142.即実験、即実用、即改良
「んー、こんなものかな」
家に戻った俺は、とりあえず、水ゴーレムを作ってみた
「相変わらず、手が早すぎるね、アナタ」
「いやまあ、完成度は二の次でやったからな」
今回のゴーレムは、地下から掘り出した魔石を中心に水を纏わりつかせただけで、大した造形も出来ていない。
三メートルほどの水柱が、青っぽい人型をしているのとあんまり変わらないくらいだ。
ただ、それでも感覚は掴めたので良しとしよう。
「適当な魔石をコアにしても、出来るもんだなあ」
「いや、適当って言っても、一級品だから、ね? アナタの地下から出ているのは、大きさも質も、高いから」
「そうなのか。まあ、簡単に出来るなら、有難い話だ」
そして感覚は掴めたので、ここからは応用だ。
「さ、普通の水で行けたなら、次は、温泉ゴーレムだな」
「え? あれで作るの?」
「おう。色々な液体で作れるようになった方が良いと思ってな」
そっちの方が使える機会も多くなるし、と俺は温泉の傍に行く。
そして、温泉に一粒の魔石を落とし、それを中心に、温泉水が人の形を作るのをイメージすると、
「――よし、これで、どうだ?」
温泉は立ち上がり、人型を取った。だが、
「――」
そのまま、パシャッと音を立てて、もと通りのお湯に戻ってしまった。
「ありゃ、駄目なのか?」
「駄目というか……コアの魔石の魔力が、足りなかった、みたい」
「え、そう言うのも関係しているのか?」
「ん、もちろん。素材にしている液体の魔力が強ければ強いほど、強い魔力を持ったコアが必要になってくる。だから魔石を二個に増やしたりすると、いいかもしれない」
ふむふむ、コアの材料まで考えなきゃならないのか。ウォーターゴーレムは手間が掛かるな。
「って、待てよ? コアって魔力を含んでいれば何でもいいのか?」
「え? ……うん、そうだけど、他に何かあるの?」
「そりゃまあ、そこそこ魔力を含んでいるのは、沢山あるからな。それでやってみよう」
そして――
●
「出来た!」
「そうだね。一瞬で、出来ちゃった、ね……」
「オオォ……」
目の前には温泉水で出来たゴーレムが両手を上げて立っていた。
その体の中心には、リンゴが三つほど浮いている。
庭に生えているリンゴをもぎ取って温泉にそのまま叩き込んだら、ゴーレムとして成立してくれたのだ。
「見た目的には――リンゴ風呂だな」
「うん、凄く、いい香りがする」
両手を万歳させているゴーレムが動くたびに温泉水が波打ち、リンゴの香りを振りまいてくれる。
温泉独特の温かみも保ってくれているようで、寒いときには重宝しそうだな。移動式の温泉にもなる。
そう思ったのだが、ヘスティは首を横に振った。
「この魔力の濃度にしばらく入ったら、我は酔いそうだな……」
「そんなに強いか?」
「我にとっては、ね。割とこのゴーレムが近寄ってきたら、野生動物は逃げるレベル」
そこまで言うか。ちょっと温泉ゴーレムがしょんぼりしたぞ。
「まあ、でも二種類作れたのは良かったよ」
普通の水で作ったゴーレムは青っぽくなり、温泉水で作ったものは白っぽくなった。そういう違いが出るのも面白いし、これは実験のし甲斐がありそうだ、と思っていると、
「……あ、また、空から竜が来た」
「え? またか」
ヘスティに言われた通り見上げると、確かにこちらに向かって急降下してくる竜がいた。
「――――――ァァァア!」
その目はとても血走っていて、明らかに理性など無い。だから、
「ウォーターゴーレムたち。吹っ飛ばせ」
ゴーレムに命令した。瞬間、水と温泉のゴーレムが一気に伸びた。
そのまま鞭のように動く液体が、竜の顔面に降りかかる。
ただし、その液体はとてつもなく堅いらしく、
「――!?」
ゴスッという重い音がした。
そして、重い音にふさわしい打撃力を持っていたのか、
「オオ…………?!」
首ごと持っていかれるように、竜は彼方に吹き飛んでいった。
「お見事。――というか、本当に堅いね、このゴーレム。見たことないレベルで、竜が吹っ飛んでいった……」
「おう、俺も、ちょっとびっくりしたよ」
樹木のゴーレムよりもしなやかに伸びて動くなあ、とは思っていたのだが、まさかのふっ飛ばし力も持ち合わせているとは。
作るのに手間が掛かるし、材料も必要だけれど、間合いの面ではウォーターゴーレムの方が上らしいな。
量産性と汎用力はウッドゴーレムの方が勝っているので、基本はそっちを使うけれども、
……一機か二機くらい、庭に常備しておいてもいいかもな、
水撒き役にもなれるしな。
どうやら、ウチの庭は、もう少しゴーレムで賑やかになるようだ。