18.人狼の忠誠心
人狼に注意をした翌日のことである。
庭の前。
そこには、いつもと同じように、人狼からの届けモノ(食料品)が置かれていたのだが、
「……お待ちしておりました、我が王よ」
「お、王様、こんにちわ」
今日、置かれていたのは食材だけではなかった。
人狼の男女が平身低頭状態でいた。
その内の一人は見覚えがある。
「ええっと……ガロウ、だっけ?」
「はっ、人狼のオサ、ガロウ・ガリュウです! 覚えて頂き光栄です!」
いや、そこまでかしこまらないでもいいから。
平伏もしなくていいし、顔をあげて喋ってくれよ。聞き取りづらいんだ。
「了解しました、我が王よ!」
そして、人狼二人は顔を上げる。というか、そっちの女の子はなんだ。
イヌミミと尻尾をピンッと張っていて、もふもふしてそうで可愛い子であるが、みたことがないぞ。
「はい。こちらは我が妹。リリイ・ガリュウです」
「り、リリイです。王様、よろしくお願いします」
「おう、よろしく。で、今日は一体なにをやっているんだ?」
聞くと、ガロウは物凄く神妙そうな顔になった。そして、重々しい口を開いた。
「――先日、我らの行動にご不満があられた、ということで。このリリイを捧げ物とさせていただきますので、どうかお許しを、と思いまして」
「はあ?」
「この娘は我が妹ながら、内臓魔力が豊潤でして、きっと我が王のお気に召すかと!!」
「は、はい……どうぞお食べください。この命、王様の為に捧げます……」
待て待て。話が飛躍しすぎた。
というか食べるってなんだ!
話の流れからすると物理的に食べる感じになってるぞ!
「いえ、魔力の豊潤な物を食べると、捕食者の魔力も強化されますので。このリリイは人狼の中でも特異な力を持っておりますので、食べるだけで力が跳ね上がると思われます」
へえ、そんな特徴があるのか。
「ですから、どうぞ、お食べください!」
「お食べください……」
「――って、食べるかバカ野郎!」
突っ込みで大声を出したら、魔力が発露した。
「――っ!?」
目の前の人狼二人が吹っ飛んでしまった。
ああ、もう、久しぶりに大声を出したから加減が出来なかったよ。突っ込み一つ出来ないとは面倒だな。
「わ、我が王よ……どうか、怒りをお沈めください……」
「うう……」
ガロウは震えてるし、リリイって子は泣いちゃってるしさ。
酷い状況だ。だが、ここで喋るのを止めるわけにはいかない。
「おい、ガロウ。お前は勘違いをしている。俺は別に怒ってはいない。俺は確かに不満は言ったが、あの派手な崇め方をやめてくれればそれでいいと言ったんだ」
言うと、ガロウは声と体を震わせた。
「我らを許す、というのですか? 貴方を襲った、我らを」
「許すも許さないも、もう終わってるんだよ、俺の中では」
怒ったのは、最初の襲撃のときだけだ。
あの時、ぶっ飛ばして、謝ってきたから、それで終わり。
俺の中ではそれで片付いている。
「わ、我々は、降伏したのですよ? 我が王は、我々を道具のように行使しても、何を命令しても、何の文句も出ないのですよ? それなのに、許す、と?」
何の話をしているんだか、この人狼の長は。
俺が言いたいのは二つだけだ。
「俺に迷惑をかけない。あと、誰かれ構わず、襲わない。俺がお前らに命令するとしたらこれだけだよ」
そして、先日のあがめ方は俺にとっては迷惑だった。
だから注意した。それだけの話だ。
「だから俺は、注意を守れば、あとは何も言う気は無い。追加で何かを貰う気もない。分かったな?」
そう言うと、ガロウは静かに頭を下げた。
そのまま自然と地面に額をつけて、
「……ご寛大な、配慮、ありがとうございます。やはり、貴方は、我が王にふさわしいと思います」
「あ、ありがとうございます!」
リリイも涙をボロボロ流しながら礼をしてきた。
どんだけ怖かったんだよ。俺、結構やさしく諭したつもりなんだけどなあ。
人狼とはいえ、可愛い女の子に泣かれると、心が痛くなるじゃないか。
「……まあ、そういう訳だから。これからも適度によろしく頼むわ。お前らが食材を持ってきてくれるのは、すげえ助かるからな。金を払ってでも頼みたいと思ってるくらいに」
「め、滅相もない! あれは、降伏を受け入れてくださった我が王への感謝を形にしたものです。少なくとも、手前と手前の子孫が生きている間は、続けさせてもらいます!」
「……おう。ありがとう」
これ以上何を言ってもこじれるだけになりそうなので、流しておくことにした。
貰っておいて損は無いしな。うん。
「まあ、用件はこれでおしまい。二人とも、さっさと帰った帰った」
「はい!」
「ありがとうございます、王様!」
そして、人狼の兄妹は涙を流しながら帰っていくのだった。
なんだか、今日は疲れた。
物凄く元気な犬を相手にして、遊んだ後のような疲れ方をしている。
今日はもう、飯食ったら寝てしまおう。そうしよう。
子供のころからしつけた犬並みの忠誠心。本当はsideで語る筈だったのですが、冗長になったので、纏めてみました。