147.新たなるイベント
その日の午前中。
サクラが作ってくれた朝飯を平らげた俺は、平原にいた。
というのも、へスティにマナリルのライブに付いて聞きながら、会場の改良をするためだ。
「……あそこまでの強度があれば、我のアドバイスはいらないと思うけどね」
「俺もあんな建物は初めて作ったからな。念のためって奴だよ」
何かしら不備があって、ライブが上手くいかなかったら嫌だからな。
そう思って会場に向かうと、
「お、あれは……マナか」
マナリルが舞台を見つめていた。そして彼女はすぐに俺たちが来た事に気付いたようで、こちらを向いた。
「あっ、ダイチさん。おはよう」
「おう、マナ、アンタも来ていたのか」
「ええ、散歩がてらね。ダイチさん達は?」
「昨日作ったばっかりだからな。チェック作業と細かな改良をしようと思ったんだ」
そう言って舞台に手を触れると、マナリルは意外そうな顔をしていた。
「あれ、何かおかしなこと言ったか?」
「う、ううん、違うの。こんなにも手間をかけてくれてありがたいなって」
「気にするな。自分の作ったものに不備が出たら嫌なだけだからな。丁度いいから、マナもチェックしていってくれよ」
「え、ええ、了解よ」
そうして俺と竜王二人は、舞台のチェックを始めた。
まず、へスティが舞台に触れたり、叩いたり、昇ったりしていく。
「強度も、粘りも、問題ないね。精霊やマナリルが飛んで跳ねて踊っても、壊れないと思う。ラミュロスが乗っかっても大丈夫」
「そりゃいい褒め言葉だな」
若干、ラミュロスが可哀想だけども。
へスティは幼馴染というか、同年代の龍について喋るときは容赦がないな。
ともあれ、ヘスティからのお墨付きを素早く得られたわけだが、あとは使う本人に聞いてみるかね。
「マナ。なにか付けくわえてほしいものとかあったりするか? あるなら今つけるが」
聞くと、観客席に上がっていたマナリルは視線をキョロキョロとさせて会場を見始めた。そして、
「そうね……。屋根、とかあれば嬉しいわね。雨が降ったりすると滑りやすいし」
「おう、分かった」
俺は舞台の傍に数個のリンゴを植えて、舞台の頭上まで伸ばす。
そして、青々とした葉っぱと、枝木を束ねて、舞台の上を覆っていく。それだけで屋根の完成だ。
「ほ、本当に軽々作るわね……」
マナリルは呆気にとられながら、屋根を見上げていた。
「まあ、造形とか気にしてないからな。彫刻系を施して作ろうと思ったらまだまだ時間が掛かるさ。――で、他には必要なものあるか?」
もう一度聞くと、マナリルはうーん、と頭を悩ませた。
それから数秒後、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……街から続いてこっちで歌うから、お水とか、精霊たちと喉を潤すものは欲しいかも」
「飲み物ってことか?」
「ええ、――だから、ダイチさんのお家の水、少し買ってもいいかしら?」
「俺の家の水?」
別に良いけど、わざわざ俺の家の水に限定する必要があるんだろうか。
「まあ、ディアネイアも、ライブの際は催し事として、この周辺にも出店を出すとか言っていたけれど、それで出てくるのは普通の飲み物でしょう? でも、ダイチさんの家に行った時、庭の方に芳醇な水の魔力を感じたのよね。あれだけ魔力が豊富なら喉と共に、力の補給も出来ると思うの」
ああ、なるほど。一石二鳥なわけか。ならば、
「んじゃ、持ってくるよ。というか、買う程のものでもないし、タダでもいいぞ」
無料での提供を申し出ると、首を横に振られた。
「いいえ、あそこの水はお金を払っていいものよ。だから、きちんと対価は払うわ」
「はあ、そうかい」
この竜王も、こういう所は頑固だな。
貰うものは貰っておく主義だし、悪い気はしないけれどもさ。
……また貯蔵している金が増えてしまうので、どこかで使わないとな。
なんだかイベントで店も出るみたいだし、何かしら良いものがあれば買おう。まあ、それはともかく、
「んじゃ、折角金を払ってもらうんだし、飲み物を二種類くらい持ってくるわ。リンゴジュースとかでもいいか」
水だけじゃ、不相応な気がするから、それくらいはさせてもらおう。
「え? うん、ライブ中は甘いものも取れると嬉しいけれど、いいの?」
「おう、俺がそうしたいだけだからな。気にせず受け取ってくれ」
「あ、……ありがとう」
そうして、平原での竜王との会話は、午後まで続いていった。