-side ディアネイア-真っ白な予定
夜。
ディアネイアは執務室で、騎士団長に書類を渡していた。
「騎士団長。これを頼む」
書類を見た騎士団長は一瞬目を丸くした。
「武装都市近辺の使用計画、ですね。内容はこちらでよろしいのですか?」
「ああ、よろしく頼む」
プライベートビーチとはいえ、使用日程、範囲は決めておかねば混乱が起きる。
だから、とりあえず二週間ほど押さえておいた。
……私たち以外、使う者はいないからな。
そう思って書類を作成した。
「穴抜けは無いと思うが、どうだ」
「ええ……問題ないかと。しかしまた偉く広い範囲で、場所を取りましたね。殆んど全部とは」
「念には念を入れてな。ダイチ殿と行くんだ。それくらいはしておかないといかんだろう」
普通は広ければ広いほどいい、とは思わないけれども、ダイチを連れていくのだ。
色々な意味で、広くしておくべきだろう。
「そうですなあ。……日程的には騎士団の強化合宿ともかぶせる事は出来そうですね」
「おお、そういえば、騎士団もそんな時期だったな」
「今回、護衛と訓練を兼ねて、あとからついて行かせて頂くかもしれません」
「了解だ」
プライベートビーチと騎士団の合宿場はかなり近いので、その辺りに問題は無いだろう。
「正直、ダイチ殿が近くにいる、というだけで訓練になりますからな……。最近は若手の騎士もいい感じの胆力を得るようになってきましたし」
「それは良い知らせだな。きっちり成長しているのはいいことだ」
ディアネイアは頷きながら自分の手を見る。自分も、もっと成長しなければ、と思いながらも、
「……今回の旅行は、彼らにとっては慰安旅行だからな。変に熱気を持ちこまないようにしなければ」
「はい。そこはこちらも気をつけておきます。ダイチ殿に迷惑をかけたら、訓練どころではないですからな」
「うむ、その認識があれば、大丈夫だろうな」
言いながら、ディアネイアは書類をもう一枚、取り出す。
そこには最近のスケジュールが書きこまれている。
「……うん、仕事は出かける前には終わりそうだな」
「というか、働き過ぎですよ、姫さまは。先々週から、休みなしではないですか」
「うむ? そうだったか?」
この頃は、体と魔力を鍛えまくっている。
そのせいか、疲労に対して強くなっている気はしていた。
昔のように三日徹夜しただけでは、フラフラになったりしなくなったし。
「正直な話、姫様はこれ以上鍛える必要は無いかと思うのですが。人間の身では、シャレにならない強さとタフさだと思いますよ?」
「ふむ、そうかな?」
寝なくても大丈夫なのは強さではないと思うのだが。
「我々騎士団がついていけずに、途中で睡眠に落ちるレベルの耐久力ですからね」
確かにこの前、三日三晩耐久仕事レースをした記憶はある。
結局、三日目まで残ったのは自分と騎士団長だけだったけれども。
「まあ、それは上に立つ者として当然のものだから。気にする必要はないさ。――それに、これから思いっきり休むのだしな」
ディアネイアはスケジュール表を見る。
数日後から一週間、予定は真っ白だ。
「……厄介事が起きなければ、ここは丸々休ませて貰うんだ。今は頑張らねばならんだろう」
「別にそれくらいの休みはいつでも取ってもらっても構わないのですが……そう言って頂けるのはありがたいですな」
騎士団長は再び書類に目を落として、そしてふう、と息を吐いた。
「ともあれ、騎士団としてもしっかり仕事はつとめますので。姫さまは思う存分、骨休めをなさってください」
「ああ、私も久しぶりに、ゆっくりさせて貰う。その為に……仕事をするぞ」
「はは……了解です、姫さま」
そして、夜は更けていく。