19.貰うものは貰っておこう。もちろん、知識も。
「最近、モンスターの襲撃が活発だな」
「そうですね」
俺は昼飯を食べながら、庭に出現してきたモンスターを処理していた。
俺の隣に座るサクラと同期して調べてみると、相手は、先日と同じイノシシ型のモンスターだった。
何かをしながら同期すると、かなり精度は落ちるのだが、弱めの相手ならばこれだけでも十分である。
ゴーレムたちには『敵意を持つ者を吹き飛ばせ』と指示しておけば、勝手に吹きとばしたり投げ飛ばしたりしてくれるのだ。
窓の外ではリンゴの木が大乱舞しているのがよく見える。
そして、昼飯を食べ終わる頃には、
「ん、終わったかな」
庭に動いているものはいなくなった。
「お疲れ様です、主様」
「いや、こちらこそ昼飯ごちそうさま――って、あれ?」
なんだか庭に人型の生体反応がある。
ゴーレムが吹き飛ばさなかったということは、敵意のない輩なのだろうが、訪問者だろうか。
「ちょっと見てくるか。サクラ、片付け頼んでいいか?」
「はい、お任せください。いってらっしゃいませ」
●●●
洗い物をサクラに任せて庭に出ると、すぐにその生体反応の持ち主は見つかった。
「――あれは」
リンゴ畑の中に幼女がいる。
見覚えのある顔だが、……何故だか髪と服が白かった。
この前は墨をぶっかけた位に真っ黒だった筈だが――。
「よう、ヘスティ、だよな?」
声をかけると、彼女はこちらを見て頷いた。
「ん」
なんでか二pカラーみたいになってるが、やはり彼女だ。
俺がこの世界で出会った人の中では、最も常識人に近いヘスティだ。
この前とは正反対の服装だが、イメチェンでもしたのだろうか。
「この前のは、変装とメイク」
変装って、髪と服の色くらいで、何が変わるんだよ。
「結構変わる。我の髪、超、目立つらしい」
「あー、真っ白だからな」
森の中でも一発で分かる位に白い。
「こっちが素と私服。でも、白いまま旅をしていると、皆、うるさい。変なのにも絡まれる。この前のも、仲間に染めてきたのをそのままで、来た」
なるほど。
こんな幼女が旅をしているのなら、世話を焼く仲間くらいはいるか。
「でも、もう、隠さなくていい。なにも。だから、こうしている」
「おお、隠さなくていいってことは、定住する場所でも見つかったのか?」
「……そう」
こくり、と頷くヘスティ。
旅が終わったから、黒から白に戻したのだろう。
それは、いいことだと思うのだが
「ん?」
ヘスティの姿が、一瞬、死に装束を着ているように見えてしまった。
そんな俺の視線に感づいたらしく、ヘスティは首を傾げる。
「どうした? 我の服、何か変?」
「いや、ちょっと似たような服を思い出してな。死に近しい人が着る服なんだが……」
「これ、我の、一張羅だけど」
若干すねたような口調になられた。
「ああ、すまんすまん。悪く言ったつもりはないんだ」
「でも、いい。間違っては、いない。これは、何か大きな、決死の決断をする時にしか、着ないから」
何か大きな決断、か。
定住というのも確かに大きい決断だな。
「住んでるのはこの辺りなのか?」
「そう。今日は……挨拶と、この前の、リンゴのお礼」
この子もお礼か。
姫魔女といい、この子といい、なんだかこの世界の人間はやけに律儀な気がするな。
いやまあ、あのおもらし姫は、最初は襲撃してきたけれども。
「今、時間、ある?」
「んー、今日はまあ、やることないかな」
「それじゃ、はい」
ヘスティは一枚の紙切れを渡してきた。そこに記されているのは、
「……地図?」
「手土産代り。世界の簡易地図。この森の隣がプロシア。魔女の国。ここからスタートして、我は、世界中を回った。聖騎士の国とか、王国とか、獣の国とか、色々あった」
「へえ」
彼女は広げた地図を指し示しながら、地名などを喋ってくる。
「えっと……お礼ってのは、この世界の事を教えてくれるってことなのか?」
「そう。我、旅をしてきたから、分かること、多い。だから、アナタに知らない事があれば、教える。それとも、アナタは、そういうの、もう知ってる?」
「いや、全然知らない」
むしろ、知らないままで良いと思っていた。
ただ、俺としてはこの家から離れる気はさらさらないのだが、世界の知識は知っておいて悪いことではないかもしれない。
分からないことが多いからといって、一々サクラに情報収集を頼むのもあれだしな。
「アナタも、この土地も、とても強い。それは、我も、分かる」
そして、この子は俺の魔力の事も感づいているようだ。
「――でも、強くても、知識はもっておいて、損は無い。だから、魔法の事も、生物のことも、魔力のことも。知りたい事、なんでも聞いて」
「おう、教えてくれ、ヘスティ先生」
こうして俺は、この日より、小さな教師から知識を取り入れることにしたのだった。
世話焼き系、女教師(幼女竜)