橙の章 10
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御伽の国の人々と電飾たちの行進が終わり、最後まで残った人々が、現実への帰路へと向かう。
夢の国は最低限の照明を残し、煌びやかな電飾の明かりが落とされ、虚ろな一時の眠りへとつく。
秋の虫たちが静かに、眠りへとついた闇夜の空気を微動させる。
日付はもうじき頂点を跨ぎ、二度と来ない今日という日を終え、新たな今日へと移り変わろうとしている。
今日が死に、
明日が生まれ、
また今日が死ぬ。
その一瞬の閃光。
捉えることが出来ない、陽炎のような刹那の瞬き。
祭りを終え、閉ざされたはずの門の内。
天倉竹は、天から見下ろす、下弦の月に浅く照らされた白亜の城を、意図的ともいえるほどに、最上級の無表情で見据えていた。
その横で背の高い、立っているだけで闇を圧倒するような、屈強さを滲み出す少年、舘花直人がやや困惑気味の表情で竹を見ていた。
竹と舘花の5メートルほど後方には、舘花が困惑の表情を作っている原因。
大神深翠と山吹蒼香が、見ただけでそれとわかる、不満そうな表情で竹の事をねめつけている。
剣呑な空気が、微かに湿った夜に流れる。
「……ねえ、あのままで良いの?」この空気に耐えかねた、舘花が小声で竹に聞いた。
「ん? ああ、別に良いよ」竹は不満そうな表情で答える。
「でも、めっちゃ睨んでんすけど?」
「そんなん知らん」竹の声は心なしか冷たい。
竹の言葉に、視線が一層強くなる。
「知らんて言われてもなぁ」舘花は微妙な表情を作って、蒼香と深翠を横目で見た。
不満そうな表情を、惜しげもなく振舞う美少女二人。
それを見て、舘花は溜息をついた。
ここに到着してからの、やり取りを思い出す。
舘花は帰宅ラッシュを逆行するように、人混みをすり抜け、体育会系らしく約束の23時より五分ほど前に、テーマパーク入り口に到着した。
一応待ち合わせ場所は園内という事だったので、閉じた入り口の門を、荷物を持ったまま一足で軽く飛び越える。
既に閉園していたので、不法侵入になるのだが、幸いにも人目につくこともセキュリティに反応することもなかった。
「ふう」安心したようにほっと一息つく。
基本的に真っ向から戦うタイプの人物なので、人避けや気配遮断などの技術には疎い。
なのでここに到着する前には、かなりの注目を浴びていた。
舘花本人も180センチを超える長身に、服の上からでもわかる隆々とした筋肉。
野性味溢れる顔立ちで、ショートスタイルの髪を茶系に染め、鼻の下と顎に整えたヒゲに、大きめの黒いサングラス。サングラスの下にはやや切れ長の瞳。
その風貌はワイルドなB系の兄ちゃんといった感じなので、人目を引くのだが、それよりも舘花が注目を浴びる理由があった。
彼が右肩から下げている黒い鞄。それは形状だけ見れば、野球のバットを入れる専用の鞄。
しかし、その鞄にはとてもバットが入っているとは思えない。
何故なら、舘花の肩に下げられている黒い鞄は、長身の舘花よりも更に長く、円周は一般的な電柱程もあったからだ。
加えて、舘花は左脇に白い包帯で、ぐるぐるに巻かれた物も抱えていた。
そんな異様なものを肩にぶら下げて、更には抱えて来れば、注目も浴びるだろう。
とはいえ交通手段はさすがに電車ではなく、ハイヤーである。
無論、この料金は後で竹に請求するつもりだ。
舘花が目を凝らして、照明の落とされた周囲を見回し、竹の姿を探すと30メートルほど離れたところにそれらしい人影を発見した。
舘花が人影の方に歩くと、向こうもこちらに気付いた様子で近づいてきた。
近づいてくる人影は一つではなく、三つだった。
「ういっす。お疲れ」お互いの顔を視認できる距離になったところで、竹が片手を上げて挨拶をした。
「お疲れぃっす」舘花は足を止めて挨拶を返す。
「急でごめんよ」そう言って竹が足を止める。
足を止めた竹の後ろには、目を引く二人の女の子がいた。
「おう、別に良いよ」その二人の美人を気にしながら、舘花が言う。
「ああ……おいちゃんは初対面だったっけか?」
竹の言葉に頷く舘花。
「じゃあ一応……こっちが大神深翠。んでこっちが山吹蒼香ね」竹は適当な口調で、簡単に二人の美少女を紹介した。
その紹介の仕方に、一度不服そうな顔して竹を睨んでから、二人の美少女は微笑を浮かべて舘花に挨拶をした。
「初めまして。大神深翠です」
「山吹蒼香です。よろしくね」
舘花は二人の美少女に微笑まれて、ドキリと心臓を反応させて、
「え、あ、どうも。舘花直人です」と一瞬どもりつつも自己紹介兼、挨拶を返した。
竹はその簡素なやり取りが終わると、これ以降は、後ろの二人の一切を無視する、という拒絶の空気を出し始めて話し始めた。
「にしても悪いね、荷物持ってきてもらって」
舘花には、その空気の理由がわからなかったが、視線の先の美人二人はその理由がわかっているようだった。
なので、これは自分の問題ではないと判断し、立ち入らないことにして、竹との会話をする。
「別に、一つも二つも変わらねえから」そう言って舘花は脇に抱えていた、包帯巻きを竹に渡した。
竹はそれを受け取って、確認しながら「うん、これでOK。ありがと」と頷く。
「それで、今回はまたどうしたん?」
「えーっと、ね――」
舘花の質問に、竹は今回の事情を詳しく説明した。
事情を説明される舘花の視線の隅には、ずっと、じいっと竹を睨みながら会話を聞いている、美少女二人の姿が映っていた。
竹があらかたの概要を説明したところで、舘花が頷きながら言った。
「へえ……じゃあ、俺が呼ばれたのはカイカイの策なわけだ?」
「うん、策その5.だね。って言っても、これはその4.が失敗した時用の予備の策だけど」
策その5.もし交渉が失敗した場合、助っ人を呼ぶ事。舘花あたりが望ましい。
「でもそこまで用意しているって凄くね?」
「だな。この展開をどこまで予測できてたと思う?」
「竹にわからないのに、俺にカイカイの考えてる事、わかるわけないじゃん。俺、そこまで仲良くないから」舘花は笑いながら言った。
「それもそうか。まあとりあえず、カイカイ凄えって話なわけだ」竹も笑う。
甲斐が、決闘云々を予測出来ていたのかわからないが、恐らく交渉に失敗した竹が、もう一度交渉をしに行く、程度の事は予測していただろう。
まあ厳密には、交渉ではなく決闘なのだが、そのどちらであったとしても、今の状況では決闘の指定場所に、辿り着くだけでも多大な時間がかかるのは間違いない。
だからこそ助っ人を呼ぶ必要があった。
「んじゃ、俺はその決闘ってのが終わるまで、梅雨払いをしておけば良いってわけっしょ?」
「うん。いくら決闘を約束したとはいっても、連中からしたら、もうオレは敵だからね。多分、近づいただけでも、間違いなく攻撃を加えてくると思う」
「てかさ、自分たちの事を、騎士って謳っている割には、卑怯じゃねえ?」舘花が渋い顔をして言った。
「まあね。でもそんな事言ったら、秩序を乱すべからずって言ってる騎士たちが、宝具を所有している時点で卑怯だろ。まあそうでもしなきゃ、秩序を乱す者たちには、対抗出来ないんだから、仕方ないといえば仕方ないんだけど」
秩序を守るために、
人民を守る為に、
秩序の外にあるモノに頼らざるをえない、
矛盾を抱えた騎士たち。
秩序を守るためならば、
人民を守るためならば、
誇りすら捨てざるをえない、
憐れな守護者たち。
「ああ、でも騎士団の王だけは代々、宝具を所有していないんだっけ?」
「らしいね。秩序の守護者を謳う騎士の上に立つ者として、最低限自分だけは、って思いがあるんだろ。まあそんなだから、代々騎士団の王は、戦場には立たなかったわけだけど」
自分が手を汚したくないから、他人に手を汚させてきた。
竹はそう歴代の騎士団の王たちを理解し、蔑むような口調で言った。
だが竹の理解は間違っている。
騎士団の主。
最初のワーナー伯爵は、自らに力があれば、そんなものは作らなかっただろう。
秩序を守る為であれば、誇りなどドブに捨て、喜んで秩序の外にある宝具を使用した事だろう。
だが彼には、秩序を乱すものに対抗する力がなく、宝具に選ばれる事もなく、戦場に立つことが出来なかった。
だからこそ、彼は莫大な予算を出資して、賞金首ランキングを作成し、騎士団を作ったのだ。
つまり、彼は子孫たちに託したのだ。
いつか、秩序を乱すものに、対抗できるだけの力を持った者が、宝具に選ばれる者が産まれることを。
そして何世代か後に漸く、彼の悲願は達成される事になった。
宝具を持たざるにも関わらず、単体で秩序を乱す者達に対抗し、それらを葬る魔人。
それが征服の名を与えられた、騎士団の歴代の王の中の王、ヴィンセント・ワーナーである。
「まあとにかく、おいちゃんは他の騎士を抑えといて」
「あいよ。――あ、そんでさ、竹がそのヴィンセンとの娘と決闘している間に、俺が抑えておけば良い騎士って、ヴィンセント以外だと誰になるの?」
「1番目と3番目かな」舘花の質問に竹が答えた。
その答えに舘花は、一瞬「は?」という表情で止まり、野太い声で驚きの声を上げた。
「うぇ?! それってマジで? 1番目ってあいつっしょ? あの馬鹿みたいな剣持ってる奴」
「正解だけど?」竹は何をそんなに驚いているんだろう、というキョトンとした表情で頷いた。
その竹の表情に、自分はとったリアクションを何か間違えたのだろうか、と考えを巡らした舘花が、相変わらずキョトンとしている竹に声を落として聞いた。
「――それと3番目って、メッチャ部下の人数多い奴っすよね?」
「だね。100人前後だと思う。だからおいちゃんは、ヴィンセントと騎士団の1番目、3番目とその部下を相手してもらうことになるかな」竹は普通の表情で言う。
「……一人で?」
「そう、一人で」相変わらず、普通に頷く竹。
「……」
舘花はその時、やはり竹の対応が間違っているのだと考え至った。
なので、もう一度驚愕の声を上げた。
「いやいや、それは厳しいから!! ただでさえヴィンセントいるんすよ?!」
その驚愕の声にも動じない竹は、不自然に口元を緩めながら言った。
「んー、まあ大丈夫じゃない? 時間を稼いでもらいたいだけで、別に勝利する必要はないんだし」
竹の不自然な微笑に、舘花は竹が自分がこういう反応を取ることがわかっていて、やっているのだと気付く。
その直後から凄い勢いで、テンションが落ち始める。
「それでも厳しいっすよ。うわー、ちょっと落ちてきた……」
「あっははー。平気平気」
竹は笑顔のまま舘花の肩を軽く叩いた。
「平気じゃねえから。てかそんなんだったら、もっと人呼んでもよかったんじゃない?」
舘花は竹の笑顔に顔をしかめながらいった。
「でも、策だとおいちゃん一人を指名だったし。それにあんまり人呼ぶと、大事になっちゃうじゃん」
「……えっとー、もう既に十分大事っすから」
「ありゃ? そうかな?」
「そうだよ……すげえ帰りたくなってきた。間違いなくカイカイの無茶振りだから」甲斐は、遠回しに自分を殺そうとしているんじゃないか、などと勘繰る。
「いや、大丈夫だって。オレも、おいちゃん一人で良いと思ったし」
「……何で?」まさか竹も自分を殺そうとしているのか、と二度目の勘繰り。
「何でって、別に100人相手でも、おいちゃんなら大丈夫でしょ」
絶対の信頼を置いた目で、竹は舘花を見た。
竹は本気で、舘花一人で十分だと思っている。
たった一人で騎士団の王、1番目、3番目を相手にするという、誰もが耳を疑うような策。
それを本気で達成可能だと信じているのだ。
「……ふう」
舘花は竹の本気度を理解して、溜息交じりに苦笑いした。
竹はその舘花の反応を了承のものだと、判断して満足そうに頷いてから、
「あ、そうそう。それと、あの二人は気にしないで良いから」と付け加えるように言った。
その仕方なさそうな表情を見ると、非情には徹し切れなかった、といった感じだろう。
あるいは、睨まれたまま、一切を無視するという作業が、面倒になったのかもしれなかった。
とにかく舘花はそれを好機とみて、「どうして?」と質問した。
立ち入らないと判断していたのだが、やはり気になる。
正直、舘花の中では騎士団と竹とのごたごたよりも、そっちの方が気になっていたくらいだった。
「さっさと帰れって言っているのに、一向に帰らないんだよ」竹は苦虫を噛んだような、顔をして言った。
舘花にはそれの何が悪いのか、わからなかった。
なので反射的に聞く。
「何で帰そうとしているの?」
「ただの意地悪なの」
「こんな夜中に女性二人だけで、帰れだなんて酷い人です」
待ってました、というほどにジャストなタイミングで蒼香と深翠が発言した。
「え? そうなの?」
「チガウ。全然違う。こいつらが――」
竹の言葉を遮るように、二人は言う。
「意地悪」
「酷い人です」
「え? そうなんすか?」舘花はニヤニヤしながら竹に聞く。
「だから違うから。とにかく、説明するから」竹は頭を掻きながら言う。
「ういーっす。お願いしまーっす」
舘花は、無茶なことを頼まれた、仕返しだと言わんばかりに、先ほどとは態度を一変して、楽しそうにしている。
「楽しそうにしすぎだから……あのね、オレは単純にこの二人を、こういう話に巻き込みたくないの」
「何で?」
「何でって、なんでもだよ」
それは自己満足。
ただのエゴ。
それを自分でも理解している。
だけどこれは譲れない。
解決された者を、物語に引き込みたくはない。
「それに普通に考えて、女の子を巻き込むのは危ないし」
舘花はそう言われて、「別に平気だよ」と言う鬼畜な人物ではない。
なので「そっかそっか」と頷く。
「でも、この二人はさっきからずっと、それを拒否し続けているわけさ。それで、いい加減頭きたから、さっきまで無視してた」
それもまた随分と子供じみた事をするな、と舘花は少し呆れる。
そうやってすぐ切り捨てるのは、竹の悪い癖だ。
その対応は、人によっては逆効果になる。
そして深翠と蒼香は逆効果になるタイプの人物っぽかった。
それは二人の竹に対する、視線と態度を見ればすぐにわかる。
それが分かっていないのは、恐らく竹だけだろう。
いや、察しの良い竹の事だから、頭のどこかでは分かっているのだろうが、何故かその事実を意図的に、気付かないようにしているのだろう。
まあそのどちらにしろ、舘花にとっては羨ましい光景にしか見えない。
なぜなら、この二人はどう見ても竹に気がある。
だからこそ、竹の対応が逆効果になっているのだ。
――そういえば、更に他にも竹に気がある美少女がいるらしい。
モテすぎじゃん。
これが、松の言っていた主人公補正って奴ですか。
話には聞いていたが、羨ましすぎる。
舘花は少しモチベーションが下がってきた。
なので舘花は、蒼香と深翠の擁護に回ることにした。
「別に良いんじゃないの?」
「なっ」竹はまさかの事態に瞳孔が広がる。
「実際、帰るにはもう時間も遅いし。別にここで待っているくらいなら良いんじゃないの?」
深翠と蒼香は味方を得て、ここぞとばかりに言う。
「うん。もう遅いし」
「私たちは終わるまで、ここで竹さんたちを待っていますよ」
「それくらいなら良いんじゃないすか?」
三人の視線を浴びせられた竹は、拗ねたような顔をして、
「……勝手にしろ。オレは知らん」と呟いた。
舘花はそれで纏まったと、思い頷く。
だが残りの二人は納得していなかった。
「そんなんじゃ、私たちが悪いみたいじゃん」
「ですね。ちゃんと納得してもらいませんと」
「知らんと言ったら、知らん」竹は二人に顔を背けて言った。
竹は擁護派回った舘花に、抗議の声を上げたいところではあったが、これから舘花にしてもらう事の労力を考えて、結局怒ることが出来ず、少し機嫌を損ねるだけに留まった。
そして、やや冷たい声で舘花に言った。
「さておいちゃん、そろそろ時間だから行こう」
「お、おう」舘花は、竹の機嫌が悪くなったので、面倒になりそれ以上二人を擁護せず、不満そうな表情で竹を睨んでいる、二人を気にしながら竹の横に並んだ。
竹がテーマパークの中心を目指して歩きだす。
そんなやり取りを終えて、最後の確認だと舘花は竹にもう一度だけ、未だ後方で睨む二人の事を聞いたのだった。
だが、竹は相変わらず冷たい態度だった。
舘花は溜息をついた。
もし追っかけてきたらどうするんだ。
少し見ただけだが、あの二人はそれくらいの行動力がありそうだった。
そう思ったからだ。
横に並んだ竹が、舘花の危惧する雰囲気に気付いたように言った。
「あの二人は、追ってはこないから大丈夫だよ」
「え? どうしてっすか?」舘花は横で早足気味に歩く竹に聞いた。
「どうしてって、どっちの? どうしておいちゃんの、考えている事がわかったのか、と……どうして二人は追ってこないのか、と」竹は脇に舘花に持ってきてもらった、包帯ぐるぐる巻きの物体を抱えながら問うた。
「えっと……とりあえず両方で」舘花は、電柱のような野球用バッグを、来たときと同じように肩にかけて歩いている。
「OK。――一つ目は、あの二人がそういう風に思われる事が多いから。二つ目は、それを除いた時に通常考える事だから」竹は若干大きめの声で言った。
人気のないテーマパークにその声は良く響いた。
もう既にかなり後方になってしまった二人には、その声は届いただろうか。
微妙なところだった。
「……あー、あー、そういうことね」
「そういうこと。だからまあその点で言えば、あの二人が巻き込まれたりする、心配はないといえばない」
「……だったらどうして、あんなにも執拗に早く帰れって言ったの?」舘花は根本からの問題に首を傾げる。
少しずつ、夜の闇に溶けた白城が近づいている。
「いやさ、その心配が無いという前提には、おいちゃんが騎士たちを全て、あの二人のいる場所よりも前線で、抑えておかなければならない、っていうのが前提としてあるから」竹はなんでもない風に言った。
「あ、そっか」舘花は竹の言葉を咀嚼するように、少しだけ間を置いてから、なんでもない風に頷いた。
だが舘花はその言葉の真の意味を、理解できていなかった。
「うん。そう。可能性として、おいちゃんが騎士を全部食い止められなかったり、戦いの規模が大きくなったりすることもあるだろ。だからオレはあの二人をさっさと戦場と成りうる範囲から出したかったのさ。――あ、でもおいちゃん、さっき二人があそこに残る事に賛同してたよね。ってことは、おいちゃんは確実に抑えてくれるわけだ。だったら安心か」竹は物凄く意地の悪い魔女のように、不敵に口元を歪めて言った。
「……あいたたたー」
「まあ、そういうわけだから。とりあえずよろしく」竹が目の前に広がる光景を、見ながら言った。
舘花はその言葉と、同じく目に映ったものに天を仰ぎながら、苦笑いした。
闇が威嚇の牙を研ぎ、夏が終わる夜。
繚乱と降り注ぐ月光を仰ぎ見る、大柄な少年。
その正面には、彼よりも更に背の高い、しなやかな鎧を纏った異国の男が、仁王立ちで待ち構えていた。
「騎士団三番隊隊長。『盾掌』ルートヴィヒ・シュトライヒャー。我が王の命により、ここより先は一歩も通さぬ」
23:51
その鋼鉄のような忠誠心を持った男の言葉が、一夜限りのパレードの開幕宣言となった。
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