116.強化されたモノづくり
午後、俺は店をゴーレムに任せて居住スペースにいた。
あれから調整を加えて、自動で商品を出して、自動で金を受け取るくらいはできるようになったので、あとは放置しておいても大丈夫だろう。
……買いに来るのはどうせ、人狼とか、戦闘ウサギとかだろうしな。
というか、今日も既に一度、人狼やウサギたちは買い込みに来ている。
まあ、その時にゴーレムを試運転して大丈夫そうだったので任せている訳だが。
「ともあれ、こっちはこっちで動くか。なあ、サクラ」
「はい、主様。こちらが、使いきれなかったリンゴの在庫と魔石類です」
そう言ってサクラは、リンゴと魔石を持ってきた。
「ありがとうよ、サクラ。ヘスティから色々作ってみると良いって言われたからな、今のうちにやっちまおう」
「お手伝いしますー」
といっても、小型ゴーレムを作ったり、アーマーを作ったり、この前作った杵を更に大きく太くしていったりと、地味な事ばかりだけど。
「まあ、これも適当に切りあげたら外にでるか」
「了解です。今日は風の日ということもあって、街では風の力で花火が打ち上がるそうですよ。ディアネイアさんが言ってました」
「へえ、今日の出し物は派手だな」
最終日だから、シメという意味もあるんだろうか。
「だったら、早めに店を閉めて街を回ってから、こっちに戻ってきて花火を見るか。人の少ない場所だし」
「ふふ、そうですね。人が一杯いる場所で見物しても、疲れちゃいますし」
もしもこの店から見れないようなら、自宅に戻ってみてもいいかもしれない。
あそこまで成長した我が家の最上階ならば、花火くらいは確認できるだろうし。ずっと楽な体勢で見られるだろう。
「しかし、なんというか、街に来て三日も経つと、家が恋しくなってくるな」
「ふふ、そう言って頂けると私、とてもうれしいですよ」
サクラはそっと寄り添ってくる。
家でもよくやっていたことだけれども、この店でやられるとまた感じが違うな。
そんな事を思いつつ、ながら作業でリンゴを樹木化していると、
「あ、主様。樹木が凄く巨大化してますけど、大丈夫ですか?」
「え?」
見れば、天井と床を突き抜けるほどの高さで、リンゴの樹が出来あがっていた。
「おわ、マジだ。……いつもよりも、調整が難しいぞ」
「へスティちゃんが言っていたように、主様は強化状態になっているようですね」
「みたいだな」
見れば適当に作っていたウッドアーマーの腕も巨大化しているし。
いつも通りに力を込めると、いつも以上の大きさになるようだ。
慣れるまでちょっと大変そうだが、
「でも、魔力が発散してれば直るんだろ?」
「はい。いつも以上に魔力が溜まっているだけですからね。発露するものが強化されているだけですし」
「ならいいさ」
ちょっとでかいウッドアーマーとかゴーレムとか作っておけば、その内、元通りになるだろう。
でかく作っても、店の地下に格納できる場所を作ったから問題ない。
「ああ、この際だ。店の改造とかも一気にやっちまおうかな」
店の周囲には、リンゴの樹木を何百も束ねた大木があるし、それを利用するのもいいだろう。
また、魔石の杵を取りつける部位なども作る必要がある。
……そう考えると、この強化状態は大きなモノづくりをするのに丁度いいかもな。
これは、良い経験になった。
そう思いながら、俺は床に置かれたリンゴを一つ手に取ろうとしたのだが、
「おっとと」
窓から吹きこんできた突風を受けて、リンゴはコロコロと床を転がっていった。
「今日は微妙に風が強いな」
窓を半分ほど閉めた後で、俺は空を見上げる。
青空だが、雲の動きは早めだ。
「風ですか。無事に花火が、上がるといいですねえ」
「そうだな」
そうして俺はサクラと会話しながら、リンゴの樹木で巨大なアーマーなどを作り上げていくのだった。