-side ディアネイア-女性だらけの夜会話
ディアネイアはコテージでお茶を飲みながら、サクラと会話していた。
「今日はアテナに協力してくれたそうで。礼を言わせてくれサクラ殿」
「いえいえ、お料理を作るついでですから。なんてことないですよ、ディアネイアさん。簡単な味付けと包丁づかいだけですし」
「ううむ、サクラ殿の腕前で簡単でも、私たちにとっては割と凄いことなのでな」
傍から見ているとサクラの家事技術はとても熟練していた。
正直、自分も習って覚えたいくらいだ、とディアネイアが思っていると、
「それよりも、こちらこそ、このような場所を使わせていただいて、ありがとうございます」
「いや、これは元々ダイチ殿やサクラ殿に対する礼だから、気にしないでくれ。それに、いつか招待したいと思っていた場所だしな」
「ふふ、では、気にせずにお礼だけ言わせて貰いますね」
そう言ってサクラはほほ笑んだ。
その表情を見ながらディアネイアはふと思う。
……なんというか、変なふうに緊張するな。
サクラとこうして落ち着いた状況で話すのは久しぶりなので、ディアネイアは少し言葉に気をつけながら喋っていたりする。
彼女はダイチ程ではないが、しかしそれでも強力な力を持っている女性なのだ。
竜王の女性たちと喋って多少は強い魔力に慣れているとはいえ、やはり彼女は別格に感じる。
……ダイチ殿の次にプレッシャーを感じることもあるしな。
彼女自身が柔らかな表情と対応をしてくれるので、基本的には穏やかに相対出来るんだけれども。
そのことに感謝しながら、ディアネイアは喋りを続ける。
「そういえばダイチ殿はついさっき、釣竿と網を持って足早にコテージへと戻られたが、何かしらの準備か? ヘスティ殿も戻られたし」
「ええ、明日の朝釣りの為に早めに寝るとの事でしたね。ヘスティちゃんはただの眠気だと思いますよ」
「なるほど、朝釣りか。ダイチ殿は体力があるなあ……」
睡眠時間をたっぷり取っているとはいえ、今日も朝昼晩と動き回ったあとなのに、まだまだ釣りの計画を立てているなんて。
しかも、釣りといっても基本的に引っ掛かるのが、湖の生態異常か何かで巨大化しまくった大物だ。
そいつらを相手にして普通に釣りができているのはやはりおかしい気もするが。
「朝ならば、私も起きることが出来たら、飛び入り参加させてもらおうかな。ダイチ殿が良いと言えば、だが」
「そうですね。主様も魚の種類を知りたいなどと仰っていましたから助かるかもしれませんね。特にこの湖は巨大生物が多いですし」
「昔はここまで多くなかったのだけどな……」
こんなにも巨大生物が発生しているとは、後にも先にも現在が初めてだ。
よく来ていた子供のころなどは、立ち入り禁止区域がある以外は普通の湖だったし。
……今にして思えば、あの立ち入り禁止区域にカトラクタの影響があったんだろうなあ。
「――っと、イカン。話がずれたな。それで、サクラ殿はどうするんだ?」
「私はいつも通り、主様の傍で釣りを手伝おうかと。今日はこのまま朝食を作って、しばし休憩するだけという感じで。主様の寝顔を見つめようかとも思いましたが、今回はヘスティちゃんがいますので。一緒の場所で眠っているのを、起こしてしまうのもアレですしね」
サクラはダイチがいるであろうコテージの方を見た。
既に窓から明かりは消えて、見える事は無い。
住人は完全に寝入っているんだろうな。
「ふむ……では、私もダイチ殿に習って健康的に早寝早起きをしていきたいが……サクラ殿。良ければもう少し飲まないか? もう少しだけ、貴方と喋って普段のダイチ殿の話を聞きたいのだ」
「ふふ、良いですよ。主様のプライベートな事は話せませんが、普段の様子ならば幾らでもお話しますからね。なんたって自慢の主様ですから」
そうしてディアネイアは、サクラとの会話を緊張しつつも楽しんで行くのだった。