表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/159

4月14日始動

 智代と別れて教室に入るなり、妙に視線を感じた。

 いや、俺が過敏になっているだけかもしれないが……。

 聞こえてくる話し声の全てが、俺の噂をして笑っているんじゃないかとさえ思えてくる。

 何しろここの連中には、少なくとも智代の面は割れているからな……。

 「お、おはよう川上君」

 「あ、ああ、おはよう仁科」

 お隣の仁科との挨拶もどこかぎこちない。

 特に彼女には一緒に居る所を何度か目撃されてのだ。

 気マズ過ぎる……。

 こんな時はそう、

 「寝よ……」




 寝不足という事もあってか、目覚めた時には二限目も中頃だった。

 当然、即寝に戻る。

 今日は……今日もか、午前中は寝て過ごそう。

 そう心に決めていたのだが……。

 「やっほー!オーキくん、みのりんが来たよ~!」

 休み時間に何か来た!

 てか、ああ、そういやそろそろ来る頃だったか……。

 「はい。りえちゃんにも今週の新聞ねぇ」

 「ありがとう門倉さん」

 「みのりんだよぉ」

 「あ、ありがとうみのりん」

 相変わらずのハイテンションにタジタジになりながら、仁科は門倉から差し出された新聞を受け取った。

 個人向けの通常版である。

 一部10円で、前払いで100円払えば一学期間購読出来てお得。

 俺は払った事無いが……。

 ネタになった個人には無料で進呈されるのだ。

 また、去年一年間でもっとも紙面を賑わせた人間、年間MVP?も一年間ただになるらしい。

 しっかし、生徒会長でも部活をやってる訳でも無い人間が、一番ネタになってる学校と言うのはどうだろう?

 この辺じゃ一番の進学校で、部活にも特待生を迎える程力を入れているにも拘らず、だ。

 まあ、“にも拘らず”どの部も中途半端な成績しか残せてないのだから仕方が無いのだが。

 “文武両道”などと“器用”な事を要求していたり、この御時勢にモロ体育会系だったり、何と言うか、生徒会含めどうにも体質が古臭い。

 正直、これじゃあ才能の飼い殺しもいいところだ。

 ここの誘いを蹴って別の高校に行った知り合いは、一年で全国制覇してのけたってのに……。 

 もっとも、家が道場のあいつには、何処の部活だろうと関係無さそうだが。

 「オーキくぅ~ん、起きてぇ~」

 机に突っ伏したまま寝たふりをしていると、門倉は身体を揺すってきた。

 そろそろ起きておくか。

 何をされるか判らんし。

 「……あのな、門倉……」

 重厚さを演出すべく、少しだけ顔を上げ、くぐもった声で呟く。

 「なあに?」

 「誰があんなデカデカとした記事にしていいっつった!?」

 そして顔を起こすと同時に眉を寄せて口端を歪め、薮睨みで問い詰める。

 「ごめんねえ~。他にいいネタなかったんだよぉ」

 だが、俺のドスを効かせた台詞を、門倉は容易く笑って受け流しやがった!

 クッ、まあ、いつもの事だ。

 「別に普通に説明会ネタでいいだろうが」

 「それじゃつまんないよぉ」

 こいつ……報道部が部活ネタをつまらんとぬかしやがったよ!

 「それにぃ、たんに二人で協力して他校の不良を追払ったって書いただけだしぃ」

 「ほう、『新しい恋の予感?』だの『二人の関係からも目が離せなくなりそう』だのが“たんに”なのか?」

 「それくらいの煽り文句は普通だよぉ。誰も本気にしないってぇ……“事実”でなければねぇ」

 これ以上無い程子悪魔ちっくな、いや、邪悪な悪魔その物の笑みだった!

 うぐぅ、確かにそうなんだ……あれっきり何も無かったのなら、ただのゴシップ記事に過ぎないし、俺もここまで動揺しなかっただろう。

 だがこいつの場合、そこまで計算してやがるから始末が終えない。

 俺とあいつの関係が進展してなきゃ、恐らくトップにはもってこなかった筈だ。

 てか、どこまで知ってるんだこいつは!?

 こいつの話術をもってすれば、智代から洗いざらい聞き出す事なぞ造作も無いだろう。

 いや、むしろ鷹文の時みたいに、自分から喋ってる可能性も無きにしも非ずか。

 それだけは無いと信じたい所だが……。

 「……もういいから行けよ……他のとこにも配るんだろ?」

 やはりこいつとの問答は分が悪い。

 そう悟って体よく追払おうといたのだが、門倉はにんまりと、

 「ううん。この時間はここで終りだから平気だよぉ。配ってるのは私だけじゃないしぃ」

 などと言って居座る気満々だった!

 ま、まだ何かあんのか!?

 身構えながら言葉を待ったが、門倉はにこにこしたまま口を開こうとしない。

 嫌な沈黙に、思わず唾を飲み込む。

 「……な、何だよ?」

 「オーキくんはぁ、眼鏡っ子が好きなのぉ?」

 ゲフゥ!!

 耐えかねて訊くと、眼鏡の奥の瞳をこれでもかと輝かせながら問いで返される。

 驚きのあまり、血反吐が出るかと思った。

 イメージの中では出ていた。

 まさか既にそんな事まで……。

 「あいつのトコにはもう行ったのか……」

 「うん。一限が終わって直ぐ新聞渡しに」

 「そうか……」

 そして新聞を餌に、新たな情報をゲットしてきた訳か……。

 やべえな……本当に何もかも筒抜けになってそうだ。

 そこでふと思ったのだが……こいつは智代について、どこまで知っているのだろう?

 改めて門倉という人間を想う。

 こいつは頭が良いし気転も利く。

 何より俺に決定的に欠けている社交性と豊富な情報網がある。

 これから俺達がやろうとしている戦いを想えば、味方としてこれ程心強い存在は無いだろう。

 それに何より、こいつがあいつを公私共に支えてくれる様な親しい友人になってくれるなら、これ程嬉しい事は無い。

 もちろん最終的には本人同士の問題だろうが……。

 「で、どうなのかなぁ?眼鏡っ子は好き?」

 「……それはいいから、門倉、ちょっと来てくれ」

 ここらで一度どこまでこいつが知っているのか確認しておこうと思い立ち、場所を変えるべく俺は席を立つ。

 「えっ……!ひょっとしてぇ、愛の告白?」

 「もっと大事な事だ」

 門倉の戯言を聞き流し、俺は人気の無い特別教室の方に歩きだした。




 「……つうか、昔言わなかったか?眼鏡をかけてようがいまいが関係ねえって……?」

 周囲に人気の無い事を確認した俺は、歩いている内に思い出した事を言ってみる。

 そういえば中学の時に似た様な事を訊かれ、答えた事があった筈だ。

 「気にしないのと、眼鏡っ子萌えは違うしぃ」

 「だ・か・ら……別に嫌いじゃないが、萌えはねえっての」

 「ええ~、そうなのぉ?ガッカリ~……」

 両腕をだらんと投げ出し、門倉は大げさに肩を落として見せる。

 確か、前答えた時には喜んでいたと思ったが……まあ、いいか。

 「それで、お前は坂上の事をどこまで知ってるんだ?」

 「ん?何でも知ってるよぉ。誕生日は10月14日でえ、血液型はO型。身長161cm、スリーサイズは86、57、82……」

 86か……やはりデカイな……それに引き締まったケツはやっぱやや小さ目……って!

 「いや、そうじゃなくて……てか、そういう事を誰にでもバラしてんのか?」

 「もちろんオーキ君にだけだよぉ。心配しなくても、本人と特別親しくない人に個人情報教えたりしないよう」

 「ならいいが……そうじゃなくて、あいつの過去とか、この学校に来た目的とかだよ」

 「ああ、なるほど……うん。中学の頃から噂は知ってたよ。一部で有名だったし」

 俺の言葉の意味をようやく理解したのか、門倉は一瞬どことなく寂し気な表情をしてから再びいつもの笑顔に戻って答えてくれた。

 やっぱこいつは智代の正体に気付いてたか……。

 でも、その上であいつと普通に付き合ってるのなら、やはりこいつは見所が在る。

 まあ、俺で耐性が付いてるのかもだが……。

 「それでぇ……この学校に来た目的はぁ、『私より強い奴に会いに行く!』……つまり、オーキ君に会う為なんだよね~」

 そんな事まで知ってんのかよ!

 「……あいつがそう言ったのか?」

 「んと、『そうかもしれないな』……って言ってたよぉ」

 わざわざ智代の声真似でクール目に言ってくれる。

 これではっきりしたな……。

 お前やっぱ普通に喋れるだろ!!

 「そうか……じゃあ、あいつがこの学校でやろうとしている事とかは知らないんだな?」

 「うん。ああ、そういえば、いつか話すとか言ってたかもぉ……」

 「そうか……」

 さすがにこいつにもまだ話していないと言う事か……。

 “俺にだけ”ってのも何となく嬉しいが、いづれ仲間に引き込むつもりなら早い方がいいだろう。

 そうだな……それならついでにあいつも……。

 「なあ門倉、お前放課後少し時間とれるか?」

 「えへへ~デートのお誘いかな?オーキ君の為ならいくらでも部活くらいサボっちゃうよぉ!」

 「いや、てか、校内で済む用事だし」

 「ええ~!?そんな学校でなんて……!」

 何やら頬を染めて身体をくねくねさせているが、構わず続ける。

 「まだ宮沢に確認とって無いんだが、坂上と出来ればあいつも交えて資料室で話したい事がある」

 「そんな三人もいっぺんにだなんて……!!」

 何やら瞳をうるうるさせ恍惚としているが、つっこんだら負けだ。

 「まあ、そういう訳だから、放課後頼むな」

 「うん……色々準備して待ってるねぇ!!」

 何をだよ!?

 丁度鳴り出した三限目のチャイムにも助けられ、つっこみたい衝動を何とか耐え切り俺は教室へと帰還した。

DTCも久しぶりに更新したので、よろしくお願いしますw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ