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26.知らぬ間の救世主

 夕方。

 家の周辺の灰を片付け終わった頃。


「すごい」


 ぽつり、と丸太の上で休憩しているヘスティがつぶやいた。


「何が凄いんだ?」 

「この地、すごい。半日、作業して、リンゴを食べただけでここまで魔力が回復するなんて、びっくり」


 そういえば、ヘスティの髪の毛とか、肌とか服とか、さっきまではボロボロだった気がするのに、いつのまにか綺麗になっている気がする。


「ん、魔力スポットの力。ここで過ごすだけで、魔力が回復する」

「そんな効果があるのか」

「回復して、体の方にもいきわたったから、全身を修復できた。……我の知ってる、どの魔力スポットよりも強力」


 興奮してヘスティは言ってくる。他を知らない俺としては、実感しにくいんだけどな。 

 俺はかなり消耗していて、空腹状態になってきているし。

 

 ここにいるだけで、回復してる実感がない。


「……アナタは、もともとの魔力量が桁違いだから仕方ない」

「すごく突き放された気がするぞ、ヘスティ」

「事実。我と比べちゃダメ。アナタは、もっと上の存在と比べないと比較にならない。だから、これは、必然」


 言い切られてしまった。

 褒められているんだか、呆れられているんだか分からない感じだ。


「ま、いいや。少しでも空腹感を埋めるために、俺もリンゴかじるか」


 と、リンゴ畑の端っこに行って、新鮮なものをもぎ取ろうとしたときだ。  

「すまない、今、時間を貰っていいだろうか」


 やけにきちんとしたドレスを着込んだ、ディアネイアが尋ねてきたのは。


●●●


 その日のディアネイアは、魔女というよりは、お姫様っぽいドレス姿でやってきた。


「んお? どうしたディアネイア。そんな気合を入れた服を着て」

「気合……正装と言って欲しかったが、まあいい。貴方に話が、あるんだが、聞いてくれるか?」

「なんだよ。今日はもう疲れているから、手短に頼むぞ」


 ゴーレムや同居人の手を借りたとはいえ、家の周りを全部片付けたのだ。

 眠くはないが、腹も減っている。


「……随分と派手な戦闘をやった後だからな」


 表面が黒く焼けた我が家を見て、ディアネイアは目を伏せた。


「すまない。私の気遣いが足りなかった。これだけの戦闘があった日だ。もう少し休んでから伺うべきだった」


 いや、俺は戦闘をやったから疲れているわけじゃないのだが。

 まあ、似たようなものなので、流しておこう。


「ただ、お願いがある。地脈の男よ。充分に休んだ後でもいい。今夜、私の街に来てくれないだろうか? 貴方を表彰させてもらいたいのだ」


 ディアネイアは頭を下げてそう言ってきた。

 しかし、表彰だって?


「俺の何を表彰するって? 俺は何にも、あんたたちに褒められるようなこと、してないんだけど」

「……貴方は英雄なのだ。我々を、あの王都プロシアを、巨大な白の竜王から救ったのだから」

「はい……?」


 救った覚えは一切無いんだが。

 どういう理解をしたらそうなったんだよ。


「あれだけ巨大な竜が戦闘していると、街の方からも丸見えで、貴方は傍から見たら巨大竜から街を守った英雄。救世主なんだ。少なくとも、我ら、あの町を治めるものはそう思っている」


 ああ、そういう見方になるのか。


 こっちは家を潰されるかどうかの瀬戸際でそれどころじゃなかったんだが。

 俺は俺のためだけに戦っただけだし。


「だが、結果的には救われた。それは事実で、この気持ちを、どうか表現させて欲しい。少なくとも、我々、街の上層部はそう思っている」


 俺は、貰うものはもらっておくスタイルでここまできたわけだが、さて、どうしたものか。


 正直、あまり街には行きたくない。

 もう遅い時間だし、家の周りでやることは残っている。

 腹も減っているし、それに、


「表彰って、具体的に俺は何をもらえるんだ?」


 表彰をされるメリットがよく分らない。


「え、えー……っと、街の中で使える特権の付与、などだな。貴方がもし、ふらりと街に来た場合でも厚遇できる処置をとろうと思う」


 それは、あんまりいらないなあ。

 街にはほとんど出ないし。


「ほかには?」

「う、ううむ……単純に名声と栄誉が手に入れられて、この国近辺での融通が利きやすくなる、ということくらいか」


 融通ねえ。

 これもまた、ほとんど家から動かない俺からすると、判断が難しいところでもある。


「明日じゃダメか?」

「うう……大変申し訳ないのだが、出来るなら今日、その体からあふれる魔力が収まった状態で来てほしいのだ」


 へえ、かなり魔力を使ったのに、まだあふれているのか。


「今でも充分、濃厚な魔力が溢れているのだが、いつもよりはマシだ。いつもどおりの魔力を放出した状態でこられると、城内がお漏らしカーニバルになりそうでな……」


「それは……嫌だな」


「私も嫌だ。というか、絶対に、私が一番先に漏れる……」


 というか、なんだ。

 もしかして俺は、元気一杯の状態だと、街に行っただけで周囲にお漏らし癖を発症させるのか? 

 なんて面倒くさい事になってるんだ。


 ……まあ、普段は家から出ようとも思わないから、いいけどさ。


「そういうわけで、今がチャンスなんだ。本当に短時間でいいので、私の街にきてくれないだろうか。頼む……」


 そう言って、ディアネイアは頭を下げてきた。


 まあ、そうだな。街での特権や栄誉、二つとも貰っておいても損はなさそうだ。


 始まりはいざこざがあったが、今の彼女たちとは敵対しているわけでもないし。

 短時間で終わるのなら、行ってもいいのかもしれない。


「その表彰というのは、本当に、すぐに終わりそうか?」


「う、うむ! 私が縮地移動の魔法を使うから、すぐ移動できる! そして上層部や街の有力者と会話するだけだから、すぐ終わるぞ! 帰りたいと思ったときは、即座に帰ってもらって構わない!」


 やたら熱心に誘ってくるが、本当に早く終わるらしい。


「ふむふむ……移動の魔法とやらは、以前から見ている一瞬で移動するあれか?」

「う、うむ。私の得意魔法の一つだ。行って帰っての二回くらいは余裕で使える」


 そうか。ならば、移動時間の心配はしなくてもいいか。


 そして、帰りたければ帰ってよし、と。

 

 なるほど、その条件ならば、まあ、少しだけ顔を出してもいいかもしれない。

 夕飯まで、もう少し時間はあるし。


「分かった。今から夕飯までの間、日帰りでよければ行こう」

「あ、ありがとう! 恩に着る……!」


 ディアネイアはこちらの両手をぎゅっと握り、祈るように掲げてきた。

 なにをそこまでありがたがっているのか分からないが、とりあえずそのままにしておこう。


 ……まあ、一度は町を見ておくのも悪くはないだろうしな。

 

 などと思っていたら、


「ね」


 ぐい、と俺の腰にタッチしてくる姿があった。


「我も、ついでに、行っていい?」


 戦闘後、真っ白な服を着なおしたヘスティだ。


「街にか? 何か用でもあるのか?」

「杖の素材、街に隠してある。それ、手にしておきたい」


 ああ、杖の材料を持ってくるためか。

 なら、ちょうどいい。


「ディアネイア。この子、連れて行ってもいいか?」


 ヘスティの頭にポンッと手を置いてたずねると、ディアネイアは驚いたような目で、ゆっくり頷いた。


「べ、別に構わないが……そ、その子は何だ? 貴方ほどではないが、かなりの魔力を感じる。貴方の連れ子か何かか?」


 顔も人種も違うのに連れ子なわけがあるか。


「連れ子ではない。けど、同居人ではあるな」

「そ、そうか。同居か! ……貴方の家には同居できるようなスペースがあるのだな」


 ディアネイアは俺の家とヘスティを交互に見やっているが、普通に分かるだろう。

 というか、なんでそこまでジロジロと、俺の家を見てるんだ。

 そんなに焼け焦げた塔が珍しいのか?


「あ、いや、気にしないでくれ。ちょっと広そうだな、と思っただけだ」

「はあ。そうかよ」

「で、では、これから縮地移動の魔法の用意を始める。準備はいいか?」


 準備か。ああ、そうだ。

 

 サクラに声をかけておかねば。


「サクラー、それじゃあちょっと行ってくるから、夕飯の準備頼むわ」

「はい、かしこまりました」


 家のほうに声を飛ばすと、サクラの柔らかな声が返ってきた。

 よしよし、これで準備は万端だ。


「よし、いいぞディアネイア」

「で、では、移動を開始する。地の距離は縮めて無にする――縮地移動!」


 呪文を唱えつつ、俺の体とヘスティの体を掴んだ彼女は、その場から移動する。

 

 こうして俺は、魔女姫のエスコートにより、初めて、街に向かうのだった。

やっと家から出た主人公(日帰り)。

いや、本当に直ぐ帰宅すると思います。


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