=side サクラ= 築五〇年の想い人
サクラ視点のお話ですが、ほぼ独白と過去話なので、本編には殆んど関わらないかなあ、と。
サクラは、膝枕で寝ている主を見ながら、過去を思い出していた。
かつて、日本にいた時の、私という存在が希薄だったころの夢だ。
五十年前、龍脈を抑える家として生まれたのが私であったが、意思が確立されたのは、主の祖父と主の両親引っ越してきて、主を生んでから、だった。
ある意味、私と主は同時期に生まれた存在ともいえる。
とはいえ私は精霊だ。一年もすれば、すぐに知能も体も成長した。
だから、ずっと見ていた。
赤ん坊のころから、ずっと。成長しても、家の中で走り回る彼をずっと、みていた。
最初は、子供だなあ、とか、小さいなあ、などとしか思っていなかった。
実際、日本にいるときから自分の存在は強かったし、人間なんて、という気持ちがどこかにあったのだろう。
……だけど、私は分かってなかった。
家は住むものがいなくなれば、存在する理由がない。
自分という存在は、住む人がいなければ、ただ朽ちて、消えるだけなのだと。
だから、ひと時、彼と彼の祖父と両親が旅行に行って、しばらく帰って来なかったことがある。
寂しい、とその時思った。
辛い、とその時思った。
にぎやかな声がしない家が、人のいない家が、とても恐ろしく感じた。
己の存在意義が揺らいで、消えてしまいそうだった。
そこで初めて、自分は、消えたくない、と思った。
死にたくないと思った。
「だから――一番最初に主様が帰って来た時、安心したんです」
幼い彼がにこやかな笑顔と共に、「ただいま」と言ってくれた。
その一言が救いになった。
私は帰ってくる価値のある存在なのだと、肯定された気分になった。
それから、ずっとずっとずっとずっと、慕っていた。
幼い彼が少年になっても、青年になっても、大人になっても、ずっとずっとずっと、見守っ
ていた。
祖父がいなくなっても、両親がいなくなっても、彼はずっと、自分に住み続けてくれた彼を、狂おしいまでに慕っていた。。
――でも、私は彼には見えなかった。
当然だ。精霊なんてもの、現代日本では顕現出来ない。
だから、彼がどこか虚空を眺めていて、自分と目があった時なんて、昇天しそうなほど興奮した。
――そして異世界で、私を認めてくれた時、涙が出るほど嬉しかった。
サクラ、と私の名前を呼んでくれて、私を必要としてくれるのが幸福だった。
彼が私の事を覚えて、知っていてくれるのが本当に――。
「彼だけが私の主であり、彼だけが自分に住んでいい、ただ一人の人間」
私を守るために力を振るい、私を癒す為にその体を交わらせてくれる。
下腹部にはまだほのかな痛みがあるけれども、それすらも愛おしい。
「主様……お慕い、申し上げております。私のすべては主様のもの。ですから、いつまでも、永遠に、貴方と共に……」
若干狂気的ですが、主人公が寝てる横で、こんな思いを抱いたりしています。
ご声援、ありがとうございます! 続きは夕方に上げます!