-side プロシア- 姫たちの準備
ディアネイアは執務室で大きなカバンに荷物を詰めていた。
「お姉さま、何しているのー?」
「いや、仕事の休憩代わりにな。先ほどカレンから、『ダイチ殿と行く数日旅行』の日程を伝えられただろう? その荷づくりをしていたんだ」
カバンの中には、携帯型の杖や着替え、食料品などが入っている。
旅行の時はこれを背中に担いで行こうと、ディアネイアは思っていた。
「え、でも、荷造りって……何か持っていくものはあるの? 向こうの管理人さんが、着替えや食料は用意しているって話だけど」
「ああ、既に一度行って確認してきたから、それは確かだ」
アテナの言うとおり、既に現地では設備が整えられている。
ディアネイアがテレポートで先乗りし、現地の準備をするように指示しておいたからだ。
「既に宿泊地の掃除は住んでいるし、ひと月は余裕で暮らせるくらいの食糧も準備するように手配しているぞ」
「うわー、あれ、お姉さまの仕事だったんだ。やっぱり、お姉さまは手際がいいね。……でも、そしたら、なんでその荷物を?」
確かに現地で用意されているものがほとんどだから、わざわざ自分が持っていく必要もないだろう。けれども、もしも、ということもある。
「念のための保険、という奴だ。荷物運びに、手間もかからないしな」
移動は、自分のテレポートによって一瞬で行うつもりだ。
……ダイチ殿は徒歩でも魔法移動でも、どちらでも良いと言っていたが、移動時間が少なければその分、遊べるしな。
ダイチの家に行ったら、即座にリゾートへ直行予定である。
だから、多少の荷物は問題なかったりする。
「持っておいて悪いものじゃないだろうからな。当日は軽く料理でも作って、詰めていくつもりだ」
「お姉さま、気合入ってるねー」
「そ、そうか?」
ダイチとの遠出は初めてだから、ちょっと普段よりも準備を万全にしているだけなのだけれども。
……ある意味、気合が入っているのかもしれない。
折角の機会なんだから、楽しみたいし。
更に言えば、もっとダイチと仲よくなりたい。
そう思っていたら自然と力が入ってしまった。
「ふふ、ちょっと空回りしているかな」
言いながら苦笑すると、アテナはほほ笑みながら首を横に振った。
「んーん、そんなことないよ、私やカレンも、ダイチお兄さんとお出かけ出来るって思うと張り切っちゃうから、お姉さまと一緒だからね」
「そうなのか?」
「そうだよー。カレンとかいつもの冷静さが無くなりつつあるからね。『今も当日の予定を上手に立てなければ!』とかいって部屋にこもってるし」
ああ、最近、カレンの姿を見ないと思ったらそんなことになっていたのか。
「そうなんだよー。それで、お姉さま。カレンをそろそろ部屋から引っ張り出すつもりなんだけど、それに合わせて、水着を買いに行かない?」
「水着を?」
「うん。私も、ダイチお兄さんをビックリさせるような服を着たいし。お姉さまのほうがセンスあるし。カレンも水着が欲しいって言っていたんだ」
なるほど。
それは好都合だな。
自分も新しいものが欲しいと思っていた所だ。
……なんでもアンネが作ってくれているものもあるらしいが……。
それ以外にも、個人的に持っていくのもいいだろう。
「よし、それでは、数十分待ってくれ。今日の分の仕事を終わらせる」
「やったー。じゃ、カレンを呼んでくるね!」
数十分後。
宣言通り仕事を終わらせたディアネアイアは、休日に向けて足取り軽く動いていく。
そうして、竜王と姫は、買い物を楽しんで行った。





