-side プロシア- 狼狽と今後の事
二日目の夜、ディアネイアはヘスティから水の精霊をダイチが確保したとの報告を受けた。
そのことを聞いた時は驚いたものだが、それをカレンとアテナに伝えたら
「流石にハイペース過ぎませんか!?」
自分以上に驚きを露わにしていた。
というか軽く飛び上がっていた。
「わ、わあ、カレンがここまで取り乱すなんて。ダイチお兄さん、すごいなあ」
アテナは唖然としているし、やはりここまでの速度で精霊を捕まえられると人間はいないのだろう。
予想外を行き過ぎると、びっくりすることしかできないんだなあ、と改めてディアネイアは思う。
「ああ、気が動転するのも無理はない。彼は私たちの想像を飛び越えてくるからな」
「……その割には冷静ですね、ディアネイアは」
「え? いや、これでもびっくりしたんだぞ?」
ただ、少しダイチの凄さと強さに慣れており、憧れや感謝するほうに感情が向いているだけだ。
「うん、流石はダイチ殿だ。精霊すらも支配下におくとは、本当に驚くべきことだよ」
「すーはーすーはー。……そうですね。連日連夜で精霊確保の連絡が来るなんて思いもしませんでした。順調とかを通り越した速度です」
深呼吸して幾分落ち着いたらしいカレンは、静かに頷いた。
「本当だよ。一体につき最低でも一カ月はかかるかなあ、と思っていたのにまさか二日目で二体目を確保するなんて思わなかったね」
「はい。ここまでの事態は、予想できませんでした」
なんというか、彼女らを見ていると昔の自分を見ているようだ、とディアネイアは懐かしさを覚えていた。
「ともあれ、また明日、店を訪ねさせてもらわねばな」
「なんだかちょっと嬉しそうだね、おねえ様」
妹からそう言われて、顔が少し緩んでいる事をディアネイアは自覚した。
いかんいかん、これは公的な話だ、と引き締め直してから、話を続ける。
「明日で祭りは最終日だが、アテナたちはどのように動くのだ」
「ええっとね、とりあえずダイチお兄さんの所に行ってから、土か風の精霊を見つけるために、街の外縁を回ろうと思うんだ」
「外縁を?」
「うん、広い平原になっているから。風も土も豊富だからいるかもしれないって、今日の探索で目星を付けたんだ」
ああ、朝早くから街を回りまくっていたのは探索するためだったのか。
「あとは、城の上階テラスから街を俯瞰してみましたが、精霊が溜まっていそうな幾つかのポイントを発見しましたので、明日はそこを巡ることにもなりそうですね。ディアネイアのご予定は?」
「私は周辺都市から来る客人の案内をしたあと、最終日恒例の花火の用意をするくらいだな」
祭りの最後に、城の上層テラスから大きな花火を打ち上げる。
それが毎年恒例のシメになるので、準備に時間はかかるだろう。だが、
「そうだな。それでも夕方からは時間が出来るが、手伝う事はあるか?」
聞くとアテナは少し考えたのち、
「ううん、大丈夫。出来るだけ私たちでやることに決めているから」
「そうか? ならばいいが、夕方からはこの城に待機しているから、何かあったら報告してくれよ」
「うん、分かったよ、お姉さま」
アテナは小さく頷いた。
その目にはしっかりとした力がこもっている。
「……ダイチの協力もあって、かつてない速度で進んでいますし、明日も一体回収したいですね。これ以上、力を強くされても面倒ですから」
カレンは胸元のペンダントを見ながらそう言った。
その色は昨日よりも更にどす黒くなっていた。
「これは……確かに不味い状態だな」
「ええ、人が集まっているからか、それともこの周辺の魔力が豊富だからか、予想以上のレベルで成長を続けています。ここまで力を持たれると、屈伏させるのが本当に難しくなってきますね」
「なるほど」
竜王であるカレンが言うのだから、本当に強くなっているのだろう。
「気をつけてくれよ二人とも。怪我や事故のないようにな。私も出来るだけ協力するから」
「うん、心配してくれてありがとうお姉さま。私、カレンと一緒に頑張るから!」
「はい、頑張りましょう、アテナ王女」
そして、二日目の夜はすぎていく。