125.貰うものと来るもの
ディアネイアは、庭の外れで手を振っていた。
「祭りが終わったばかりだというのに、尋ねさせてもらってすまないな、ダイチ殿」
「それは良いんだけど。なんでそこで手を振ってるんだ?」
もっと中に入ってくればいいだろうに。
「いや、その……なんだか、庭の方に四大精霊の魔力を感じてな。なにか仕掛け中なのかと思ってしまったのだ」
「うん? 別に何もしかけてないぞ。ただ、庭の環境を良い方向に保って貰ってるだけだ」
「……ああ、だからこの辺りだけ過ごしやすいのか。ちょっと近くまで来た時にはおかしいなと思っていたが。そうか。まあ、ダイチ殿なら仕方ないな」
ディアネイアは一人でうんうん頷いている。なんか引っ掛かる言い方だが、今は気にしないでおこう。それよりも気になるのは、
「その籠は何なんだ?」
ディアネイアが抱えている大きな籠だ。
何を持ってきたんだろうか。
「これは、服を返しに来たんだが……一度私が着用したモノよりかは、新しい服を持ってきた方がいいと思ってな。プロシアで織られた服を持ってきたんだ」
そう言って、彼女は抱えていた籠を開ける。
中には数枚の衣服や肌着、さらに布生地が数種類、入っていた。
「どれが好みか分からないので数種類ずつ持ってきたんだが、手触りなど気になることがあれば言ってくれ」
と、ディアネイアが籠を渡してきたので、俺は中の服に軽く触れる。
手触りは絹糸のようにすべすべしており、着心地は良さそうだ。
「一応、王家専属の職人に作ってもらったんだが、サイズなどにも問題は無いだろうか?」
「ちょっと待て……ああ、大丈夫だ」
軽く自分の体に合わせてみたけれど、きっちり着用できるサイズだった。
「よかった。着やすいものなので、気に行った時に着用してくれると嬉しい」
「おう、ありがとうよ」
そうして俺が籠を一つ受け取ると、ディアネイアは更に背中に背負っていた籠を俺の前に置いた。
「それと、これは別口のお礼だ」
中には、いくつもの野菜が詰まっているが、
「別口のお礼って、なんだ? 野菜に関わることなんて、俺は何もやってないんだけど」
「いやいや、十分なことをして貰っているんだよ。ダイチどのが三日間も街にいてくれたおかげで、近隣の魔力が物凄く高まっていてな。それに関係する産業がとても活発になっているんだ。その中の一つが、これなんだ」
ディアネイアはそう言って、野菜を指示した。
これのどこに魔力要素があるんだろう。
「以前、魔力が豊富になると作物なども育ちやすくなる、と説明しただろう? そして今回、貴方が街に滞在してくれたおかげで、豊作になっているのだ」
「へえ、そういやそんな事を言っていたっけな」
「無論、質も良くなっているぞ」
もしかして小麦粉が美味しくなったのもそのせいなんだろうか。
後々、以前のものと食べ比べしてみようかね。
「ともあれ、わざわざありがとうよ、ディアネイア」
「いやいや、こちらこそ先日は世話になったからな。……ああ、それと、アテナたちがまたダイチ殿と会いたいと言っているのだ」
「アテナが? まだ第一王都とかに帰ってないのか?」
「うむ。まだ城に留まっていてな。それで、ダイチ殿が暇な時にでも、会いにこさせて貰ってもいいだろうか」
暇な時、か。俺は基本的に家で寝ているか、散歩しているか、ゴーレムか庭を作っているかなので、暇といえば暇なんだが。
「そうだな。迷惑をかけないなら、構わないぞ」
「そ、そうか! 良かった。……私も会いに来る正当な理由が出来るし、良いことだな!」
何やらぶつぶつと呟いて、ディアネイアは喜んでいる。
……両拳を握りしめるほど嬉しがられるとは思わなかったな。
なんて俺が彼女を半目で眺めていると、ディアネイアは恥ずかしそうに手を隠した。
「あ、そ、それでは、私は帰ってダイチ殿に許可を貰った事を話して、仕事を再開せねば! 今日はありがとう、ダイチ殿」
「おう、じゃあな」
そうして、ディアネイアはせかせか帰っていった。
仕事や何やらで忙しいのは相変わらずらしい。
「まあ、いいか。俺は散歩だ」
今日は新ルートを試してみるかな。
俺はディアネイアから受け取った籠をウチに運んでから、庭の外や森を歩いて、適度に汗を流す事にした。