137.ねぎらいと、まったり
食事の後、アンネは魔石を加工する為、カレンはアテナを鍛えるために、と先に帰っていった。
残った竜王は、ラミュロスとヘスティだけだ。
そして、ラミュロスは自分の服に手をかけながら温泉の方に向かっていく。
「ダイチさんダイチさん、脱いだ服はあそこにおけばいいのー」
「好きに置いて入ってくれていいぞ」
「分かったー。わーいお風呂ー」
ラミュロスはささっと服を脱ぐなり、脱衣所の壁に掛けると、洗い場の方に飛び込んで行った。
洞窟の中に潜って多少はドロで汚れただろうし、さっぱりしてもらえばいいか。
「……あ、洞窟で思い出したんだが、ディアネイアの所に竜王が行くとかいう話あったよな。あれはどうなったんだ? ヘスティも行くのか?」
一応、カレンがアテナの所に行ったのは分かるんだけども。ちょっと気になっていたのでヘスティに聞いた。
すると、お茶をすする彼女はこっくりと頷いた。
「あれから話しあって、我と、ラミュロスが行くことになった」
「うん? ヘスティが行くのは分かるが……なんでラミュロスまで?」
「迷惑かけた分のお役立ちがまだ終わってない、とかいっていた、ね。あと、ああ見えて、やる気になった時の分析力は高いから」
確かに、いつものほほんとしている割には、しっかりした言葉で話してくるタイプだな。
ちゃんと体を流してから温泉に入ったりと、マナーはあるみたいだし。
お湯をかぶったりする所作は豪快で雑だけれども。
「まあ、ね。やる気になるまでが長いし、色々と雑だけど、一応、長く生きている竜の一体だから。しっかりは、しているよ。……雑だけど」
なるほどなあ。流石は幼馴染というか旧友というか、よく知っているんだな。
「……そういや、聞いていいのか分からないけど、ヘスティ達って誰が一番、歳くってるんだ?」
見た目と年齢が一致しない連中ばかりだから、その辺の感覚が全く分からないんだ。
一番見た目が幼いヘスティが、かなりの古株らしいしさ。
そう思って聞くと、ヘスティは特に気を悪くした様子もなく答えた。
「んー、年齢は忘れてしまった。けど、二極化してるのは確か、かな。我とラミュロスとカレン、あと一人が同じくらい古くて、アンネともう二人が比較的、新しい」
ふむふむ、なるほど。新しいとか古いとか、きっと竜としての換算なんだろうけれど、新旧はあるんだな。
「ん、古ければ、それなりに知識が蓄積されるし、我と、ラミュロスが行くのがいいと思った。二人で行けば、お互いに情報のチェックが出来るし。……ラミュロス一人だと会話が進まない可能性もあるし」
「そうだな。会話が進むのは大事だな」
ラミュロスとディアネイアを一対一にしたら、話があんまり進まない様な気がするし。
「まあ、そうでなくとも、アンネは自分の事をしたいだろうし、カレンは参加するかもしれないけど、アテナの育成の方に力を注ぎたいだろうから。我とラミュロスが、適任」
流石は全方位気遣いドラゴンなヘスティだ。
しれっと言ってくるが、竜王たちの事情を考えて動くとは。
……ちょっと、ねぎらいたくなってきたよ。
「疲れてないか?」
「大丈夫。アナタが近くにいるから」
「俺が、どうしたって?」
何か俺が近くにいることが、疲労に関係しているんだろうか。
「アナタが周囲にばらまいてる凄まじい魔力に、我の体は慣れてきた。だから、皮膚呼吸するように濃密な魔力を得ているから、常に体力的には回復しているような感じになっている」
「へえ、そうだったのか」
その辺りは知らなかったな。
「だから、アナタのお陰で我、助かってる。……アンネとかと過ごすと、精神的に疲れるけれども」
「おう、そうだな」
この様子だと、肉体的なねぎらいよりも精神的なねぎらいをした方がいいか。
そうであるならば、
「うし、じゃあ、俺たちも温泉に入って疲れを癒すか」
こういうときは、やっぱり温泉だ。
汗を流してさっぱりすれば、多少は心も回復する。
「……ん、我も入って、いいの?」
「当たり前だろ」
言うと、ヘスティはほんの少し顔を赤くして、微笑した。
「んじゃ、入る。――ありがとうね」
そうして、俺は竜王二人と自宅の温泉につかってゆったりすることにした。