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第二章 5月4日 リア充狩り解禁

 話し合いを終えた岡崎、春原、渚、杏、椋、ことみ、芽衣の7人は、事前の約束通り隊列組んで森を進んでいた。

 「しっかし、川上も薄情だよね。ぼくらはともかく、智代ちゃんまで置いてこっそり居なくなるなんてさ」

 「あの子って、そういうトコあるわよねえ……試合の後も一人で勝手に帰っちゃうし」

 「川上さんて、クールな一匹狼って感じですよね!」

 「別にいいだろ?今回はチーム戦て訳じゃないんだし。俺らだって、おっさん達を倒したら互いに敵同士になるんだ」

 「朋也くん、朋也くんと敵同士なんて嫌なの……」

 「わたしも、みなさんとは争いたくないです」

 「えっと……、出来れば私も……」

 「いや、それじゃあゲームにならないからな」

 「馬鹿ねえあんた達、優勝したら朋也に何でも言う事きかせられるのよ?」

 「本人が居る前で、よくそんな事が言えるな」

 「そりゃあ、お姉ちゃんはこういうの得意だから勝算もあるんだろうけど……」

 「朋也くん、私が優勝したら、またバイオリンを聴いて欲しいの」

 「そ、それは……また今度な……」

 あまり緊張感もなく、いつもの様に和気藹々と行軍する面々。

 だが、その和やかな雰囲気は、突如響いた空砲によって破られる。

 

 パーーーーーーン!!


 「はうっ!!」

 ピストルの音に驚いた渚やことみ達がビクッとなって目をつぶる。

 そして視界を閉じた彼女達が次に聞いたのは、


 ビィィィィィィィィィッ!!


 間近で鳴り響く電子音であった。

 「えっ!?」

 その音にニ度驚き、慌てて目を開けた渚が見た物は……あろう事か、春原に銃を向ける岡崎と杏の姿だった。

 音のした方向と状況から、撃たれたのは春原で間違い無い。

 あまりに唐突な展開に、渚と椋と芽衣の三人は唖然とし、春原は当然目を血走らせて怒りだす。

 そんな中、ことみだけは事態を把握出来ていないのかキョトンとして首をかしげていた。 

 「おまえら何撃ってんだよ!?」

 「ごめんねえ~。いきなり始まったから、つい」

 「わりい。試しに撃ってみたくなったから、つい撃っちまった」

 怒鳴る春原に対し、当の二人はまったく悪びれもせずニヤケながらまったく同じ言い訳をする。

 確信犯である事は明白だったが、渚は「ついうっかりじゃ仕方無いですね」と信じていた。

 「ついじゃねえよ!!いきなり仲間撃ってどうすんだよ!?」

 「わりい!仲間と思ってなかった」

 「思えよ!!」

 「それより、今のどっちの光線が先に当たったのかしら?陽平わかる?」

 「それよりじゃねえよ!!ほとんど同時だよ!!」

 「センサーにも、どの攻撃が当たったかまでは表示されたりしねえか……」

 「仕方無いわね……じゃあ、あたしか朋也、優勝した方が陽平に命令出来るって事でいいんじゃない?」

 「そうだな」

 「おまえら鬼か!!」

 「おにいちゃん……」

 こうして、春原は開始とほぼ同時に最初の脱落者となった。

 






 

 ビィィィィィィッ!!

 

 俺が容赦なく引き金を引いても、智代はぐっと堪えるように目を閉じ、微動だにしなかった。

 だが、聞こえてきた電子音が、自分の胸からではなく背後からの物であった事に気付き、はっとなって振り返る。

 「あちゃあ、バレてたか……さすがオーキ君だねえ」

 彼女の背後の草むらから、銃を持った恰幅のいいチョビ髭のオヤジが現れた。

 商店街の八百屋のおじさんだ。

 そう、俺が撃ったのは智代ではなく、その背後からこちらをうかがっていたこの人である。

 「オーキ……まさか、今までのは……」

 「ああ、どうやら手遅れらしい」

 「手遅れ?」

 何か言いかけた智代の言葉を遮り、俺は溜息混じりにぼやく。

 それに彼女が首を傾げたと同時に、四方の草むらがざわめき、数人の男達が一斉に現れた。

 「ちっ!」

 「はっ!」

 俺と智代は反射的にその場を飛び退き、銃をかまえる。

 

 ビィィィィィィッ!!

 ビィィィィィィッ!!


 二つの電子音がほぼ同時に鳴った。

 「むっ!?」

 「なぬ!?」

 現れた男達の内の二人、ひょろりとした口髭がダンディな喫茶店のマスターと、額が頭頂部まで及んでいる古本屋のじいさんが驚きながら戦意を喪失し銃を下ろす。

 朱鷺戸だった。

 彼女もまた男達が現れるとほぼ同時に跳躍し、瞬時に二人を撃墜してみせたのだ。

 「二人やられた!?」

 「くっ、なかなかやる!」

 「いったん引くぞ!」

 予想外に手強いと感じたか、瞬く間に男達は散り散りに草むらに姿を消していった。

 八百屋のおじさんが現れてから、この間、僅か10秒程。

 「まるで本物のゲリラね……」

 「何だったんだ今のは?」

 近辺から気配が消えると、朱鷺戸は感心しながら銃を下ろし、智代は事情が飲み込めていないのか戸惑いを見せる。

 「サバゲーの参加者に決まってるだろ」

 「今のがそうなのか……何だか凄いな……!」

 「朱鷺戸、敵がどれくらい居たかわかるか?」

 「そうね。出てこなかった人も含めると、ざっと10人ってトコかしら」

 「10人か……約半分だな……」

 さりげなく銃を抱えてセンサーを隠しつつ顎に手をやり、熟考中のポーズで二人を牽制しておく。

 確認と実力を試す為に訊いたのだが、俺の見立てとほぼ同じ答えが返ってきたので、今襲ってきた敵は10人前後で間違いはないだろう。

 いつものサバゲー参加者が20人前後だから、その半数が組んで襲撃してきた事になる。

 いや、商店街のオヤジ全員グルで、2チーム、もしくは複数の小隊で分散していると見るべきか?

 マズイな……。

 敵が多勢である事や、こちらの位置を捕捉された事は当然だが、何よりこいつら二人と一緒の所を目撃された事が最悪だ。

 智代だけでも結構噂になってるっぽいと言うのに。

 このままでは、『川上さんとこのオーキ君は、とびきり可愛い女の子を二股かけている』とか、町内の噂を独占しかねん。

 位置的に秋生さんと離れている事もあり、間違いなくこちらにちょっかいかけてくるだろう。

 しかし……瞬時に二人を撃破した事といい、隠れていた人数まで言い当てた事といい、やはり朱鷺戸は“かなりやる”ようだ。

 ゾリオンは所詮玩具に過ぎない。

 精度や射程は玩具屋のオヤジさんに改造を施され市販の物よりはるかに向上しているとは言え、精密とはとても言い難いし個々のクセもある。

 それを初めて使い、立て続けに胸の小さな的に命中させるとは……マグレでなければ相当な技量の持ち主やもしれん。

 う~ん……これは戦力的にも朱鷺戸を敵に回すのは危険……か?

 出来ればこれ以上、町内に噂の種をばら蒔きたくないんだが……どうせこっちのクマさんは来るなつっても後からついてきちゃうだろうしな……。

 「ん?なんだ?」

 視線を向けると目が合い、嬉しそうに寄ってくる。

 何か知らんが機嫌は直った様だな……。

 でもまあ、一応釘を刺しておこう。

 「とにかく、ゲームは既に始まってるんだ。緊張感持って“勝つ為に”行動しろよ」

 「そんな事か。言われなくてもわかっている」

 「そうか……朱鷺戸、お前はどうする?一緒に来るか?」

 「ええ。あなた達と一緒の方が楽しめそうだもの」

 「なら、同盟成立だな」

 「やるからには、勝ちにいくわよ!」

 「当然だ」

 不本意ではあるが致し方あるまい。

 こうなったら意地でも勝ち残り、勝利者特権で口封じをするまでだ。





 ゲーム開始から、おおよそ20分が経過していた。

 その間、俺達は地形的に守備に適した場所に陣取り、あえてほとんど動いていない。

 商店街オヤジ連合のニ度目の襲撃があったが、またも朱鷺戸が2人を撃退し、凌ぐ事が出来た。

 どうやら朱鷺戸の腕は本物の様だ。

 これで敵の数はおそらく半分程度となり、こちらとの実質的な戦力差はほとんど無い。

 気の強い智代は、こちらから攻め一気に殲滅したらどうか?と提案してきたが、俺はそろそろこちらにちょっかいを出してくるのをやめてくれるだろうと考え、却下して今暫くの様子見を選んだ。

 バトルロイヤルにおいて、直接敵を倒す事は大して意味は無く、むしろ面子が減れば残った他の者にとっても有利に働く。

 ここで共倒れになって喜ぶのは秋生さんだけだ。

 百戦錬磨のオヤジさん達ならそれぐらい判っているだろう。

 そう高をくくっていたのだが……。

 「また敵が接近してきたわ」

 樹上から斥候をしていた朱鷺戸が下りながら警告してきた。

 だから、そんな所に登ると見えるぞとも思ったが、今は彼女の索敵能力が必要だし、何よりヤブ蛇、いや、ヤブ熊になりそうなので止めておく。

 「直ぐに来そうか?」

 「まだ暫くは余裕がありそうね。奇襲を狙ってるんじゃないかしら?」

 「思ったよりしつこいな……」

 うんざりして頭をかく。

 もはや戦力的優位も無く、地の利もこちらにある。

 それでもまだ攻めて来るのか……。

 「やっぱり、先に倒してしまった方がいいんじゃないか?オーキは古河さんのお父さんを意識しているようだが、あの人達も古河さんのお父さんを狙っているとは限らないんだろ?」

 ここまで戦果なしで面白くなさそうにしていた智代が、再び攻勢を主張してくる。

 確かに、普通に考えればこいつの言う事は正論だ。

 だが、この事実を知って同じ事が言えるだろうか。

 「それは無い。秋生さんはただ強えだけじゃなく、バツゲームも最凶なんだ」

 「一体何を要求されると言うんだ?」

 「パンだ!秋生さんが優勝したら、間違いなく売れ残りのパンを買わされる……」

 「大げさだな……いいじゃないか。売れ残りぐらい」

 「ただの売れ残りじゃねえ!もう忘れたのか?前にお前にも食わせてやっただろ?せんべいパンとかよもぎパンとか」

 「あ……あれか……!」

 ようやく思い出したか、智代の顔色が青くなる。

 「で、でも、食べられないと言うほどの物じゃなかったじゃないか」

 「馬鹿やろう。あれはまだマシな方、危険レベルで言ったら5段階中1か2だ」

 「あれでか……レベル5は一体どれ程凄いんだ?」

 「そうだな……軽くショック状態で泡吹いて倒れるくらい?」

 「そんな物、もはや食べ物じゃないじゃないか!」

 「だから、俺達は秋生さんにだけは負ける訳にはいかないんだ」

 「なるほど……そういう事か……」

 納得がいったか、智代は遠い目をして虚空をみつめていた。

 しかし、今度は地面に下りてきた朱鷺戸が疑問をぶつけてくる。

 「でも、それならどうしてオジサン達はあたし達を執拗に狙ってくるのかしら?」

 「んなモン、若い男女がイチャついてれば狙われるに決まってるだろ」

 「ああ、なるほど」

 「そういう物なのか?」

 朱鷺戸は理解したようだが、代わりにまた智代にハテナマークが燈る。

 さっきはうやむやにしたが、もうぶっちゃけてよかろう。

 「そういう物だ。だから一人で行動したかったんだよ……」

 「なんだ。それならそうと説明してくれればいいじゃないか」

 「説明したら納得したか?」

 「大丈夫だ。私はそんな事は気にしない」

 「俺が気にするんだっつってんだろ!」

 「まったく、オーキは本当に照れ屋さんだな」

 「くっ!!」

 やはり照れ屋さん攻撃がきやがった。

 だから嫌なんだと、どうしたらこの娘は解ってくれるんだろう?

 「だとすると、三人でここに留まってる限り狙われるかもしれないわね……バラバラになって興味を失わせるか、逆にこちらから奇襲をかけて片付けておいた方がいいかもしれない」

 「よし、解散!」

 「そうだ。倒そう!」

 話が振り出しに戻る。

 こんな事続けてると、また襲撃されるだけなんだがな……。

 などと頭を抱えていたその時だった。

 「!」

 俺と朱鷺戸の表情に緊張が走る。

 「敵か?」

 それで智代も察したのだろう。声のトーンを落として訊いてきた。

 「ああ、既に囲まれてる……だが、妙だ」

 「妙?」

 「数が多過ぎるわね……それに来た方向もさっきまでの敵と逆かもしれない」

 「それは……新手と言う事か?」

 「だろうな……敵わないからって、まさか援軍まで呼ぶかよ……!?」

 いくらリア充憎しとは言え、どんだけこっちに執着してんだ!?

 それとも、まさかもう秋生さんが倒された!?

 「どうやらあちらは本気みたいね」

 「だから言ったんだ。こちらから攻めるべきだって」

 「そもそも、俺一人で動いてれば、こんな事にはなってない」

 「はいはい、二人とも、来るわよ!」

 朱鷺戸の合図と共に、ザザーと周囲の草むらが一斉に鳴った。

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