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4月9日:灰色の世界
 その日の3、4限目は美術だった。
 あまり寝てられないのが玉にキズだが、割と好きな授業だ。
 ガキの頃はよく無地の広告の裏や、カレンダーの裏に絵を書いたり、粘土で色々作ったりした物である。
 まあ、それぐらいしか遊ぶ物が無かったのだが・・・・・・。
 新年度最初の授業内容は校内写生に決まり、皆思い思いの場所に散っていった。
 俺も目星を付けた校舎裏からの山々の景色を、鉛筆の趣くままに描き始める。
 風景画はあまり得意では無いが、勢いでカバーだ。
 こういう物は、あまり細部には拘らず、気分が乗っている内に一気に完成させてしまうのが吉だろう。凝りだすとキリが無いしな。
 「わあ、川上君早いね。それに上手」
 後ろから仁科が感心した様に声をかけてきた。
 振り返ると、いつも一緒の杉坂と共に手には画材を抱えている。
 まだ、どこで描くか決めかねて散策中といった所か。
 「まっ、飽きる前にさっさと終わらせて、堂々と寝ようと思ってな」
 「アレだけ寝ておいて、まだ寝るつもりなの?」
 「まだ2時間しか寝てないだろ?」
 「2時間“も”でしょ!て言うか、りえちゃんが移動教室だからって起こすまで、朝からずっと寝っぱなしだったじゃない!」
 「ああ・・・いつも悪いな仁科」
 「ううん、別に私は・・・」
 「悪いと思ってるなら、りえちゃんに迷惑かける様なことしないでよ!」
 仁科の言葉を遮り、杉坂は捲し立てる様に言ってソッポを向いた。
 やれやれと仁科と顔を見合わせて苦笑する。
 杉坂の気持ちも解らないでも無いが、眠い物は眠いのだから仕方あるまい。
 しかし、俺が一度も起きなかったとか、ホントによく見張ってやがる・・・。 
 気を取り直して、再び鉛筆を走らせる。
 背後から視線を感じるが、まあ他の奴のを参考にしてるんだろう。
 ぐらいに考え、あまり意識しないようにしていると、仁科が意外な事を訊いてきた。
 「川上君、私達もここで描いていいかな?」
 律儀にそんな断りをいれられる事も意外だが、何より杉坂が嫌がるんじゃ・・・?
 と思ったのだが、当の本人はムスッとしながらも、すでにここで描く準備を始めていた。
 明らかに不満そうだが、いいんだろうか?
 「別にいいけど・・・ここ殺風景だぞ?」
 「うん。あえてこういう所を選ぶのも、川上君らしいよね」
 物凄く遠まわしに確認を取ると、そんな事をクスリと笑いながら言われてしまった。
 “俺らしい”か・・・・・・。
 それはつまり、
 1、光坂の名物とも言える桜並木の坂道や校門付近、またはそこからの町並みといった定番かつ混み合っているであろう場所をあえて避け、地味で穴場的な校舎裏をチョイスする渋さ。
 2、桜や町よりも、雄大な山々をダイナミックに描こうというスケール。
 3、ぶっちゃけ、細々とした物があまりなくて描くのが楽!しかも人も少なくサボるのにも好都合!などという合理的かつ姑息な魂胆。
 4、1〜3全てを踏まえた上でやってる計算高さ。
 ・・・・・・4だとわかっててそんな風に笑ってくれるなら、結婚してもいいな・・・・・・。
 などとアホな事を考えてしまうのは、あくまで秋生さんが昨日変な事を言った所為という事で・・・・・・。
 まあ、仁科もあまり人の多い所は好きでは無い様なので、ここを選ぶのもおかしな事ではないか。
 最近は中学からの友人だという杉坂と同じクラスになった事もあってか、見違える程明るくはなったが、去年の今頃は、ずっと塞ぎ込んでいて誰とも関わろうともせず、俺とは違った意味で浮いた存在だったのだ。
 早退や欠席も多く、授業をさぼった事も何度かあった。
 その頃から杉坂は、心配してクラスが違ってもちょくちょく仁科の様子を見に来ていたのだが、それでも一年の一学期に彼女の心からの笑顔を見る事は無かったと思う。
 まあでも、時が解決したのか、はたまた杉坂の努力の賜物か、じょじょにだが仁科は笑うようになり、今では他の奴等とも普通に話せるし、学校をサボる事も無い立派な優等生だ。
 きっと、これが彼女の本来の姿なのだろう。
 そんな彼女が俺に優しくしてくれる理由は・・・・・・・謎だ。
 いや、たまたま同じ授業をサボって教室や屋上でばったり会ったりとか、他の奴と比べたら話す機会が多かったのかもしれないが、初めの内は明らかに俺を怖がってたし、会話と言っても他愛の無い事を2、3言話しただけで、進展も何も無かった・・・はず。
 浮いてる人間同士、相憐れむ様な親近感でも持ってくれたんだろうか?
 まあ、根が優しい子だし、隣がだらしないから面倒見てくれてるだけで、“俺だからって事じゃないだろう”ぐらいに思っておこう・・・・・・。
 それより、今はコイツを終わらせねば。
 俺は邪念を振り払うように、絵に集中する事にした。



 
 「・・・うし!こんなもんか・・・じゃあ、提出してくるは」
 「えっ!もう!?」
 我ながらの快心の出来に思わず仁科に一声かけると、周囲に居た他の奴らまで寄ってきてしまった。
 「わあ・・・凄いね。雰囲気出てる」
 「だろ?」
 「なんだ・・・出来たって下書きだけじゃない」
 仁科は素直に感心してくれたが、杉坂が呆れた様に難癖をつけてきた。
 「いや、ちゃんと塗ってあるだろ?」
 「鉛筆で濃淡つけただけじゃない。ちゃんと絵の具で色塗る事になってたでしょ?」
 「俺の見ている世界は灰色なんだ」
 「バカじゃないの」
 白い目で暴言をはかれる。
 クッ・・・所詮凡人には真の芸術はわからんのだ。
 「とにかく、これ以上描く気はないから出してくる」
 「勝手にすれば?絶対つき返されるだろうけど」
 「フッ・・どうかな?仮にも美術の教師なんだ。きっと判ってくれる筈だ」
 俺は颯爽と自分の絵を持って、巡回している教師の元へと向った。
 のだが・・・・・・、
 


 「他の奴が真似するから色塗らなきゃ駄目って何だよ・・・・・・!?」
 無粋な美術教師は芸術を解さず、俺は肩を落として持ち場に戻る羽目に。
 「ほら、みなさい・・・当たり前でしょ!」
 ここぞとばかりに杉坂が勝ち誇る。
 「そんなもん、真似する奴が悪いんだろ・・・・・・」
 「つべこべ言ってないで色塗ったら?時間は有るんだし」
 「色塗るの下手なんだよ・・・・・・」
 「知らないわよそんなの」
 そう、俺には絵を描くセンスは有っても、色を塗るセンスは無い。
 今までずっとだ。ずっと下書きは上手いねと言われてきた。
 そして、全て色を塗って台無しにしてきた。
 だったら、初めから絵心なんか無くていいのに・・・・・・。
 自分でも上手く出来たと思っている物を、
 自分でダメにしてしまう悲しさは、
 解る人間にしか解らないんだろう・・・・・・。
 モチベーションはもはや地に墜ちた。
 こんなんで良い作品なんて作れる筈も無い。
 今日はここまでにして寝ちまおう。
 「川上ー、さっさと色塗れー」
 片付けを始めようとした所、丁度教師が巡回に来やがった。
 チッ・・・相変わらず付いてない。
 てか、この教師、まさか俺を見張りに来たんじゃないだろうな?
 「どうしたー?絵の具くらいだせー」
 モミアゲと繋がった顎鬚を蓄え、あまり抑揚の無いとぼけた感じで話すそれっぽい雰囲気の人だが、俺とは感性が合わない事は立証済みである。
 「・・・忘れました・・・」
 「何−?じゃあー、誰か貸してやれー」
 「あっ、良かったら私のを使って。私はまだ暫くかかるから」
 本当に持ってきていなかったのだが、フランクな教師の指示にすかさず反応した仁科が、笑顔で水彩用具一式を差し出してくれた。
 ありがたい。
 その厚意は本当にありがたいのだが・・・・・・。
 「悪いな・・・じゃあ、ちょっとだけ借りるわ・・・・・・」
 「新しく買い換えたばかりだから、遠慮なく使ってね」
 いや、そんな事を言われると、ますます申し訳無い気持ちでいっぱいなんだが・・・・・・。
 かと言って断る訳にもいかず、複雑な気持ちでそれを受け取る。
 これも宿命か・・・・・・。
 観念して水を汲みに行き、そこで一人溜息をついた。
 GWなので少し早めにあげてみました。
 どうでもいいですが、杉坂に下の名前が無いのが本当に不便で、勝手につけてしまおうか悩んでいたり(お
 


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