13.収穫能力(と威力)強化
俺は昼間から、サクラと共に、ウッドゴーレムの作成をしていた。
今回のゴーレムの用途はひとつ。
「ゴーレムにリンゴの収穫をさせるには、っと」
「最近は木に生るリンゴの数も増えてきましたからね」
もう、手動では取りきれない。
取りきっても食べきれる量ではないのだが、それはそれ。
用途はいくつかある。収穫しておいて損は無い。
だからゴーレムにリンゴを取ってもらおう、と思ったのだが、
「でも、ゴーレムは精密動作が出来ないから、このふっとい腕だと、採れないよな」
「はい、リンゴをなぎ倒してしまいますね」
パワーの調整は出来るけれども。
切り落としてカゴに入れる、とかは無理だった。
せめて、鋭利で堅くて、スパッと切れるものがあればいいんだが。
と、地面を見ると、虹色の薄い板のようなものが突き立っていた。
「これは、この前の小さい飛竜の鱗か」
「そうですね。埋めたら分解されると思ったのですが」
けれど、全然、そのまま残っている。
触ってみると、そこそこ堅い。
少なくとも樹よりは堅い。
「んー」
使えるかもしれない。そう思って、鱗を拾う。
このままではただの虹色の板だが、
「魔力を使えば多少は刃物っぽくなるだろうか」
試してみよう。ゴーレムを作る時と同じ感覚で、素材の形を変える。
薄く、広く、堅く。伸ばして、
「おし、出来た、ドラゴンカッター」
虹色の、綺麗なナイフが出来あがった。鱗が三枚あったので三本ほど。
早速ゴーレムの両手に二本、取りつけて枝を切ってみる。
すると、何の抵抗もなく、枝は切り落とされた。
「おみごとです! 流石は主様の作ったモノ」
「けっこう良いな。切れ味は最高だ」
この調子で、次はリンゴを試してみよう、と思ったのだが、
「主様。モンスターが来てますね」
サクラが指をさした方向を見ると、そこには長い牙を生やしたイノシシがいた。
「ブルルルルル……」
どうやら興奮しているようで、血走ったその目には敵意がある。
というか、走って襲ってきた。
「おう、血気盛んだな」
だが、丁度ゴーレムを作ったばかりだ。
丁度いいので任せることにする。
「ゴーレム、パンチで迎撃」
と、指令を出した瞬間、思い出した。
ゴーレムにはドラゴンの刃が装備されていたことを。
「あっ……!」
気付いた時にはもう遅い。
高速で突っ込んできたイノシシを、ゴーレムはナイフパンチで迎撃した。
「――」
率直にいって、スプラッタなことになった。
カウンター気味に入った刃は、イノシシを見事に真っ二つにしてしまった。
「切れ味……良すぎたな、これ」
「そ、そうですね」
リンゴ畑が血まみれである。
もう少し刃を鈍らせないと、色々な危険だなこれ。
●●●
とりあえず、この血まみれになったゴーレムから刃を抜き出そうとしていると、
「こんにちわー。金を返しに来たのだが――って、うああああ!?」
森の向こうから姫魔女がやってきた。
血まみれ状態の俺とサクラとゴーレムに腰を抜かしている。
「な、なんだこの惨状は!?」
「いや、リンゴの収穫現場の筈だったんだけどなあ」
「どうみても、地獄の集会か何かだぞ!?」
失礼な。
ちょっと強いものを作ってしまっただけだ。
あと、また微妙に漏らしてるな、この姫魔女。
来るたびに腰を抜かしてマーキングしていくとか、犬か何かなのか。
「一体、何をしに来た、ディアネイア」
「う、うむ、金をな。持ってきたんだ」
震える彼女はいつもの革袋を差し出してきた。
「ああ、ありがとう」
「今回は高く売れたので、銀貨八〇〇枚だ」
そうか。使い道がないけど、いつものように貰っておこう。
……この頃は、使い道がなさ過ぎて、食糧を運んでくれる人狼たちに渡したりしているんだけどさ。
それで街のモノから色々と購入しているらしいし、カネは回っているからいいだろう。
悪いことじゃない。
「しかし、アンタも間が悪いな、ディアネイア。モンスターを退治した瞬間に来るなんて」
「モンスター? まさか、こちらに来たのか?」
ああ、来たからこんな血まみれになっているのである。
そこに死体もあるぞ。
「これは……ファブニール。四足モンスターの中では上級な方だが、何故、こんなところに……?」
なんでそんな不思議そうな顔をしているんだ。
この森にはモンスターが普通にいるんだろう。
人狼からも聞いているぞ。
「あ、いや、この種は確かに森にいるのだが……モンスターというのは、野生の勘が強くてな。魔力の豊潤な土地を求めるのと同時に、強者に近づかない傾向にある。だから、幾ら魔力が強くても、貴方のいるこの土地に近づかないと思うのだ」
でも、今しがた襲ってきたばかりなんだが。
「だから不思議なのだ。もしかしたら、それ以外の脅威から逃げてきたのかもしれないな」
ふむふむ、この世界の生物の事はあまり知らないから勉強になるな。
流石は姫。博学だ。
「いや、基本知識なので、あまり褒められている気はしないが。……ところで、貴方の持ってるその刃物は、なんなのだ?」
「え? ただのナイフだけど。ほら、アンタの足もとにも一本落ちてるだろ?」
む、とディアネイアは足元のナイフを拾った。そして、
「え……?!」
驚愕して、目を見開いていた。
「な、なんでこんな所に、極飛竜のウロコが無造作に捨ててあるんだ! しかも加工済みの!!」
「ああ、作ったは良いけど、一本余ったんだよ」
「つ、作った!? 貴方がか!?」
「おう」
言うと、ディアネイアは、ナイフに目を落とした。
じっと、モノ欲しそうに、みている。
「欲しいのか? 欲しけりゃやるぞ?」
「え? ……い、いいのか、こんな魔法の触媒として貴重なモノを……」
「なんだ? そんなに珍しいのか? ただの龍の鱗の刃物だぞ?」
「ただのって……!? ――い、いや、そうか。貴方からすると、そういう認識なのだったな」
ディアネイアはめちゃくちゃ興奮している。
ああ、そういや、飛竜は素材になるんだっけか。
じゃあ、そこそこ価値のあるものなのかな。
いつも配達して貰ってるし、配達料金としては、丁度いいかも知れん。
他に用途がないしな。
「あ、でも、切れ味が鋭すぎて危ないから、それだけは気をつけてな?」
「わ、分かった! では貰っていく。この借りも必ず返すぞ! ちゃんと金は持ってくるから!」
なんかモノを上げたら金が返ってくるのが定番、みたいなやり取りになってきたな。
あの姫魔女は商人か何かの真似ごとでもやっているのだろうか。
「そ、それじゃあ、用も終えたし、私はこれで失礼する!」
「おう、じゃあな」
俺も、このナイフの切れ味を落としたら、帰って寝よう。
それだけで、リンゴの収穫も自動化できるだろうし。
一日一仕事。うん、十分働いてるな。
貰いもので姫の装備は強化されていくスタイル。
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次話で話が結構動く――予定です。朝更新予定。よろしくお願いします!