158.大勢で出発
ライブ当日の朝。俺はへスティとサクラと共に庭に出ていた。
「主様ー。お弁当とお飲物も準備できました」
「ん、我も、オッケー」
サクラとヘスティは二人とも荷物を手にして、待っていた。
もう出発しても問題ないようだな。
「それじゃ、ゴーレム引っ張ってくるか」
あとは俺が、舞台まで向かうゴーレムを作るだけだ。
「……昨日考えた通りに、と。ウッドゴーレム×十」
昨夜、サクラやヘスティと話しながら少し考えた結果、ウォーターゴーレムとウッドゴーレムを十体ずつ持っていくことにした。
これだけあれば、まず足りるだろう、という数だ。
ただ、材料と工程が多いウォーターゴーレムは既に作成済みだ。
あとは水入りのタルを持つウッドゴーレムを作りだすだけでいい。
「うん、昨日の夜から準備しておいたから楽だな」
「ゴーレムを作るのは楽じゃない、筈なんだけど、なあ……」
ヘスティが今更そんな事を言ってくるけれども、本当に楽だから仕方ない。
そしてウッドゴーレムを作りだした後は、
「ウォーターゴーレム。こっち来いー」
庭の裏手に置いていたウォーターゴーレムを呼びよせる。
見た目はウッドゴーレムに近いが、中身はたっぷり液体が入っている。
……どれに温泉が入っていて、どれにリンゴジュースが入っているのか分からなくて、ロシアンルーレット感はあるけどな……。
外見で分かりにくいので仕方ない。
蛇口をひねればある程度分かるし、温泉水も綺麗で飲める奴にしたから良いだろう。
と、俺がウォーターゴーレムを見ていると、へスティがそっとゴーレム達に触れた。
「……うん、凄い完成度。戦力的には街ひとつ落とせそう、に見える」
「いや、戦闘用じゃないからな」
どれも素早い歩行をしてもらうために馬力はあるけどさ。
あくまでジュースサーバーと、荷物運び役である。
実際、ウッドゴーレムは十体とも、水の入った樽を担いでスクワットしながら、やる気アピールしているし。
「まあ、ゴーレムはこれでよしで、あとは、俺のアーマーだな」
ここから平原の舞台まで歩くのに、徒歩だと面倒だ。だから、
「ええと、《金剛》+《韋駄天》。モード《金剛・風》」
作成したのは下半身に《韋駄天》のような加速装置をつけた《金剛》だ。
《金剛・風》と一応、名付けている。
韋駄天の早すぎる加速力を金剛の重さでいい感じに中和できて、散歩用には丁度良かったりする。
専門性は減ったが汎用性が増えた機体だ。
「サクラー。こっちに来てくれ」
「はい、お邪魔しますね」
そうして、サクラと共に体にウッドアーマーを身につけていると、俺の事をじっと見ていたヘスティが不意に右腕を指差した。
「その金剛杵、格納する形にしたんだね」
「ああ。一々積み下ろしするの面倒だしな」
単体ではかなりの重量があるから、片付けるだけで大変だった。
けれども、こうして機体の中に組み込んでしまえばアーマーのサポートがあるので、重さを感じたりはしない。
だから積みっぱなしにしているんだ。
「あと、ゴーレムの蛇口部分がつまった時、たたく必要があるけれど、その時に使えば良いだろう」
「……力使いすぎたら、ゴーレムごと吹っ飛びそうだから、気をつけて」
「ああ、そこまでのヘマはしないから大丈夫だ」
力加減はもう五パーセント単位で調節できるようになっている。
流石にジュースサーバーが詰まったからと言って、ブチ壊すほどの力でぶったたいたりはしないさ。
「さて、アーマーも出来たことだし、行くか」
言いながら俺は一歩を踏むと、足に仕込んだ木製のバネが歩行を補佐してくれた。
脚部にはバネの他に、魔石と加速機能と、水によるジェット噴射機能をつけている。
基本はバネの補佐を使って省エネ歩行で素早さを安定させながら歩くことが出来るし、それ以上の速度が欲しい時は魔石と水を使って急加速が可能になる。
本当に便利な機体だ。
「移動用にはやっぱりこれだよな。――じゃあ、行くか。サクラ、ヘスティ」
「はい、行きましょう、主様!」
「ん、了解ー」
そして、俺たちは二十体のゴーレムを引き連れて、平原へと向かっていく。