8.NO:寝てても強い YES:寝てた方が容赦がない
昼間。
太陽が高く上ったというのに、俺の目は全く冴えなかった。
「ね、眠い……」
布団から出られない。すきあらば瞼が下がろうとする。
「昨日、魔力を使いすぎましたからね」
「そうだな……」
あのリンゴを食べた後、竜の言語が分かるようになったばかりか、体中から力が溢れて来た。
そのまま調子に乗ってトラップを仕掛けまくったのが駄目だった
「この眠気はやばいな、ふああ……」
エナジードリンクを入れて徹夜残業を乗り切った後と同じくらいか、それ以上の眠気がある。
あの黄金リンゴは精力剤みたいな効力もあったようだ。
「寝てしまうのも良いと思いますよ、主様。主様の回復力なら一時間も寝れば、健常に動けるかと」
「あー……魔力の欠乏は……生理的欲求を満たせば回復できるんだっけか……」
この前、サクラから説明を受けていた。
俺が魔力を使うと腹が減るか眠くなる。それは魔力の回復に、食欲と睡眠欲が関わっているから、だそうだ。
魔力を短時間で大量消費したり、慣れない使い方をすると、すぐにどちらかの欲がうずき出すとのこと。今回は睡眠欲らしいが、
「寝たいのは山々なんだけどさ、窓の外に、なんか変なもの見えるんだよね」
リンゴ畑の奥の奥。
そこに緑と青色の水球みたいなものが存在していた。
「あれは、ただの増殖系スライムですね。知能も少ないですし、動きは遅いですが、やはり、この家の魔力を狙っているようです」
「そうか……またいつものか……」
こんな時に来るんじゃないよ、全く。
「私が代わりにやっておきましょうか?」
サクラはこの家の精霊として、かなりの戦闘力があるとのこと。
だから任せれば一発なのは分かるのだけど
「んー、それもいいんだけどさ……ワナのチェックしたいんだよな」
折角しかけた数々のワナ。
それを起動させてみたい。
動きが遅い、というのであればやりようもあるしな。だから、
「ええっと……それじゃあ、こっちきて座ってくれ、サクラ」
「? はい。分かりましたが――」
何をするんだろう、という顔をしているサクラの膝。
そこに俺は頭を載せる。
「あー久しぶりだけど、やっぱやーらけー」
「出会った時以来ですね。でも、なぜ今?」
「この体勢なら、サクラと同期することができるし、寝ながら罠の作動チェック出来るだろ」
「ああ、そうですね」
彼女の体に触れるのが、同期の条件。触れさえしていればどこでもいいのだ。
「んじゃあ、このまま操作して、終わったら寝るから、後頼むわあ」
「了解です、主様」
その声を聞いてから、俺は罠を全て作動させる。瞬間、
ドバアッと土煙を上げて、庭の樹木の全てが動いた。
そして異物を自動的にせん滅していく。
……指示しなくていいって楽だわー。
どうやら全てのワナは問題なく稼働しているようだ。こういう時、投げやりな防衛戦ができるので、トラップを張っておいてよかったなあ、とそう思うのだ。
「きゃああああああ!? なんだ、このバネ仕掛けは――!?」
途中、なんだか、姫魔女っぽい声が聞こえて、吹っ飛んだような気がしたが。
もう無理だ。起きてられない。
「お休み、サクラ。一時間だけ寝る」
「はい、おやすみなさい」
そのまま、構わず寝ることにした。
沢山の反響、本当にありがとうございます。今日も複数回更新させて頂きます! 次話は、夕方か夜には!
(9:50 追記)に、日間1位、ありがとうございます! 本当に有難いばかりで……この応援にこたえられるように、更新がんばりまくります!!