-side プロシア-着々と進む準備
プロシアのライブ会場の予定地は、城から少し離れた大通りの広場、ということになった。
そこに舞台を構築し、マナリルに歌って踊ってもらうつもりだった。
設営はダイチという見本があったから、とてもスムーズに上手くいっている。
既に八割がた終わっており、あとは仕上げ作業という所だ。
……あれだけの舞台を一瞬で作るのは真似できんがな。
とんでもない速度で構築された舞台を思い出して、思わず苦笑してしまう。
ただ、こちらはこちらで、どうにか一週間以内にライブを開けそうな状態になっている。
とてもいい調子だ。だが、
「まさか、こんなにも人が集まるとはな……」
会場の建設地には、既に多くの人だかりができていた。
男女比率は半々と言ったところか。
その人だかりの大体が、マナリルの顔がプリントされたり刻印されたりしている装備を持っていた。
執務室の窓からもそれは確認できている。聴力を強化して耳を澄ませてみると、、
『……ここでマナリルちゃんのライブがあるのかあ。当日は楽しみねえ』
『そうだな。姫様がスケジュールを発表したら、即座に準備しないとな』
というような、マナリル目当ての人々だと良く分かる。
「マナ殿の人気を理解していなかったとは、私も世間知らずだったな」
呟くと、部屋の椅子に座ったマナリルが申し訳なさそうな顔を向けてきた。
「ご、ごめんね。私も武装都市でライブしていて、最近は観客が多くなっているなあ、とは思っていたけれど、こんなに人が集まるなんて思わなかったから」
「ああ、いや、違うんだ。私の情報収集が足りなかった証拠だからな。気にしないでほしい」
世俗に疎いとはいえ、歌姫の存在を知らないのは、良くないことだ。
……うむ、最近はふ抜けていた証拠だな。
猛省せねば、と思いながら、ディアネイアはマナリルを見る。
「今日はこんな時間に呼びだしてすまないな。色々と情報を頂きたいのだが、良いだろうか?」
「ええ、別にかまわないわよ。私もやることと言えば、街の下見と精霊たちとの打ち合わせくらいだから」
「そう言ってもらえると有難いよ。――とりあえず、ライブの際は会場の方で、人が密集しすぎないようにちょっと気を使うことにする」
「……そうね。そうして貰えると助かるわ。聞いている人に問題が起きたら、それこそ大変だもの」
マナリルの言うとおり、ライブ計画の方は慎重に進めていくことにしよう。
折角のイベントだし、街の人々には楽しんでほしい。
だからこそ、気になる点は今のうちにチェックしておかねば、とディアネイアは執務机の上にある書類を手に取る。
「そういえば、マナ殿。カトラクタについての資料がひとつあったのだ」
「え、本当?」
「ああ、なんでもカトラクタの封印が外れかけたり、魔力を食って復活に近付くと、まずは構造的に近い竜に影響が及ぶらしい」
調査班による情報と、書庫の資料を漁った結果、そういうデータが出てきた。
「普通の理性ある竜ならばどうってことないのだが、理性を失いボケて野生化している竜は、その影響をモロに受けて、強い魔力を見境なく集めようとするようだ」
「あー、そうね。カトラクタの毒の魔力にあてられるってことは、あるわね」
マナリルも頷いてきたということは、このデータは正しい可能性が高い。
最近、竜の襲撃が増えているのもそのせいだろう。
カトラクタの力は水に混じっている。それを口にした野生の竜が森から飛び出し、街の近くに来るという事もあった。
その時は自分とカレンがいたから迎撃することはできたけれども。
「こうして資料を見ると、いかに不味い存在か良く分かったよ」
「ええ、あれが魔力を食べまくって、封印から逃れるなんてことがあったら、本当に一大事よ。私たち竜王が総出で、もう一度封印しなきゃいけないからね」
「うむ、それを防ぐためにも、気を引き締めていかねばならないようだな」
もしもカトラクタが出てきてしまっては、このプロシアも危ない。
街全体が毒の水に侵され、水不足に陥ったら、目も当てられないのだから。
「それじゃ、私は部屋で精霊の打ち合わせをしてから。街を見回ってくるわね」
「うむ、了解だ。では、私も会場に向かって、調整状況を聞いてくるとするか」
そうして、ディアネイアは賑やかさと騒がしさが混ざる街中へ向かっていく。
やる事は多いが一つ一つ、片付けていこう、とそう思いながら。
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