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第二章 5月4日 ジェットエクストリームアタック

 俺達が陣取ったのは、森の木々の中でも一際大きな大樹の傍に建てられた小屋の跡地だ。

 子供の頃から在る謎の掘っ立て小屋で、もはや屋根も半分無く、所々崩れた壁が残るだけだが、子供達の秘密基地にもなっており、拾い集められ置いてあるテーブルなどで穴をカバーする事で防御は万全、周囲は裏が1メートル程高い段差になっている他は雑草が生えるだけで遮蔽物がほとんどない。

 籠もって迎撃するには打って付けの場所であり、現にニ度目の襲撃を問題無く退けている。

 とは言え、数倍の戦力で距離を詰められ囲まれれば一溜まりも無い。

 オヤジ達の増援は、両側面から挟撃する形で姿を見せた。

 左右ともに三人づつ、ジグザグに交差しながら蛇行してくる。

 どの人も今日初めて見る人達である事から、新手である事に間違いは無い。

 前方の茂みを凝視する。

 元からの5人が接近しているはずだが、人の気配が無い事から距離をとってこちらの出方をうかがっているのだろう。

 籠城すればその5人も攻撃に加わり、燻り出されて前に逃げれば狙い撃ちにされる訳だ。

 つまりここは……後方に逃げるしかない!

 と思って後方の段差を上ろうとすれば、そこにも伏兵が居て狙い撃ちにされるだろう。

 「ここは棄てて右側を突破する。朱鷺戸、援護を頼む」

 「了解!」

 「……」

 俺は距離を詰められる前に拠点放棄を即断し、敵中突破を計り右方に駆け出した。

 既に包囲されたこの状況。

 しかし、敵は恐らく『こちらが包囲されている事に気付いている』事に気付いていない。

 突破するなら、その情報の差を利用するしかないだろう。

 そしてこの包囲網を突破するなら、これしかない!

 ゾリオンの数ある戦法の中でも“反則”に限りなく近く、しかしその難易度ゆえに“あり”とされた言わば“禁じ手”を使う時がきた!

 「二人とも、俺が壁になる!“ジェットストリーム・アタック”だ!」

 「何だそれは?」

 俺の出した指示に智代は首をかしげる。

 当然だ。何の打ち合わせもしていない。

 だが、ここはノリで解れ!

 「とにかく。俺の真後ろに隠れてろ!」

 「こうか?」

 すぐ後をついてきていた智代は、素直に俺の真後ろについた……までは良かったのだが、何故か俺の両肩に手を置いてくる。

 いや、ジェンカじゃないんだから……。

 走り難いから放せと言おうと思った所で、期せずしてグンと体が前のめりに加速した。

 「ちょっ……!?」

 クマさんが後ろからぐいぐいと肩を押してきたのだ。

 そうじゃない……いや、まあいいか……。

 説明するのも面倒だ。

 それに何よりこの戦法はスピードが命である。

 これはこれで本当のジェットエンジンを得たような物だから善しとしよう。

 俺の身体が持てばの話だが……。

 「ええい、ままよ……!」

 覚悟を決めると顎を引いて前だけを見据え、銃でセンサーを隠しながら特攻する。

 「何!?アレはまさか……!?」


 ビイイイイイイーーーーーー!!


 「しまった!!」

 そして、殿の朱鷺戸はさすがに心得ており、こちらの戦法に衝撃を受け棒立ちになっていた捻り鉢巻の魚屋のおやっさんを、すかさず俺達の影から狙い撃ちにした。

 そう、“ジェットストリームアタック”とは、先頭の一人が防御に徹し、それを盾に後続の二人が敵を仕留める攻防一体の戦法である。

 その歴史は古く、ゾリオン発売当時から使用され、その強さから反則扱いにする声も上がった物の、線引きが難しい事や、秋生さんが某連邦の白い悪魔の如く破ってのけた事で攻略法が判明し、ついに反則にはならなかった。

 実際、使いこなすには高い身体能力と、先頭には的確な判断力が、後衛には射撃の腕が求められ、その上で息の合った連携が出来なければならず、子供やおっさん達でやるには限界がある。

 だが、今の俺なら、そしてこの二人とならば、本家の三連星すら超えられよう!

 「いつの間にあんな高度なフォーメーションを!?」

 「あの女の子達も速いぞ!付け入る隙が無い!」

 前方のオヤジ達は仲間がやられた事もあって動揺し、足を止め防御しながら後退り始めていた。

 サバゲー慣れしているとは言え、普通のおっさんだ。

 高速で動く小さな的を狙える腕も、ついていく体力も無い。

 つまり、機動力勝負なら負ける事は無く、あちらにとって最も嫌な事だろう。

 左右を見て、後方を確認すべくちらりと首を捻る。

 「今追ってきてるのは二人、一人は少し止まってたみたいよ」

 視認するより早く、朱鷺戸が背後の状況を教えてくれた。

 ゾクリと鳥肌が立つ。

 怖いな……こいつはどこまで俺を解っている?

 なら、話は早い。

 「頃合か……反転する!」

 「うわっ!!」

 敵の眼前まで迫った所で、俺は指示と共に左足を軸に急旋回し、智代を左手で受け止めながら右手の銃を後方に向ける。


 ビイイイイイイーーー!!


 「ぐわっ!!」

 狙い通り、追いかけるのに精一杯で防御が疎かになっていた左翼の一人を不意打ちでしとめた。

 と言っても、多分当てたのは俺じゃなく、同時に振り向き様に攻撃した朱鷺戸だが……。

 偽撃転殺。

 右を突破すると見せかけ、初めから狙いは左方だったのだ。

 そしてこの策の本当の狙いは、別にある。

 「いきなり止まるな!」

 「反転だって!」

 吐息が当たる程の至近距離で抗議してくる智代を、腕を掴んでクルリと回転させ背を押し離す。

 こいつに抱きつかれてたんじゃ、照準を合わせるどころではない。

 

 ビィーーー!


 などと揉み合ってる間にまた撃墜音が。

 左翼二人目は直ぐに小屋の影に隠れたが、代わりに小屋の先に居た別のおっさんが驚いている。

 恐らく、携帯か何かで伏兵達にこちらの動きを連絡した後、遅れて追いかけてきた人だろう。

 そう、最初のフェイントの本命は、離れた所にいる伏兵に対しての物だ。

 あえて右方に向かう事で、左の一人が伏兵と連絡を取る事で同時に相手にする人数も減り、それによって伏兵部隊も右方に向かわせる事が出来る二重の効果を狙った策。

 もちろん、残りの左の人達には狙いに気付かれ連絡が行くだろうが、この情報のラグと、何より無駄に走らせ体力を奪われる事は、もう若くない人達には相当堪えるはずだ。

 「ほら二人とも、ぐずぐずしてると、あたしが全部倒しちゃうわよ」

 ニヤリと挑発的な笑みを残し、朱鷺戸は颯爽と小屋の影に消え、瞬く間に電子音を響かせる。

 「すげえ……!!」

 感嘆する他無い。

 この女キレ過ぎだろ!

 既に一人で8人を倒している。

 本当に全員倒しちまいそうだ。

 いける!

 ついにあの秋生さんを倒せる時が……。

 と思っていた矢先、いきなり智代がクルリと長い髪を翻し、銃を構えながら後ろに向かって行こうとする。

 「ちょっ、おい!何処行く!?」

 慌ててその手を掴むと、キッとつり上がった目で睨まれた。

 「後ろの人達を倒しに行くに決まってるだろ」

 「バカ、深追いするな。このまま逃げるぞ」

 「どうして?残り二人じゃないか!」

 「もたもたしてっと他の人達も集まってきちまうんだって」

 「なら、その人達もここで倒せばいいじゃないか!」

 「ああっ、もう!」

 「えっ!?」

 このままじゃ埒が開かないと判断した俺は、智代の腹にタックル気味に肩から腕を回すと、そのまま引っこ抜いて担ぎ上げる。

 「こ、こら!!何をするんだ!?放せ!!変態!!」

 「置いてかれる方がいいのか?」

 そして、手足をばたつかせ暴れる駄々っ子をぴしゃりと窘め、そのまま進路の開けた左側に退却した。




 「いい加減下ろしてくれ」

 暫く走った所で、肩越しに智代がぼやいた。

 「追っ手は?」

 「来ていない。多分平気だ」

 まあ、ずっと後ろを向いていたから正確だろう。

 念の為一度振り返って後ろを確認してから、屈んで智代を下ろしてやると、余程恥ずかしかったのか、真っ赤になってむくれていた。

 「変態!」

 「お前が勝手な事するからだ」

 「どうして!?あいつは勝手に敵に向かって行って倒していたじゃないか!!」

 朱鷺戸を指して対抗意識剥き出しでつっかかってくる。

 だが、それに対して俺は溜息で答えるしかない。 

 今回ばかりは役者が違い過ぎる。

 「まあまあ、いいじゃない?今回は坂上さんが守られるヒロイン役で」

 俺が言葉に詰ってると、代わって朱鷺戸がかなり挑発的な事を言った。

 おい、そんな事言ったらますます……!

 「守られるヒロイン役か……確かに、その方が女の子らしいかもしれないな……」

 って、まんざらでも無いらしい!

 これは、このまま押し切りそういう事で納得させるべきだろう。

 「そうだな。今日はそういうポジションにしとけ」

 「なら、オーキが私を守るナイトと言う訳だな?」

 「まあ……」

 「そうか……」

 嬉しそうに笑顔を見せた智代だったが、何かを思いだした様に急に真顔になり、俯き加減で腕を組んで逡巡を始めた。

 「……やっぱり、私もオーキと一緒に戦う方がいい」

 そして出た答えは、やはり姫より戦士がいいらしい。

 女の子らしくなくていいのか?とも思ったが、薮蛇になりそうなので止めておく。

 「まあ、好きにしろ」

 「うん。好きにする」

 単に一周して振り出しに戻っただけの気がするが、機嫌は直った様なので善しとしよう。

 「さて、これからだが……攻めたいか?」

 「攻めたい!」

 そして、不満を思い出される前に餌をぶら下げると、案の定即答で食いついてくる。

 「そうね。この小さい胸のセンサーを狙うには不意打ちするしかないでしょうし、それにはこちらから奇襲か、狙撃する方が確実ね」

 その小さいセンサーを、ここまで8個撃ち抜いた猛者も乗ってきた。

 てか、心臓しか当たり判定のないゾリオンでこれだけ戦果を挙げられるのだから、実弾だったらどんだけこいつは強いんだろう?

 ちなみに、ゾリオン以外の光線銃のシリーズには、頭部につける360°対応のセンサーも有るらしいが、そんなの付けたら直ぐ秋生さんに全滅させられると言う事で採用されなかった。

 「よし、じゃあ反撃といこう。狙いはまず……」

 実は俺も、退却しながらも攻めの策をいくつか考えていたのだ。

 それは、この戦力、と言うか朱鷺戸が居れば秋生さんにも勝算が有ると確信し、試してみたくなったからでもある。

 それなら、商店街の方々にはここで練習台になってもらい、まとめて御退場願う方がいいだろう。

 俺の代案を基に二人と策を練り、俺達はついに攻めに転じた。

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