126.成長の証と力の再生
散歩から帰って来た俺は、ヘスティと一緒に庭に出て話をしていた。
俺の目の前には、淡い光を放つ、透明な石が入った袋がある。
「さて、この精霊石とやらは、どう使えば良いんだ?」
「魔石と同じような使い方は出来る。けれど、魔力の質と柔軟性で、魔石を上回るから、燃料として使うにはもったいない、かな」
ヘスティが言うには、魔石とは根本から違う物質らしい。精霊からしか産出されない石、という時点で、なんとなく違いは分かるけれども。
さて、どうやって使えばいいものか。
「ヘスティには何か良いアイデアあるか?」
とりあえず聞いてみると、ヘスティはゆっくり首を傾げて、俺が持っている杖を指差してきた。
「アナタの杖にくっつける? 柔軟性あるから、頑丈にはなるし、メンテナンスついでに、やってみる?」
「メンテナンスか」
そういえば、ヘスティに貰ってからというもの、結構な回数を使い倒してきた。
確かに一度、調整してもらうのはありかもな。と俺が杖を見ていると、
「ォォォォオ――」
空の方から、一匹の竜が叫びながら突っ込んできた。
竜の言語的にも意味の分からない叫び声だったので何が目的かわからないけれども、
「樹木よ、盾になってくれ」
危ないのでひとまず、樹木を伸ばして盾を作成し、その面でドラゴンを押しとどめた。
「グ!? オオオオオオ!」
勢いを止められたドラゴンは、それでもなお突き抜けてこようと、盾をグリグリ押してくる。
「なあ、ヘスティ。めっちゃ襲ってくるんだけど知り合い?」
「んー、いや。知性とかなくなった奴みたい。殴っちゃって、いいよ。会話出来ないし、我の眷属でも、ないし」
そうか。なら、遠慮なくやっておこうか。
「《ゴーレム》巨大化して殴れ」
一々イメージするのも面倒なので、魔法鍵を使った。
ほんの一秒もかからず立ち上がったウッドゴーレムは、そのまま巨大な腕で竜の顔面をぶん殴った。
「ギ……!?」
そして、ウッドゴーレムの一撃を受けた竜は、そのまま何回転かして森の奥まで吹っ飛んでいった。
「うん、これでよし」
何の問題もないな、と思っていると、
「……なんだか、作成速度と、威力、上がってない?」
ヘスティが竜が吹っ飛んでいった方を見ながら、口をあんぐり空けていた。
「そうかね?」
言われてみれば、微妙に上がったかもしれないな。
昔はもう少しだけ時間が掛かっていたような気もするし。
「確実に早くなってるし、ゴーレムの含有魔力も上がってる……。アナタ、そっちの意味でも、成長しすぎ。すごくビックリした」
「まあ、この前、ヘスティに成長したって言われたしな。全体的にちょっとだけ成長してて、良いんじゃないか」
「ん……ちょっと。そうだね、アナタにとってはちょっとなのかもね……」
ヘスティは拗ねたように言ってくる。またなんか変な事を言ってしまったかな。
ともあれ、成長しているのは良いことだな、と手元を見ると、
「――って杖にヒビ、入ってるじゃないか」
「え?! 本当?」
「ほら、ここ。縦に割れてるだろ」
杖の丁度中心あたりから、ぱっくり行ってしまっていた。
さっきまで無事だったのに、魔法鍵を使って巨大ゴーレムを作ったのが原因なのか。
「んー、そうかも。強く作られていたのに……耐えきれなかったんだね」
「マジか」
「この杖はかなり粘り強く、作っていた。この数カ月、壊れなかったのがその証拠。でも、今のを見たらね。そりゃ、壊れる」
ヘスティは首を横にプルプル振った。
「成長している状態のアナタには、耐えきれず、はじけたみたい。ある意味、成長の証拠」
「あー、そうなのか。でも、勿体ないことをしてる気分だよ」
やっぱり杖を使う時は、力を入れ過ぎちゃ駄目なのかね、と悲しい気持ちになっていると、
「大丈夫。我がいれば、強化補修はできる。アナタに耐えられるもの、我が作る」
「ああ、悪いな、ヘスティ」
「ううん、楽しいから。平気」
「楽しいって、杖を作ることが?」
聞くと、ヘスティは嬉しそうにほほ笑んだ。
「ん、それもそうだけど、我が全力で作った杖をアナタに使われるのも、楽しい。職人として、杖を全力で使ってほしいって気持ちはあるから、ね」
「え? 壊れてもか?」
「壊れたら、改善点を見つけられるから、それも面白い。アナタの成長を見れるのも、嬉しいし」
ヘスティは愛おしそうに杖を撫でながら言ってくる。
「だから、アナタの装備は、私がきちんと、作るから。待ってて」
「おう、それじゃあ、任せたぞ、ヘスティ」
「ん」
そして、ヘスティは精霊石と杖を、ハンマーで撃ち始めた。
カーンカーンと石と木と金属がぶつかる音を聞きながら、俺は午後の時間を過ごして行く。
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