150.試作は成功の元
アッシュとの飲みは夕方まで続いた。そして、
「ひゃっは~! 旦那、今日はあざましたー」
アッシュは酔っぱらっていた。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫っす……! 魔力の強い旦那の家で飲んだもんで、体が酔っぱらってるだけっすから……。平原にいけば、ウサギの店に行った野郎ども待ってますし……平気っす」
それは大丈夫とは言わないだろう。
帰り道にモンスターに出くわしたら面倒そうだし、そうだな。
「一応、帰り道だけはゴーレムをつけてやるよ」
「ひゃ、ひゃっはー、いいんすか!?」
「色々と話を聞かせてもらったしな」
マナリルが世間的に有名な人間で、男女問わず憧れられているなんて情報も貰ったし。
その礼は必要だろう。
「ゴーレム。街まで送っていってくれ」
俺はアッシュと同じくらいの大きさのゴーレムを作成する。
こいつに付いて行かせれば、帰り道は安心だろう。
街に付いたら、自動的に帰ってくるように命令しておけば回収も楽だしな。
「う、うっす、あざます」
「いいって、気をつけて帰れよー」
フラフラとした足取りでアッシュは森の方へ向かっていく。
途中で足を木の根っこにひっかけてこけそうになったり、木に顔面をぶつけかけたりしている。
街まで帰れるかと不安に思ったが、途中からゴーレムがアッシュを背中に担ぎ出したので、大丈夫だろう。平原に仲間もいるらしいしな。
「さ、俺は俺で、やる事をやろう」
酒で酔っ払ったアッシュを見送った後、俺は庭のベンチに座る。
やるのは先ほどの続き、合成ゴーレムの改良だ。
……人が沢山来るっていうんなら、大きさとかも考えないとな。
でかすぎたり、重すぎたりするゴーレムを連れていくのは、威圧感的な意味でちょっと危険かもしれないし。頭の隅に入れながら改良していく。
「ま、色々な種類を試して行こうか」
試作品はいい感じにできているのだから、気楽にやっていこう。
今日だけでも試作は第六号まで出来ており、庭にずらりと並んでいる。
……どれが一番性能が良いか手探り状態だが、確実に形に成っているので楽しいからなあ。
偶に変な形状のゴーレムが出来たりするが、良い経験にもなってくれる。
だから、思いついたそばから、どんどん作っていた。
……今日も夕飯までの間、出来るだけ進めておこうか。
そうして、俺が木々と水に触れながらゴーレムを作っていると、
「……あの、なんで、物凄いのが出来てるの?」
小屋から出てきたヘスティが、試作品第五号を見て目を見開いていた。
「よう、へスティ。予備の杖の作成は終わったのか」
「ん、終わったけど、コレ、なに? 複数の魔力が、グネグネって、中で混ざってる、けど」
へえ、俺が中身を解説する前に分かるのか。
相変わらずヘスティは鋭いというか、理解が早いな。
「そいつは、水を半分入れてその上からリンゴジュースを入れたんだよ。そしたら歩いているうちに良い感じに混ざってな」
これはこれで良いんじゃないかと思った。
ある程度は樹木の中でも冷えたままだし、ミックスされたモノも美味しく飲めるし。
まあ、なんか歩く時の動きが柔軟になり過ぎていて怖い気もするけどさ。
「だから、こうなったんだね。……水とリンゴの魔力で樹木が強化されてて、凄いことになってる。硬度と柔軟性が、おかしい」
「水漏れしないように固く作ったんだけど。そうか、入っている液体によっても強化されるのか」
ただまあ、堅いのは良いことだ。
持ち運びが楽になるしな。
「ん……そこの岩とか殴っても、ヒビ一つはいらないと思うよ。とても、戦闘性能が高い」
言われた通り、試作品五号で岩を殴ってみた。すると確かにヒビが入るどころか、岩を砕いてしまった。
ちゃんと堅くできているようでなによりだ。けれども、
「ただのジュースサーバーだから、戦闘することはあんまりないと思うぞ?」
「んー……まあ、うん。そうだね。……日用品なのに、戦闘力が高いのは、気にしないことにした」
なんだかヘスティがすごい目で見てくるんだけど。
このゴーレム、そんなに変だっただろうか。
……なら、もう少し改造してみるかね。
手先の器用さとかはあった方が嬉しいしな。
ちょっとずつ、調整していこう。