172.湖の出会い
水中呼吸の技法を知った俺は、平原の湖に潜ることにした。
「水中呼吸を、ちょっと練習させてもらうわ」
「ええ、どうぞ。一応、私は上で待機してるわね」
「それじゃ我、一応、サポートに付いておく」
有難いことに、竜王のサポート付きだ。
この二人にレクチャーを受けながらやってみよう。
「んじゃ、《コーティング》と」
自分の周りに魔力の膜を張った俺は、そのまま湖の中央へ行き、顔を水中につけた。
そこで一度息がすえる事を確認してから、
「よし……!」
一気に湖底めがけて泳ぎを開始した。
そうして気付いたのだが、このコーティングには水中メガネのような効果もあるようで、水中でも目を瞑ることなく泳ぐことが出来た。
「ん、いい調子、だね」
背後から付いてきているヘスティもお墨付きをくれた。が、
「でも、息して、大丈夫だよ?」
「あ、そうか。出来るんだったな」
ついいつもの癖で、息を止めていた。
水中では息を止めるもの、という意識が染みついているからな。
ダイビング経験とかあれば、また違うのかもしれないけれど。
「というか、息を吸えるようになっても慣れないな」
周辺が液体で満たされている状態で、普通に過ごせる、という現象がかなり驚きだ。
「まあ、コーティングはそういう魔法だから。……というか、やっぱりアナタのコーティング滅茶苦茶強くて、安定しているね。水を遠くまで押しのけるほどの性能とは、ビックリした」
見ればヘスティのコーティング膜よりも、俺のコーティングの方が分厚かった。まあ、でもどちらにせよ平常通り行動できているならいいだろう。
そう思いながら上を見上げると、
「おー、こりゃすげえな」
透き通った水の天井が出来ていた。
そして太陽光が差し込み、天井ではサクラやマナリルたちが泳ぐ姿が見えた。
上から見るのとではまた一味違った景色で、とても面白い。
「確かに、これを深い湖で、魚のいる所でやったら、それはそれでいいだろうな」
「ん、多分、武装都市の湖なら、出来ると思う」
そうなのか。ならば、もうちょっと水中呼吸に慣れて、その上で暑い日がきたら、湖に行ってみるのもありかもしれないな。
……まあ、その時は色々と人を誘うかね。
俺一人で行ってもアレだし、折角のレクリエーションだ。
複数で行ってもいいだろう。
なんて思いつつ、そろそろ上に戻ろうかと足を動かし始めると、
――ゴゴ。
と、湖底に小さな穴が開いた。
「うん? なんだ?」
「……小さい、魔力の、反応がひとつ? というかこれは……」
その穴はどんどん広がっていき、やがて人の手が見えてきた。
そして、そこの穴からひょっこり顔を出したのは、
「ぷ、ぷはっ! よ、ようやく出れたけどまた水の中なのか。――って、ダイチお兄さん!? ど、どうしてここに!?」
顔だけにコーティングをした、アテナの姿だった。更には、
「願えば、通じるものですね……」
嬉しそうに、そして力強い瞳をしたカレンが続いて出てきた。
二人してなんで湖の底から穴をほって出てきたのか、またなんで体が汚れているのかは分からないけれども、
「……とりあえず、上がろうか」
「あ、はい。了解だよ、ダイチお兄さん」
水中呼吸の練習も終わったことだし。
二人とゆっくり話をする為、岸に上がることにした。