―side 魔女の国プロシア― その国有数の大魔術師と天変地異
深夜、ディアネイアが真っ黒になった飛竜と共に城に変えると、騎士団長が出迎えてくれた。
「ディアネイア様、これは一体!?」
夜遅くまで政務系の仕事しているのは彼と自分くらいである。
だから、こうした特殊事情の獲物の搬入は深夜に行っているのだ。
「一応……私の呪文で焼け焦げた飛竜だ。あとで換金して、国庫にいれておいてくれ」
「はっ……しかしこの鱗の形状は、上級飛竜……!? いや、だとしたら、魔法をはじく鱗がこんな状態になるなんて!」
飛竜は鱗で格の違いが分かったりする。
とはいえ、目利きで慣れていたり、鑑定に熟練したものでなければ、判別は出来ないのだが。
魔法騎士団の団長はその両方の条件を満たしている。
「やはり、上級飛竜だったか」
「ええ、間違いなく! それを黒焦げとは、――もしや姫様、腕をあげましたな?」
騎士団長はニヤリ、と笑った。
「大魔術師から超級魔術師への段階でずっと伸び悩んでいましたが、いやはや、一人で討伐するとは。魔法の元家庭教師としては、嬉しい限りです」
魔術師には一級や二級などの階級わけがあるが、十の次が大。大の次が超となっている。その次が神話級と評され、最上級だ。
つまり、ディアネイアは、この国の尺度で言うと、上から三番目にいる魔術師ということなのだが、
「私は弱いよ。騎士団長」
「またまた御謙遜を。この国で十人もいない大魔術師の貴方が弱いなどと……」
「……違うのだ。これは、彼の、地脈の男の力を借りただけなのだ」
言うと、騎士団長は首を傾げた。
「力を、借りる? それはどういう」
「ああ、魔法騎士団長の君なら分かるはずだが……『上乗せ』をされたんだ。しかも私に触れるだけでな」
「……上乗せを、触れただけで簡単にやってきた……と? それは、何かの間違いでは……」
間違いなんかじゃない。
あの感触は今思い出しても、上乗せだった。
「でも、あれは、儀式をしなければ使えない術の筈ですよ!?」
「ああ、本来ならば、な。でも、触れただけで、やられたよ」
魔力を渡す、という技術は相当に難しいものだ。
下準備がなければ一時的な付与ですら、困難である。
「それが出来るのは、超級魔術師くらいでは……」
「ああ、今でもいるのかどうか知らないが、超級あるいは神話級の魔術師なら出来るだろうな」
国でただ一人、超級を授かった者がいるが、似たような事をやっていた気がする。
伝説や噂レベルでも、そういう逸話はある。ただ、
「注目すべきは地脈の男があっさりやってしまった、という所と、私は彼の手加減によって生存を許された、ということだろう」
「そう、ですね。上乗せは、リスクのある技術ですから……」
強すぎる魔力を注ぎこまれれば、内側から爆発する危険だってある。
だが、それは起きなかった。
……恐らくは、彼の気遣いによって、だ。
幸運かとも思ったが、あの強くて優しい化け物の事だ。
こちらの体を気遣って限界ぎりぎりまで抑えたのだろう。
「まさか、そこまでの魔法を使いこなすとは。ある意味、超級以上の術士ですな」
「こちらの魔術協会に登録はしてないがな。……しかし、あの時は驚くというより、恐怖と敬意を覚えたよ。自分の力がコントロールできないまま放たれたんだ。生きた心地がしなかった」
ただまあ、そうでもしなければ上級竜に食い殺されていただろう。
生き残る芽があった分だけ良かったと、ディアネイアは思う。
「はあ……大変ですな。――ただでさえ、竜王の動きが活発になってきて、危険度が増しているというのに、そんな化物が森にいるなんて」
ああ、そんな報告もあったな。
「飛竜が少なくなったのは、休眠していた竜王が動き出した、というのもあるのだろう、と」
「何故か人狼の襲撃も少なくなってますしね……」
以前は冒険者、商人、豪農と王都の民を無作為に攻撃し、強盗していた人狼が、今では大人しく森の中で暮らしているという。
中には王都の民と交流しているものもいるらしい。まるで一族を率いる存在が代替わりしたかのような変わり具合だ。
「前に確認した時は、イケイケの若手人狼がリーダーだったような気がするが、彼は死んだのか」
「さあ、分かりません。ただ、天変地異の前触れなのかと疑ってしまいますよ」
「本当にな。彼を心配するより、我が国を心配した方が良さそうだ」
ふう、と王都の政務担当者は、二人揃ってため息を吐くのだった。
天変地異(主な原因一つ) 沢山の応援ありがとうございます! それにお応えするためにも頑張って、夜も更新します!