-side ディアネイア- 経過報告
祭り三日目の午後三時。
ディアネイアは、執務室で書類の処理を行っていた。そして、
「この挨拶のセッティングをして……と。よし、これで終了だ。騎士団長、確認を頼む」
「はっ、かしこまりました」
祭りの最中にやるべき書類仕事は全部終わった。
あとは騎士団長のチェックを終えたら、正式に完了だ。
残りの仕事は、夜のパーティーに向けて来客に挨拶をして、パーティー会場の算段をつけるくらいだ。
「ちょっとした事は残っているが、ようやく一息つけるな」
「お疲れ様です、ディアネイア様」
ぐうっと、ディアネイアは椅子の背もたれを使って背筋を伸ばす。
背後の窓の外から聞こえてくるのは、賑やかな街の様子だ。
「ダイチ殿の力もあって、無事に終われそうで何よりだな」
「そうですね。街中に配備している兵士からも、問題報告は上がってきませんし」
精霊が逃げだしたとか、街中で暴れそうになっているとか、そう言う話を聞いた時は卒倒しそうになったが。
彼が動いてくれたお陰で街の賑わいは保つことができている。
「……普通は、騒ぎを聞きつけたモンスターが寄ってくるのですが、今年はそれすらもありませんでしたね」
「まあ、それは当然だろう。今、この街には異常な量の魔力の持ち主が、幾人もいる。そこで騒ぎを起こすようなものは、中々いないさ」
竜王たちもそうだが、ダイチがいるということが、なによりの防護になっている。
……あれで、コーティングの魔法を掛けている、というのが驚きだが……。
なんにせよ、有難い話である。
「このまま事件もなく、カレンやアテナたちの目的も達した上で、最終日が過ぎればとても有難いんだけどな」
「ええ、これ以上、徹夜作業が続くと、私たちも倒れかねませんからね」
ははは、と騎士団長は目元にクマを作った状態で笑った。
割とボロボロな状況だが、それでもなお動けているのは、
「ダイチ殿が売ってくれているリンゴのポーションがなければ、体がとっくに壊れているがな」
「そうですねえ。あれを飲むだけで、寝不足でフラフラな状態から回復したのはビックリしました。あれを飲むと数分休んだだけで疲れが吹き飛ぶので、部下たちの間でも大人気ですよ」
「はは、全く。何から何まで世話になりっぱなしだな、あの人には」
どこかで、なにか、恩を返さないとなあ。
そう思いながら、ディアネイアが街を眺めていると、
「騎士団長。姫さま、失礼します! 街の兵からの報告です!」
執務室に伝令兵がやってきた。
どうやら、何事も起きない、という願いは通じなかったらしい。
……まあ、元より、ただの希望だったからな。
ショックもない状態でディアネイアは伝令に尋ねる。
「何事だ?」
「街の外部、平原にて竜巻の接近を確認しました」
「竜巻だと?」
「はい、それも相当に強力な魔力を帯びたものです。街に近づいてきているそうです」
魔力を帯びた風、というのは、中々に珍しいもので。
普通の天候はありえないものだ。
だが、それが起きたという事は、
「風の精霊の可能性がある、か」
「そうですな。街の外部で巻き起こったのは不幸中の幸いですが……」
放っておけば近づかれて、街が荒れてしまうだろう。
「至急、アテナとカレンに報告だ。街の外縁にいる兵士を通じて、伝達するのがいいだろう。急ぎで頼む」
「はっ! 了解しました!」
伝令はそう言って立ち上がると、執務室を走り去っていった。
「この時間帯に風の精霊らしきものが出現するとは、アテナ様やカレン様も順調に目的を果たせそうですな」
騎士団長はうんうん、と頷いている。
「そうだな。これで彼女たちの目的も完了だ。全て順調にいってくれれば、私としても嬉しいんだがね」
ただ、これもやっぱり希望にすぎない。
上手くいかなかったときの為に、彼女たちを手伝えるような、自由に動ける時間は作っておくべきだろう。
……何事もなければ、ダイチ殿の所にいけるしな。
「うむ。とりあえず、私は私の業務を終わらせてしまおうか。書類のチェックは済んだか、騎士団長?」
「はい、終了しております」
「よし。では、動こうか」
ディアネイアは執務机から立ち上がり、動き出す。
自分の業務を終わらせて、自由な時間を作るために。
ディアネイアも割とリンゴジュースをがぶ飲みしています。