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4月12日:桜下の誓い
 「私だって、一介の高校の生徒会長が公共事業に口出し出来るなんて思ってはいない!だから、この学校の皆の協力を得る為にも生徒会長になる必要が有るんじゃないか!」
 俺の否定的な言葉を聞いて愕然とし、一度失意と悲しみに沈み俯いたが、気丈にもすぐさまキッと瞳に決意を込め反論してくる。
 そうだ。坂上智代はそうこなくては。
 「皆を扇動して何をするんだ?役場を武力制圧でもするのか?」
 「そんな物騒な事をする筈ないだろ!!」
 「お前がクーデターを起こすつもりだと言うなら、手伝わんでもないが……」
 「だからそんな事をするつもりは……って、手伝ってくれるのか!?」
 マジな顔で言ってやると、智代の瞳が期待でキラリと輝く。
 だが、すぐにそれを自重すると再びうなだれて唇を噛んだ。
 「いくら私とお前でも、そんな事出来る筈無いし、例え出来てもそんな乱暴なやり方が良い訳ないじゃないか。二人とも警察に捕まってしまう」
 「でも、まともにやったってまず無理だ。それとも何かコネでも有るのか?」
 「コネ?」
 「地元の有力者とのコネだ。代議士とか大地主とか」
 「そんな物は無い」
 「じゃあ無理だ。諦めろ」
 「そんなの、やってみなければ分からないじゃないか!この学校や町の人達だって、きっと桜が残って欲しいと思っている人は大勢居る筈だ。お前だってそうじゃないのか?」
 「ああ、居るな。それに、伐採計画の反対運動ならずっと前から在った」
 「えっ!?」
 どうやらその事実を彼女は知らなかったらしく、寝耳に水だった様だ。
 「桜を守る為に活動している人達が、既に居るのか?」
 「ああ。計画が持ち上がった当初からな。プラカードもってデモしたり、署名を集めたりしていた。でも、結局計画は遂行され、その人達も今じゃすっかり見なくなった……」
 「……!」
 そう、公共事業に反対する声なんて別に珍しくは無い。
 例え身近に無くとも、TV等で聞いた事くらい誰でも有るだろう。
 ダムで村が沈んだとか、干潟とか、原発とか。
 だが、住民の要望が通り覆る例は稀だ。
 それも、科学的な調査や裁判沙汰に持っていっての結果である事が多い。
 伐採まで一年足らずの今からでは、時間が無さ過ぎる。
 それにだ。
 「そもそも、学校側がそんな活動を容認する筈無いだろ?」
 「どうして?私はこの事を公約にするつもりだ。それで生徒会長になれたのならば、皆から私の考えが支持されたと言う事になるだろ?」
 いつもの様に胸に片手を当て、持論を信じて疑わない無垢な瞳で言い切る。
 やはりこいつは危うい。
 「例え生徒から支持されようと、学校の許可も無しにやれる訳ないだろ」
 「そんなの、私達の勝手じゃないか!」
 「お前が個人でやるならな。でも、生徒会長になってその権限を利用し、他の生徒も巻き込む様なら、学校だって見過ごせないだろ」
 「……学校側は活動を認めないと言うのか?」
 「当たり前だ。そんな活動する暇有るなら勉強しろと言う筈だ」
 「それはあくまでお前の推測だろ?桜並木を守る事は学校の為にもなるんだ。賛同して全面的に協力してくれるかもしれないじゃないか」
 「無いな。いや、個人としては賛成してくれる教師もいなくは無いだろうが、進学校であるウチが学業の妨げにしかならない活動を大っぴらに許す筈ないだろ?そして賛同した生徒達だって、学校を敵に回してまで活動しようとは思わない筈だ。違うか?」
 「……!!」
 俺の指摘に反論出来ず、智代は悔しそうに口を固くむすんで睨んでくる。
 だがそれを冷然として受け流しながら、俺は更につっこみを続けた。
 「それにウチの生徒だってバカじゃない。むしろシビアで利己的な優等生ばかりだ。そんな奴等に『やってみなければ分からない』なんて子供騙し、通用すると思うか?」
 「……じゃあ他にどう言えと言うんだ?とても困難な道だと言う事くらい判っている。でも、可能性は0じゃない。だから『やってみなければ分からない』としか言い様が無いじゃないか」
 「だから、困難なりに先を見通して、大まかでもプランを立てろと言ってるんだ。お前の言ってる事は、“絵にすら書けてない餅”だ。それでついて来る奴なんて、余程のアホか、ヒマ人だけだ」
 「……悪かったなアホで……大まかと言ったって、まず選挙に出て当選しない事には何も始まらないだろ?」
 「だからな……仮に選挙に受かったとして、生徒会の仕事はどうすんだ?」
 「もちろんそれはちゃんとやる」
 「勉強は?成績落ちたら、個人的な活動すら禁止されるぞ」
 「それも現状くらいは維持するつもりだ」
 「で、それらを差っ引いて、お前にどれ程時間が残る?」
 「……生徒会にどれだけ時間を割かれるかが分からない……」
 「訊け!経験者にでも!」
 「ああ、そうか……お前は経験有るのか?」
 「ねえよ!」
 前に言わなかったかそれ!?
 即答すると、彼女は表情を曇らせ言い辛そうに答えた。
 「……生憎、私の知り合いに生徒会長を経験者した人間は一人も居ないんだ……」
 結論はやっ!!
 てか、『知り合い』で検索した結果『該当者一人』とか!?
 「たんにお前が知らないだけだろ……?ウチはここいら周辺の優等生の集まりなんだから、生徒会経験者くらいクラスに何人も居る筈だ」
 「そうか!それは盲点だった……。やっぱりオーキは頭がいいな」
 無邪気に感心されてしまい、頭痛を覚え頭を押さえる。
 ったく、大丈夫かコイツ?
 「後は……門倉にでも相談してみるとかな。あいつそういうのに詳しいから」
 「門倉……?ああ、みのりか。そうだな。来週にでも訊いてみる」
 「とにかく、中学の生徒会長だった俺のダチは、野球部だったけどほとんど部活に出れなかったって言ったろ?それくらいは忙しいって事だ。生徒会長としての職務を全うしつつ、勉強もしつつ、その上でお前は桜を守る活動するって事だぞ?それも伐られる前に。実質、今年いっぱいが期限だろう。そんな限られた時間の中で、やれると思うか?」
 「……やってみせる……!」
 不貞腐れたように俯きかげんで、しかし決意のこもった声で彼女は答えた。
 本当に強情な奴だ。
 もっとも、この程度で折れる様な奴なら、初めからやろうとは思わ無いだろうし、この学校にも編入出来なかっただろうが。
 「……じゃあ、仮に活動出来たとして、具体的に何をやるつもりなんだ?」
 「そうだな……やはりまず直接役場の責任者に掛け合ってみて、それでダメなら署名を集めたりするしか無いんじゃないか?」
 「んなモン、門前払いか、適当に話だけ聞いて体よく『善処します』とでも答えて帰されるだけだ」
 「どうしてお前はそう悲観的なんだ?」
 「お前が楽観的過ぎるんだ。それで中止になるなら、とっくに中止になってる」
 「それは……そうかもしれないが……」
 「そもそも、どうしてこれだけ住民が反対している計画が強行されていると思う?」
 なかなか折れない智代に対し、俺はついに核心をつく過酷な問いを発する。
 しかしやはり智代の表情には、これといって深刻さは浮かば無い。
 「どうしてって……こっちが訊きたいくらいだ……。役場の人間は『頭が固いから』じゃないのか?」
 「……主観だけでなく、色々な人間の立場になって考えてみろ……もし計画が中止になったら、誰が一番困るのかをな」
 「それは計画を立てた役場の人間じゃないのか?」
 案の定な答えをノーシンクで答えてくる。
 「違うな。ぶっちゃけ公務員にリスクはまったく無いし、政治家にだって政策の一つや二つ潰れようが大したダメージは無いだろう。せいぜい今までそれに費やした時間が無駄になるってだけの事だ」
 「それじゃあ……再開発後にここに住む予定の人達や、経済的な効果を見込む人達か?」
 「そんな皮算用どうでもいい。いるだろ?もっと直接的かつ深刻なダメージを受ける人間が……計画が中止されると言う事は、工事自体無くなるって事だ。そうしたら誰が一番困る?」
 「工事が無くなると困る人……?そんな人達が居るのか……?……あっ……!」
 ようやく思い当たったらしくハッとなって顔が上がる。
 「『実際に伐採工事をする人達』……だと言うのか?」
 「そうだ。公共事業は単純にその地域にとって必要な事だけやってる訳じゃない。“仕事を生み出し斡旋する”という目的も有る。然程重要でも何でもない道を作ったり施設を建てたりしてるのは、ある意味その為でも有るからだ」
 だから、建設業界と政治の癒着は産まれ易い。
 そして“とりあえず何か作っとけ”と、安易で大掛かりな箱物や道路に血税を注ぎ込む事に躍起になり、本当に必要な所がおざなりになる。
 結果財政は破綻し、後には莫大な借金と無駄な物しか残らない。
 幾度も繰り返されてきた愚かな政治の典型であろう。
 「伐採工事はもう何年も前から決まっていて、一月以上はかけてやる予定の筈だ。逆に言えば、もし中止になれば工事を請け負う会社は丸々一月以上の仕事と、その分の収入を失う事となる。下請けの孫請け中小建設業なんて、どこもかなり経営が苦しい筈だ。そんな所が一月分の収入を失えば、潰れたっておかしくない。潰れなくとも、人員削減を余儀無くされるかもしれない。そうしたらどうなる?」
 「どうって……?」
 「職を失い路頭に迷う人が出る。そうなれば一家離散や、最悪一家心中だってよく聞く話だろ?」
 「それは……もしかしたらの話じゃないか……お前は物事を悪い方に考え過ぎだ」
 「ああ、そうだな。でも、仮にお前が自分の目的を叶えられたとして、しかしその影で誰かが不幸になっていたらどうする?その恨みの矛先を向けられたら?そして……自分の所為で誰かが死んだら……お前は自分を許せるのか?」
 「ッ!!」
 冷徹な視線と共に“必殺”の気迫を込めて放った俺の問いに、智代は弾かれた様に息を飲んで俯いた。
 公共事業は容易に潰れない。潰せない。
 何故なら“人質”が居るからだ。
 そう、結局皺寄せは最終的に弱者に回ってくる。
 そして、同時にそれが強者の常套句であり常套手段。
 『弱者の為』
 いつでも彼等はそれを大義名分とする。
 自分達こそがそれを盾にしていながら……。
 この世に完全に正しい物など無い。
 誰もが幸福になれる道など有り得ない。
 メリットが有れば、必ず何かしらのデメリットは生じる。
 その“現実”を理解せねば、恐らくいくら声高に叫ぼうと、例えどれだけ多くの署名を集めようと、主張だけでは届きはしないだろう。
 だから知らなければならない。
 自覚し悟らなければならない。
 覚悟しなければならない。
 世界に抗うと言う事は、多くの悲しみと不幸を背負う事だと……。
 


 春の麗らかな午後には似つかわしくない重苦しい空気の中、智代は無言で俯き、俺もまた迷いの中で彼女の答えを待っていた。
 俺は……余計な事を言ったのかもしれない。
 こいつは、家族との思い出の桜を守りたいと言うたった一つの目的の為に、尋常でない努力を重ね、この学校に編入してきた。
 普通の奴なら、その想いを酌み『頑張れ』と応援するのかもしれない。
 なのに俺は現実を突きつけてそれを踏みにじり、やる気に水を注したのだ。
 諦めさせてどうする?
 やる気を失わせてどうする?
 この眩いばかりの輝きを、奪ってどうする!?
 ……そうだ。
 だからこそ、無謀な真似はして欲しくはない。
 こんな勝ち目も無く、傷付くだけの戦いをさせたくはない。
 頑張れなんて、安易で無責任な事を言う訳にはいかない。
 よく『やらずに後悔するより、やって後悔する方がいい』などと言うが、それは本当の後悔や挫折を知らない人間の戯言だろう。
 自分が心血を注ぎ時間をかけやってきた事を、努力を、想いを後悔する。
 それは絶望だ。
 二度と立ち直れないかもしれない程の挫折だ。
 こいつに、そんな思いはさせたくはない。
 この輝きを真に失って欲しくない。
 そう、今なら軌道修正すれば済む。
 こんな短期決戦ではなく、もっと未来に繋がる様な目的を代わりに持てばいい。
 それこそ、『伐採された桜並木を復活させる』とか。
 そうだ。
 智代には未来が在る。
 輝かしい未来が。
 その為にも、今は勉強し経験を積んで力を付けるべき時期なんだ。
 いくら何でも時間が無さ過ぎる。
 余裕が無さ過ぎる。
 こんな所で戦って、こいつの方が潰れてしまっては困るんだ。
 葛藤を経て、俺は決して間違った事は言ってないと確信する。
 しかし、同じく相当の逡巡を重ねたであろう彼女が口にした答えは、やはり俺の意に反する物であった。
 「……私だって、自分がやろうとしている事はとても困難な事であり、そして沢山の人達に迷惑をかける事になるだろうとは思っていた。でも、そう思いながらも、それはその人達の為にもなるんだと、自分は正しい事をするんだと、だからきっと皆も力を貸してくれるだろうと、心のどこかで自分を正当化し、安易な希望を抱いていたんだ……」
 そこまで言って顔を上げ、こちらに向けく。
 その表情は晴れ晴れしく誇らし気ですらあり、目には強い意志の光が宿り一片の淀みも無くキラキラと輝いていた。
 そう正に『坂上智代』らしい、いつもの笑顔だった。
 「お前の言葉で、目が覚めた思いだ……。でもな。もうやると決めたんだ。例えお前が反対しようとも、選挙に受からなくとも、学校が容認してくれなくとも、一人きりでも最後の瞬間まで諦めずやり抜くと決めた事なんだ」
 「……誰かを不幸にしてもか?」
 繰り返す極端な問いに流石に表情が一瞬揺らぐ。
 「それは……わからない。もちろん、そんな事にはなっては欲しくは無いし、なってしまったら、きっと後悔するとは思う……でもな。例えそれでも、私はやるつもりだ。その為に今まで頑張って、この学校に来たんだからな」
 だが、すぐにそれを消し去ると、よりいっそう瞳に力を込め、しかし柔らかく微笑みながらはっきりと決意を口にした。
 無理か……。
 その表情にそれを悟る。
 いや、まあ、初めから解っていた事だ。
 ならば俺も、改めて覚悟を決めよう。
 この危なっかしく愛らしい最強の少女のカテナチオとなる事を。
 「そうか……なら俺も“共犯”になってやる」
 「えっ……!?」
 「手伝ってやると言ったんだ……一度“反逆”とか“クーデター”とかやってみたかったしな」
 「だ、だからそんな暴力で無理矢理解決したりはしない……それでも手を貸してくれるのか?」
 俺の言葉に暫し呆然としていたので、半分本気の冗談を言ってやると、つっこみながらまだ半信半疑といった表情で確かめる様に訊いてくる。
 「ああ、だからそう言ってる」
 「でも、お前は今まで反対してたじゃないか!」
 「そりゃあな。軽々しく『協力する』なんて言える事じゃないだろ?半端な覚悟じゃやるだけ無駄だしな。でも、お前が何が何でもやると言うのなら、一緒に戦ってやってもいい。お前一人じゃ危なっかしいしな」
 「……私を試したのか……?」
 そう低いトーンで訊きながら智代は、俯いて前髪でその表情を隠し、拳を固く握りながら身体をプルプルと震わせた。
 ああ、来るな!
 そう覚悟と準備をしつつ、きっぱりと答えてやる。
 「当然だ」
 「お・ま・え・はぁぁぁっ、どうしていつもいつも私を苛めるんだあああああああああ!!」
 立膝になり、クマの如き咆哮と共に両手を上げ襲い掛かってきた!
 ぽかぽかぽか!
 こちらも顔だけガードしつつ、胸を気の済むまで叩かせる。
 だが、直ぐにそれは止むと、突然タックルさながら胸に飛び込んで来て、そのまま両手が背中に回される。
 そう、いわゆる“べあはっぐ”だ。
 「私は、お前ならときっと解ってくれると思って話したんだ……なのに反対されて……どれだけショックだったと思ってるんだ!?目の前が本当に真っ暗になったぞ!」
 抗議の声がくぐもっているのは、俺の胸に顔を押し当てているからだけじゃあるまい。
 その頭を優しく押さえ、とんとんと背中を軽く叩きながら落ち着かせる。
 か細くも柔らかい身体。
 艶やかな長い髪。
 そして……ん?そういや、いつもと少し匂いが違う。
 制汗スプレーか何かだろうか?
 そういや、朝あれだけ走ったし、体育もあったみたいだからな……自分の汗のにおいを気にして使ったんだろう。
 ……俺はいつもの智代の匂いが好きだ!!
 などと言ったら、また変態呼ばわりされるだろうな……。
 てか、俺も汗だくになったのにそのままだ……。
 そう思うと急に気になり始めた。
 訊くか?
 いや、でも、『くさい』と言われたらもちろんショックだが、前みたく『お前の匂いは好きだ』とか言われたら、それはそれで困るな……。
 てか、コイツも結構変態チックじゃないか!
 「……こんな私について行くのは、余程のアホかヒマ人だけだとも言っていたな……お前もそうなのか?」
 「変態だな!」
 その顔を少し離して上目使いの問いに、思わず考えていた事を口走ってしまった。
 途端、上気していた表情が凍りつき、春だと言うのに空っ風まで吹き始める。
 「……そうか……そうだったな……お前は変態だったな……」
 諦観した様に言いながら、智代は上体を起こし余所余所しく離れていく。
 失言した自分が悪いのだが、何か悔しく寂しい……。
 「そしてお前は、その変態の仲間だ!」
 だから、同類だと言っておく。
 「そ、それじゃあ私まで変態みたいじゃないか!……いいのか?本当に……困難な道だと言う事は、私以上に解っている筈だ……」
 「信用出来ないか?」
 「そうじゃない!お前が傍に居てくれるなら、これ程心強い事は無い!」
 慌てて答えた智代だったが、その表情から不安気な色は消えてはいなかった。
 「なら、“契”でも交わすか?」
 「契か……ち、契ぃ!?」
 一瞬俺の言った意味が理解出来なかったらしく、やや遅れて声を引っくり返しながら驚き、こちらを向いた顔が見る間に紅潮してゆく。
 「嫌か……?」
 「い、嫌と言うか……本気……なのか?いつもの冗談なら止めて欲しい」
 智代は真っ赤になりながらも、警戒しながら瞳を逸らす。
 まあ、いつもがいつもだから致し方あるまい。
 だから、俺も真剣な想いで彼女を見つめて言う。
 「ああ、本気だ……お前とならな……」
 「そ、そうか……わ、私も……お前となら……」
 恥ずかしそうに言った瞳が潤んでいた。
 俺も感無量で胸が破裂しそうだ。
 それをグッと堪え、あくまで粛々と儀式を行うべく、まずはコップにお茶を注ぐ。
 「まあ、桃の花でも無いし、酒でも無いけどいいよな?」
 「う、うん!……と言うか、未成年の飲酒はダメだ……」
 照れ隠しのつっこみも、緊張してかどこかたどたどしい。
 互いに向かい合って正座に座り直し、居住まいを正て暫し見詰め合う。
 微かに震えているのは、ガチガチに緊張しているからだけではあるまい。
 ああっ、舞い散る桜の下で見る智代は、やはり絵になる。
 堪らなく綺麗で可愛い。
 見上げる桜に、心の中で謝罪し誓う。
 例えお前達を犠牲にしようとも、俺はこの子を守り抜く事を……。
 視線を彼女に戻し、アイコンタクトで頷きあって杯を手にする。
 そしてそれを高く掲げ、俺は頭上の桜と“天”に向かって宣言した。
 「我等、生まれた時は違えども、願わくば同年同月同日に死なん!!」
 コップの中身を一気に飲み干す。
 プハァ〜といつも以上に豪快に一息つき顔を上げると、そこにはまだお茶の入ったコップを持ったまま、神妙な顔をしている智代が居た。
 「どうした?誓いの杯だ。飲め」
 「……待て!何かおかしくないか?その……それは確か、『三国志』で劉備達が言っていた台詞だった気がするんだが……?」
 「ああ。今日から俺の事を義兄あにと呼んでくれ義妹いもうとよ」
 親愛の情を込めて言ってやる。
 しかし、愛しき義妹の目からはみるみる光が失せ、真っ白になってしまった。
 「……どうして私が妹なんだ?」
 「そりゃあ、俺とお前なら、俺が兄貴だろ?」
 「そういう事を言ってるんじゃない」
 「じゃあ、お前誕生日いつだ?俺はもう17だ」
 「うっ……10月14日だ……」
 義妹は悔しそうに答える。
 何気にマイシスターの誕生日ゲットだ!
 「ほらな。半年も俺が年上だ」
 「違う……どうして私とお前が兄弟なのかと訊いてるんだ」
 「そりゃあ今契を交わしただろ?義兄弟の」
 「……お・ま・え・はぁぁぁぁぁぁっ……!!」
 俺がぶっちゃけた刹那、智代の身体の小刻みな振動に共鳴する様に大気が振るえ、空には何処からか暗雲がたちこめ、木々がざわめき桜が乱れ散る。
 「どれだけ乙女の心を弄べば気が済むんだぁぁぁあああぁぁぁっ!!」
 「うごっ!!」
 立ち上がると同時に放たれたのは、いつもの前蹴りでは無く、薙ぐ様なローキックだった。
 座ったままの俺には、逃げる事も踏ん張って受け止める事も出来ず、
 パンチラも無しだと!?
 とか驚いてる間にガードの上から吹き飛ばされ、座ったままの体勢で横の樹に激突し、ボロ雑巾の様にズルリと落ちた上から大量の桜がドサ〜ッっと降り積もる。
 こんだけの花びら、何処にあったんだろう……?
 まあ……桜に埋もれて死ぬと言うのも……また一興か……。


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