200.大きいのは良いこと
夕方、湖から調理場に移った俺たちは、少し早目の夕食を取っていた。
夕食の時間を早めたのは活け〆した獲物を、新鮮なうちに食べてしまいたかったから、というのもあるが、それ以上に、
「やっぱり、デカかったな、これ」
「そうですねえ」
獲物がデカすぎた。
調理場の鉄板が殆んどタコの調理場所になってしまっている。
「まあ、切り分けるのはゴーレムがいてくれたからよかったけどさ」
「はい、力仕事は大分、任せてしまえましたからね!」
ゴーレムのパワーによって、食べやすいサイズに切り分けられたタコは、それぞれの位置で異なる調理をされていた。
塩コショウで炒めるシンプルなものから、小麦粉をまとわせて揚げ焼きしたり、たこ焼きっぽいものを作ったり、本当にタコ尽くしになっている。
「ダイチさん、これ、凄い美味しいよー!」
「ん、すごく、いい味出てる」
まあ、竜王からは好評のようだ。
人間のアテナも、もきゅもきゅと美味そうに食っているから、味の面では問題ないんだろう。
「主様ー。もう一品出来ましたよー。タコのマリネです」
「おお、ありがとうな、サクラ」
俺もサクラがどんどん作ってくるタコ料理を食べているけれども、生で食っても火を通しても、どっちでも美味いんだよな。
噛めば噛むほど旨みが出てきて、箸が進むんだ。
「デカイから大味になってるかと思ったんだけど……予想外だったな」
なんて呟いていると、
「い、一応、このサンズ・オクトパスは高級食材として仕入れられるものなんだ。だから味については保証されているのだ」
ディアネイアがやってきて、そう言った。
「そうなのか。……というか、さっきから微妙に食指が進んでないけど、大丈夫か?」
彼女は調理するばかりで、あんまり食べる側に回ってない気がした。そう思って聞いたのだが、ディアネイアは照れ臭そうに頬を染めた。
「見られていたのか。恥ずかしいな。――ちょっとしたトラウマが出来てしまったので、いくら高級で美味なものと分かっていても、手が止まってしまうのだ」
「おいおい、本当に大丈夫かよ」
「うむ、しばらくすれば食べれると思うので心配はいらないぞ。――しかし、このサンズ・オクトパスは本来、三十センチほどの大きさしかないから、かなり驚いたよ」
マジか。元々三十センチのものが5メートル超になるっておかしい事になっているな。
「カトラクタがいなくなった影響ってそんなに大きいのかね」
「ううむ、どうだろう。その辺りは私にはよく分からないな」
なんて二人で喋っていると、タコの蒸し焼きを作っている鉄板の方から、マナリルがとててっと歩いてきた。
「この湖の話なら、私が答えるわよ」
「聞こえていたのか」
「ええ、まあ、耳は良い方だからね。ともあれ、あんな巨大なタコが育ったっていう事は、それだけこの湖に流れ込む魔力が豊富ってことなの。だからカトラクタがいなくなっただけではこうならないわ」
「他に要因があるのか?」
尋ねるとマナリルはこくりと頷いて、湖の方を見た。
「この湖は、周辺の地下水脈と繋がっているからね。……もちろん、ダイチさんの家の地下水脈から、ちょっとずつ来てるのよ」
「あー……なるほど。それで魔力が豊富になって、育った、と」
「半分は推測だけどね。でも、こんなに美味しいものが、こんなに大きくなったのは凄いことだと思うわよ?」
言いながら、彼女は蒸しタコにかぶりつく。
簡単に食い千切れているところから、相当柔らかいようだ。
「んー、美味しい」
「確かに、美味い物がデカくなったと思うと、いいことかもな」
「ああ、その点に関してはダイチ殿に同意するよ。――よし、これだけ用意されたのだから、私も食べるぞ!」
話しているうちにトラウマが大分解消されたらしい。
ディアネイアは鉄板の上にあるタコ料理をガツガツ食らっていく。
色々と釣り上げる際に問題は起こったものの、結果オーライだな。
そうして夕食の時間はあっという間に過ぎていった。