140.増える地下資源
水風呂が出来た翌日、俺はサクラやヘスティと一緒に地下のダンジョンに再び潜っていた。
地上を掃除したら次は地下、ということで根元をチェックする為だ。
ついでに、ダンジョンマスターがちゃんといなくなっているかどうかも確認しようと思ったのだが、
「……ん、反応は、もうないね」
「そうですね。ヘスティちゃんの言うとおり、この近辺には一切、存在しておりませんね。主様が一網打尽してくれたお陰です」
ヘスティとサクラの感知で一発で終わってしまったので、用は温泉のみだ。
深いところにある源泉まで歩いていく。ただ、
「……もうついたな」
「着きましたねー」
深いといっても、サクラと半分同期している状態で歩けば、道も簡単に作れるので、辿り着くのは早かった。
数分も掛からず辿り着いてしまった。
まあ、それはいい事なんだけれども、
「……って、ヘスティ。ここまで来ても大丈夫なのか?」
既に源泉が近いのに、ヘスティは離れる事なく付いてきていた。
最初は源泉がやばすぎて近づきたがらなかった筈なのに。
だから心配になって尋ねたのだが、ヘスティは小さな胸を大きくはった。
「我も、この地で過ごして、温泉にも入ったりして、ちょっとは成長してるから。多少は、近づけるようになった」
「おお、そりゃすごいな」
「殆んど、アナタのお陰、だから。ありがとうね」
ヘスティはほほ笑みながら俺の手をギュッとつかんでくる。
俺は何もしてないんだけどな。満足そうな顔をしているから、何も言わないでおこう。
そう思いながら、俺は源泉の出ているくぼみを覗きこんだ。
そこには当然、ボコボコと湧いているお湯が溜まっているのだけれども、
「なんだか湯量が増えてないか?」
この前見た時よりも勢いよく噴き出ているような気がする。
くぼみから溢れんばかりにお湯が溜まっているし。
「あら、そうですね。……地下水脈の水量が増えたのかもしれません」
「そうか。……なら、ここまで来たんだし、水脈の方も見に行くか」
「はい。分かりました、主様」
そして、俺たちは温泉から少しだけ離れた地下水脈の方まで足を運ぶことにした。
●
地下水脈は、ドーム状の空間をしており、中央には水が流れている。
前に見た時と地形は同じだけれども、
「本当に水が増えてるな」
最初に見た時は小さな川ほどだったのに、その川幅が広がっているように思えた。
ただ、最近は雨が多いという訳でもないだろうに、
「どうなってるんだ?」
と、首を傾げていると、ヘスティがポツリと呟いた。
「魔力の濃度、濃い……。だからアナタの余剰魔力を魔石が吸収して、水に変換している、のかな?」
「ああ、その可能性が高いですね。ちょうど先日も、魔石が反応して水を出してきましたし」
サクラとヘスティはうんうんと頷いているけれども、俺にはちょっと良く分からないんだが。
「魔力って水になるのか?」
「そういう変換をする魔石は、ある。地下に埋まっていれば、当然、地下にしみだすから、水量も増える」
魔石ってものは応用範囲が広すぎるな。
アイテム工作とかに使うだけじゃなくて、そんな芸当も出来るのかよ。
「まあ、ここまで大きな変化は普通、しないんだけどね……。おかしいレベルだし」
「おかしい、の部分で俺の事をじっと見るのはやめてくれないか、ヘスティ」
「ん、御免。でも、ここまで水が増えるのは、普通じゃないから。……四大精霊をダンジョンに入れて、環境を良くしたから、こっちも、よくなったのかな?」
そういえばこのダンジョンには精霊も入っていたんだっけな。
今の今まで忘れていたけれども。
「そういった積み重ねが、この水量増加につながった、みたい」
「なるほどな。……でも、水って増えて大丈夫なのか?」
土壌が緩くなったりとか、そういう影響が起きると困るんだけど。
「そういうのは大丈夫ですよ、主様。私は常に最善の状態に保たれますから。なので、単純に水資源が増えた、と思って頂ければ良いと思います」
サクラがトンと自分の胸を叩きながらそう言った。
そういう事なら問題ないか。
「ん、あと、この水流の行先は二股に分かれていて、水を良く使うプロシアと水が不足しがちな武装都市だから。水資源が増えるのは大歓迎されている、と思う」
「ええ、我が家でも、これまで以上に水道水をたっぷり使えますよ!」
ふむ、それは良いな。
水を使い渋った事は無いし、無駄遣いをする気もないけれど、大量に使えるのは良いことだ。
「……そうだな。最近は温泉ばかりだったし、帰ったら家の風呂も使うか」
「はい、我が家(私)を使ってくれると、それだけでも嬉しいです!」
そんなわけでウチの水資源が、とても豊かになったことが判明したよ。