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橙の章 05
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「問題です。今日は何の日でしょうか、お二人さん」
「今日? 何の日だっけ?」
「防災の日ですね」
「ああ、そういえばそうだったね」
「……ちげえよ。いやそうだけど、ちげえよ」
 9月1日。
 今日は大抵の公立高校では始業式が行われている。
 竹の学校も始業式であり、竹にとっても当然今日が2学期最初の登校日になるはずだった。
「オレが言いたいのは、始業式の日にお前ら二人は何してんだって話だよ」
「何って。少なくともここで始業式はやらないでしょ」と蒼い子。
「そうですね。竹さんはここで始業式をやるんですか?」と翠の子。
 二人はあくまで呆け倒す気のようだった。
こっこいつらは――
最近めっきり反抗的になってきた、二人に暗澹とした気持ちで溜息をつく。
――いや、蒼いのは最初からだから翠のが蒼いのの影響を受けた形か。
竹は周囲の人混みを眺める。
どうみても、ここは高校ではない。
なので、勿論こんなところで始業式は行われない。
まあこの地域に住んでいる人は、ここで成人式をやるらしいのだが、竹はこの地域の人でなければ、成人でもない。
そもそも今は間違っても成人の日でもなく、始業式の日だ。
そんな日に、竹と深翠と蒼香の三人は某巨大テーマパークの敷地内にいた。
つまりは2学期早々のサボりなわけである。
 とはいっても、三人仲良く遊びに来たわけではない。
 竹は、結局昨日済ませることが出来なかった用事を済ませに、わざわざ電車に乗り継ぎやってきたのだ。
 用事があろうとなんだろうと普通、高校生は高校に行くべきなのだが、止むに止まれぬ事情というのもある。
 正当な理由とはいえないが、順当な理由ではある。
 一方、蒼香と深翠にはそんな理由なんかありはしない。
 ただ、竹にくっついてきただけだ。
 もっと言ってしまえば、昨日一日仇敵に竹を独占された為に、仕返しとばかりに竹にくっついてきたのである。
 やられたらやり返す。
こんなだから戦争がなくらないのだ。
 まあどんな理由があるにせよ、サボりであることには変わりないのだけれど。
「ついてこられたくなかったら、断ればよかったのに」
「そうですよ。ついてくるなと言われたら、私たちだってついてきませんよ」
「……」
 ぬけぬけとそんな事をのたまう、私服姿の二人に竹は白い目を向ける。

 昨日、といっても既に日付は変わっていたので今日の晩になるのだが、漸く自宅に帰宅しぐったりとしていた竹にメールが届いた。
 メールの相手は十三夜の頭脳、甲斐(かい)輝明(てるあき)
 竹は昨日、怜と宿禰のバイトしていた喫茶店から出た直後に、甲斐にメールをしていた。
 ここのところ、行き当たりばったりの行動が目立っている、と考えていた竹は、今回の話を甲斐に相談し、判断を仰ぐことにしたのだ。
 判断を仰ぐ。
 つまり、竹の中で既にとる行動は決まっていたわけで、それが是なのか否なのか甲斐に聞いたのだ。
 甲斐の答えは完結に是だった。
 更に甲斐は、その先まで読んで親切にもそのメールに策をくっつけておいてくれた。
 策その1、本日、開園と同時にヴィンセントに会いに行く事。
 元々ヴィンセントのところには今日中に行くつもりだったのだが、始業式後で良いだろうと、竹は考えていた。
しかし竹は予定を変更し、疲れ切っていた体に鞭打ち、早起きをして甲斐の言葉通りに、開園に間に合うような時間に家を出た。
まだ人もまばらな電車に乗り、誰も座っていない4人がけの席に腰を下ろし、寝不足で軽く頭痛すらする体を少しでも休ませる為に、乗り継ぎの駅に着くまで俯いて眼を瞑った。
車内に竹が下りる駅の名を告げるアナウンスが流れ、竹がぼんやりと目を醒ますと、
「おはよ」
「偶然ですね」
 いつの間にか前の座席に座っていた、美少女二人が微笑みかけてきた。
「ああ、偶然ですね……ってをい!」
そうして、断る断らないなんてやり取りは、三段飛ばしですっ飛ばして、深翠と蒼香は当たり前のように、くっついてきた。
それから竹は別の頭痛に悩まされることになった。
それでもその時、ついてくるなと言えば、彼女たちはついてこなかっただろう。
 だが竹がそうしなかった理由がある。
策その2、その際、大神深翠と山吹蒼香をなるべく連れて行くこと。
なるべくとあったので、この策には頷かないつもりであったのだが、ああいう状況になったのでは仕方なく、甲斐の策に従うことにした。
結局、竹はいつもの通り、状況に流されたのである。
 回想終了。

 最終的には自分の判断でついてこさせたとはいえ、竹は完全には納得がいかず、白い目を向けたまま二人に聞いた。
「で、何で二人は計ったようにあの電車に乗っていたわけ?」
「偶然」
「たまたまです」
「阿呆か。この期に及んで、嘘をつくな嘘を」
「深翠、あなたの事、阿呆だって」
「それは心外ですね。私の記憶では、私は竹さんよりも成績が良かったはずですが」
「くっ……」
 こいつら、見事に役割分担してやがる。
 今のやり取りはトスとアタックの部分が逆では成立しない、Bクイックだった。
 いつの間にこんなに仲良しになったんだ。
 二人は竹が秋野の館から帰ってきてから、ずっとこんな調子だった。
「なんて苛め過ぎるのも良くないね」
「ですね。少し巫山戯すぎました」
「……もう少し早めに気付いてくれ。……心傷つく」
 基本Sの竹はやられ慣れていないので、割と傷つきやすかった。
 美少女二人にいじられるというのは、その筋の人には喜ばしい事なのかもしれないが、竹は決してその筋の人ではない。
 なので喜びも、悦びもしない。
「それで私たちが同じ電車に乗れた理由だけど、リークがあったのよ」
「リークぅ?」
「はい。昨日の夜中に私と蒼香の携帯に知らない人からメールが届きまして、あの時間の電車に乗らないと後悔することになるとかなんとか」
「はぁ? 何だそれ。……っていうかお前ら二人とも、そんな怪しげなメールを信じたわけか?」
「そうだけど? まあさすがに多少悩んだけど、深翠と相談して結局、信じてみる事にしたわけ。ね?」
「はい。リスクもありますけど、私たちにとって後悔する事といえば、竹さん絡みの事しかないですからね。騙されなければ良し、騙されるなら仕方なし、という感じでしたね」
 普通の顔をして頷く二人に難しい顔をする竹。
いくら二人が自衛の手段を持っているとは言っても、そんな得体の知れない情報をほいほい信じるなんて危険すぎる。
ただでさえ、今は危険な奴等がこの国に来ているというのに。
「だったら何で、オレに直接聞かなかった?」
 竹は怒ったような――否、完全に怒った口調で静かに二人に問う。
「そりゃあ、竹に聞こうと思ったけど、昨日は魔女と一緒にいたんでしょう?」
「だから疲れているかなと思いまして」
 そんな程度の理由で、危険かもしれない場所に踏み込んだだと?
 竹は怒りゲージがMAXまで溜まり、二人を怒鳴りつけようと息を吸い込んだ。
「それに、何か危ない事になったら竹が助けてくれるんでしょ? 神は天使を見捨てたりしないんだよね?」 
「竹さんは私を守ってくれると言いました。私はその言葉を信じていますから」
 ――っ!
 それぞれエメラルドの瞳と、サファイアの瞳を持った二人の少女はそう言って微笑んだ。
真っ直ぐと、信じきった真摯な目で見られた竹は、吸い込んだ息を吐き出して、
「…………阿呆か」と観念したように肩を落として呟いた。
 美少女の輝くような微笑みと、チョコレートのように甘く蕩ける台詞の勝ちだった。
「また阿呆って言われたわ」
「でも、そうかもしれません」
「まあね。お互い、信じている相手が阿呆なんだから」
 くすくす、と月読の巫女と殺戮の天使が笑う。
 その光景を見ながら、竹はやはり自分は美人に甘いなあ、と再認識しながら苦笑いで言った。
「……わかった。今回の事はもう何も言わない。でも約束してくれ、次からは遠慮なんかせずに、何かあったらオレに言ってくる事。お前らの事は助けるし、守るつもりだけど、オレだって万能じゃないからな。すぐに駆けつけれるわけじゃない。……何かあってからじゃ遅いし、嫌なんだよ」
「わかったわ。ごめんなさい」
「ごめんなさい。もうこんな事はしません」
 満足そうに謝る二人だった。
「でも、そのリークした相手って誰だ? ちょっと携帯貸してみて」
 竹が今日、ヴィンセントに会いに早朝に電車に乗る事を知っている人物は、甲斐くらいしかいない。
 その甲斐も竹が何時の電車に乗るかは知らないはずだ。とはいっても甲斐がちょっと考えれば、竹が何時の電車のどの車両に乗るかくらい、簡単に推測出来るのだけれど。
 しかし、甲斐がわざわざ面識のない、深翠と蒼香にメールをするとは考えにくい。
 だが、甲斐の策は深翠と蒼香をなるべく連れて行くように、とのことだった。
 だったらやはり甲斐なのだろうか。
 それとも別の誰か?
 だとしたら誰が?
 竹が思考を巡らしていると、蒼香が何回か携帯を操作して、メール画面を表示してから竹に渡した。
 それを受け取って、メールを読む。
「……うわぁ」
 一瞬で引いた。
 マジで引いた。
 何にって、メール内容もそうだが、それよりも――
「お前ら……よくこんなのまともに取り合う気になったな……」
 チャレンジ精神にもほどがある。
「……まぁ」
「……えぇ」
 本気で呆れたような竹に、二人は半笑いで曖昧に頷いて答えた。

 やあ、こんばんは、美しいお嬢さん。
 本日は僕から君たちへ朗報だ。
 明日の東浜急行本線上り、午前7時17分、新小津発の電車に乗ると良い。
 座席は入って、すぐ左の4人掛けの席がベストだ。
 まっ、乗らなくても良いんだけど、乗らないと後悔する事になるかもしれないな。
 それじゃあ、パレード会場でお会い出来る事を楽しみにしているよ。
 では、また。

 竹はフランクというよりは軽薄で、唐突な内容の文面を眺めながら言った。
「……迷惑メールとか、出会い系サイトに晒されたとか、考えなかったのか?」
 口には出さなかったが、こんなメールを信じて、のこのこ出向いてって強姦されるなんて可能性もなくもない。まあこの二人に限っては、加害者になりこそはすれ、被害者にはそうそうならないのだけど。
 それでも無きにしも非ずだ。
 石橋は叩き割るくらいの勢いで、叩いておくべきだ。
 それで割れる程度なら、渡るべきでない。
 さすがに、こんなメールを簡単に信じてしまうようでは、この先心配になる。
「いえ、さすがに私たちもその文章だけだったら、信じませんでしたよ」
「でも、そのアドレスを見たら多少、何かあるんじゃないかって疑いたくもなるでしょ」
 竹は携帯の上のキーを押して、初めに一瞬だけ甲斐かどうかだけ確認して、流したアドレスをもう一度よく見た。
「ああ、そういうことね。納得したわ」
 差出人のアドレス欄に書かれた横文字は――『edward-elgar.knaighats-no1』
 竹の脳裏に、先ほどの文面そのままの、軽薄で甘いマスクの聖剣使いの姿が浮かび上がった。
お読み頂きありがとうございます。
少し間が空きました。いつの間にって感じです。時間が経つのは早いですね。
枠組みの中身がまだふわふわしてるので、今回はどうしてもシーン毎に走り出しに時間がかかってしまいます。
まあその分、良かった事もあったので、ご勘弁下さい。
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