ただし、サイズは、かなり小さくなっているが。二メートルくらいの体躯しかない。


「なんか、小さくね?」


 朝に見たものの、十分の一程度だ。

 もっと威圧感ある見た目をしていたろうに、なんでこんなに可愛くなったんだ。


「まだ魔力が回復していないから、体の構成を圧縮している」

「へえ、大きさを変えられるのか」

「出来ない竜王もいる。我の場合、色々な技術を使ってるから、特別」


 便利だな、ヘスティの体。

 それでも、俺一人が乗れるくらいには大きいんだけどさ。


「んじゃ、乗るぞ」

「ゆっくり、ね」

 

 言われた通り、ゆっくり背中に足を載せてみたが、十分な安定感がある。

 背中に小さく生えた鱗の突起に捕まれば、落ちる事もないだろう。

 

「おお、すげえ。俺をのせて、空を飛べるんだな」

「我、飛竜だからね。当然」


 当然と言いつつ、ヘスティは胸を張る。

 褒められたことが嬉しいらしい。可愛いので撫でてやると、更に喜んで胸を張った。


「さて……それじゃ足も出来たことだし、俺らは帰るぞ」


 と、ディアネイアたちに声をかけようとした。

 だが室内にいた、騎士団長と、ディアネイアは、その場で腰を抜かしてへたりこんでいた。


「そ、その姿は、まさか……!?」

「あ、貴方は、し、白の竜王を……従えている、のか……?」


 ああ、しまった。

 ヘスティの事、話して無いんだった。


 ……でも、もういいか。


 実害はないし、特に問題もない筈だ。


「それじゃあ、あらためて。俺はあの家に直帰するから」

「ま、待ってくれ、ダイチ殿。まだ、私は、儀礼的な事しかしていない。貴方に助けてもらったお礼を言っていない……!」

「そういうのは、俺が俺の意思でアンタを助けた時まで、とっておいてくれ。だから、――またな、ディアネイア」


 挨拶を終えた俺は、ヘスティと共に、空を飛んだ。

 愛しの我が家に、帰るために。


 ●●●

 

 王都の空を、白い竜は駆け抜けていく。


 夜の闇があってもその色は目だつ。


 ある者は、空を見上げた瞬間に、それを見た。

 風を切り裂く速度で突き進む白い竜を。


 ある者は、酒に酔った目で見た。

 王城から森の彼方に、白い竜が飛んでいく姿を。


 後日。

 魔女の国、プロシアの王都には白の竜が巣食っている。

 そんなうわさが、国全体や、周辺国や流れていくのだった。

完全に日帰り。というか、一時間も街にいなかったんじゃないかな、これ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●コミックス最新3巻発売のお知らせ
4/19(金)に『俺の家が魔力スポットだった件』のコミックス3巻が発売されます!
 面白いので是非お手に取って頂ければ嬉しいです! 
↓の画像はコミックス3巻の表紙です。クリックでコミックス3巻の公式サイトに飛べます。
avsf2uwqhujmfl939pohhpkl2j8k_1255_e6_k5_5sbz.jpg
  ●同時連載作品のご紹介
こちらの連載も応援して頂けると嬉しいです!
最強の預言者な男が、世界中にいる英雄の弟子に慕われながら、世界を回る冒険者をやる話です。
 100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます
https://ncode.syosetu.com/n2477fb/

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ