15.ダンジョンが生まれる(予定)
――次の日、俺の家に一階が生えていた。
「何が起きた……?!」
ああ、正確には、二階建になった、というべきか。
今まで住んでいた俺の二LDKが二階で、一階が新しくできている。
昼間辺りに、サクラがお腹に触れているなと思ったら、ゴゴゴって音を立てて生えてきたのだ。
「えっと……主様の魔力にずっと触れていたので、出来ちゃったみたいです」
お腹をさすって顔を赤らめているけど子供が、じゃないよね。
どうみても、これ新しい階層がだよね。
「私は家の精霊ですから。子供もだって家ですよ」
「あー……」
そう言われると何の反論も出来ない。
家と交わると増築されるのか。初めて知った。
「主様から魔力を受け取って、飽和した分はこうして新たな建物になるようですね」
「お、おう……。ちょっと、下、みてくるか?」
「はい、一緒に行きましょう」
サクラと共に、昨日までは存在しなかった、大きな階段を下って一階へ。
内装は、上よりも広かった。
三LDK。
備え付けの押し入れとか、姿見とかも一緒に増えている。
「凄いな、サクラ」
「凄いのは主様ですよ? この部屋(子)を構成した魔力は、ほとんど主様のものですし。私はただ、回復させて貰っただけですし」
そうなのか。
いや、でもこの増築にはビックリした。
というか、二階に戻って窓の外を見たら、庭の方に小さな小屋がもう一つ立ってるんだけど。
「ああ、離れですね。あれも私の子供かと」
本当にすごいな魔力補給!
いきなり建造物がポンポン生えてくる。
「まあ、住む場所が増えるのはいいことだ」
「はい、誰かを呼んで、賑やかにするのもよろしいかと」
おいおい、家主でもやれというのか。
気の合う奴がこの世界にいるのなら、呼ぶかもしれないけど、今はいないぞ。
「そうですね。主様の思うがままに、お願いします」
ただ、とサクラはもじもじしながら前置きして、
「――願わくば、この本宅の最上階には、主様に住み続けて頂きたいと思っています。そこが私の、本体なので」
「ああ、そこは変わらないから大丈夫だ」
俺は住み慣れたこの家が。あの部屋が。
あの二LDKが一番落ち着く。
あの布団と、あのテーブルと、あのカーテンが、とても落ち着く。
だから変える気は無い。あそこは俺の最重要テリトリーだ。
「……良かったです……」
サクラはほっとを息を吐いた。
なんだ今の今まで緊張していたのか?
「はい、広い部屋や離れを見て、私よりもこっちがいいと思われたら、どうしようと」
「もしも、思っていたらどうしてたんだ?」
「頑張って本体を広くしていました! 主様に求めて貰えるほど、広く!」
熱を込めていってくるサクラ。
意外と負けず嫌いなようだ。
「主様は選ぶ側で、私は選ばれる側ですから。選ばれるように頑張りますよ、私」
「変える気はあんまりないから、安心してほしいかな」
なにせ二階からだと、庭が広く見わたせる。リンゴ畑もより遠くを見渡せるし、ゴーレムの指示も出し易い。
防衛力も上がって、安住のし易さも上がっているんだ。
ここから離れる選択肢は、無い。
「主様……!」
サクラはとてもうれしそうに微笑んだ。
「主様の魔力があれば、私も、どんどん拡張できると思いますので、広くしたい時は言ってくださいね」
「おう、そうだな。ただまずは、新しくできた一階をどう使うか、だな」
「はい!」
こうして俺の家は、倍近く、広くなった。
魔力回復のオチということで。