92.街への行き方
とりあえず、三階層分のリンゴを取りだしてみると、中々の量になった。
「ふいー、二〇箱か。かなりの数だな」
「半ば在庫処分ですからね」
ゴーレムに収穫させる量を減らしたとはいえ、時間がたてばたつほど溜まっていく。
俺が新しく樹木にして植林したり、様々な物の材料にしたり、そのまま食ったりと消費するだけでは到底、減らないから仕方ないんだけど。
「さて、あとはこれを運ぶゴーレムを作るだけだな」
俺たちと荷物を運ばせながら街にいくには、大きめのゴーレムを十体くらい作る必要がある。
……ゴーレムの集団行進みたいで見た目は物々しくなるかもしれないが、まあ大丈夫かな。
と、そんなことを思っていたら、
「あのう、ダイチさん。ちょっといい?」
ラミュロスが眠たげな眼をこすりながら、庭に出てきた。
「どうした?」
「あのね、ボクも皆と一緒に街のお祭りへ行きたいんだけれど、いいかな?」
「街へって、別に良いけど、体の方は大丈夫なのか」
昨日落下して、結構なダメージを負っていた筈だが。
鱗もまだ生え換わってないらしいし。
そう言うと、ラミュロスはトンッと胸を叩いた
「こんな魔力の溢れる土地で一杯寝たし、魔力が溢れるダイチさんの近くにいたから、もうかなり回復出来たから平気!」
「すごい回復力だな」
「ダイチさんや皆のお陰だよ。……それにボクも迷惑かけたから、お詫びする為にも、早く治さなきゃって思っていたしね」
ラミュロスは苦笑して頬を掻いた。
「ここまで治れば、ダイチさんや人間さんのお手伝いが出来ると思うんだ。《変身》」
そう言うとラミュロスは、煙を立てて、茶色いうろこを持った竜に変化した。
といっても、先日見た超巨大な竜ではなく、八メートルほどの大きさだ。それでも大きいと言えば大きいが。
「ほら、この姿なら荷物も運びもできるし、いいでしょ? ダイチさんも運んでとべるし」
「おお、そうか」
荷物を含めた移動はゴーレムに任せて、ゆっくりいこうと思っていたんだが、彼女に乗れるなら早くつくので楽かもしれない。ただ、
「先日落下してきた竜が再び飛んでくるってのもアレだから、街の前までで頼むわ」
騒ぎになっても面倒だしな。
そう思っていると、ヘスティがラミュロスの体を撫でた。そして、
「……念のため、我が魔力隠蔽のコーティングをしておく。これを使えば、脅威に見られることは無いから平気」
「おっ、ありがとうよヘスティ」
使えるものは有難く使わせて貰おう。
「って、そうだ。俺も自分のコーティングをして……っと」
久しぶりだが、やり方は覚えている。
自分に空気のアーマーをまとわせる感じで、ほとばしっているらしい魔力を抑えていく。
「どんな感じになってるか、わかるかヘスティ」
「ん、すごく上手い。この前より、しっかり押さえられてる。……練習してた?」
「ああ、暇なときにちょっとずつな」
でも、ヘスティのお墨付きを得られて良かった。
「これで俺の準備も完了だ」
「ではでは、ボクの背中に荷物と一緒に乗ってね」
と、尻を振るラミュロスに、まずは荷物の箱を載せていく。すると、
「ひゃあっ」
ラミュロスの体がビクンと震えた。
「おう、どうした?」
「あ、うん、御免なさい。そこ、鱗生えかけて敏感になってるから、声が出ちゃった」
良く見れば確かに周囲の鱗とは、色が違うな。
「そりゃすまんかった。ゆっくり乗るわ」
「うん、よろしく」
そして、ラミュロスに俺たちは乗り込んで行く。
「それじゃあ浮くから、適当な所にしがみついていてね。一応、鱗と魔力を動かして固定するけど」
そう言ってラミュロスは羽ばたき、体を水平のまま浮かせた。
彼女の鱗は堅い割に柔軟で、荷物や俺達をしっかり固定してくれているようだ。
あとはこのまま楽な状態でちょっと待てば、街に着くだろう。
「お祭り楽しみですね、主様」
「そうだなあ」
賑やかな街並みを見るのは、初めてかもしれない。
そういう意味でも、ちょっと楽しみだ。
「それじゃ、行くよー」
「おう、ラミュロス、頼んだぞ」
「了解!」
そして俺は竜王二人と精霊一人と共に、夜のプロシアに向けて出発した。