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第二章 5月4日 非情な光弾

 何故こいつがこんな所に……?

 樹の上にいたのは、神出鬼没の謎の女・朱鷺戸沙耶だった。

 2~3メートルはあろうかと言うかなりの高さの枝から、俺に向けて銃を構え立っている。

 “ゾリオン”ではなく、普通の拳銃型のだ。

 しかも、私服のミニスカートから覗く太ももには、よく女スパイとかが付けてる黒いホルダー?らしき物まで巻かれている。

 こいつ……本格派だ!

 「…………ホールドアップ」

 暫し互いに驚いたまま見つめ合った後、朱鷺戸は思い出した様に警告を発してきた。

 だが、俺は銃の脅しには屈せず、毅然と言い放つ。

 「いや、まだ始まってねえし。てか、エアガンの使用は禁止だ。やりたいならこれにしろ」

 つっこみながら右手のゾリオンを掲げて見せると、何故か朱鷺戸は表情を強張らせる。

 「それって、レーザー銃?」

 「レーザーって言うか、チカッと赤外線出る玩具だな」

 「……レーザーにはあまりいい思い出ないのよね……」

 レーザーで悪い思い出って何だろう?

 マジで怪盗でもやってんだろうか?

 それはともかく、今のままでは少々目のやり場に困る。

 「とりあえず降りてこい。スカートでそんなトコに居ると見えるぞ」

 「えっ!?うわぁっ!!」

 忠告が仇となり、驚いた拍子に彼女はバランスを崩し枝から足を滑らせた。

 やべえ!

 俺は咄嗟にそれを受け止めるべく、落下点に向おうとする。

 しかし、数歩進んだ所で俺は上を見ながらその足を止めた。

 朱鷺戸は咄嗟に空いている左手で枝を掴み、自力で落下を防いだのだ。

 「おおっ!」

 「な~んてね。驚いた?……って、何で真下に居んのよ!?」

 確かに驚いたが、俺の位置に気付いて朱鷺戸の方が動揺していた。

 確かにここからだとバッチリピンク色の物が見えてはいたが、それは不可抗力と言う物だ。

 「いや、受け止めようと……」

 「もう、いいから早く離れて!」

 朱鷺戸は慌てて銃を持ったままの右手で短いスカートを押さえる。

 こんな時でも銃は手放さないか……こいつ、プロだな!

 などと感心しながら踵を返して離れようとしたその時、


 パキッ!


 背後から弾ける様な音がした。

 「ちょ、ウソでしょっ!?」

 振り返るとベキベキベキッと彼女が掴まっていた枝が折れ、再び自由落下を始めていた。

 やっぱり落ちるのかよ!

 俺は反射的に再び駆け出した。

 けれど、またも俺の足は途中で止まる。

 彼女は女スパイさながらに、その大きく広がった長い髪がパラシュート代わりにでもなっているかの様に、ふわりと軽やかに地面に着地してみせたのだ。

 「ふう……(今のはさすがに焦ったわ。まったく、いきなり折れるなんて思わない物。多分、落ちそうになって掴んだ時に、負荷がかかって耐え切れなくなったんだろうけど。大体、オーキくんがいけないのよ。いきなりパンツが見えるとか言うから……)驚いた?」

 朱鷺戸は一息つきながら額の汗を拭い、ぶつくさ言いながら乱れた髪を直している途中で手を止めると、さもわざとですよ!と言わんばかりの余裕の笑みでとりつくろう。

 こいつの身体能力も常人離れしてるよな……。

 たまに抜けてるのがアレだが。

 「ああ、色々驚いた。そもそも……」

 「どうしておまえがここに居るんだ!?」

 突如、ガサーッと背後の茂みから現れたクマ娘が俺の台詞を代弁した。

 しまった!

 さては今の騒ぎを聞きつけ戻ってきたか!?

 「あら、坂上さんも居たんだ」

 「悲鳴の様な声が聞こえたが、おまえ達、一体何をしていたんだ?」

 智代は朱鷺戸と俺を交互に疑惑の視線で睨みつけながら、先程とは別の問いを発する。

 マズイな……何か朱鷺戸と密会する為に智代を撒いたみたいに思われてないか?

 「森を散歩してたら、いきなり彼に声をかけられたから、ちょっと驚いただけよ」

 朱鷺戸はしれっと空気を読んだ返答をして、俺にウインクしてみせる。

 ナイス!……と言いたい所だが最後のは余計だ。

 「本当か?」

 「まあ、そんなトコだ」

 「それより、何か面白そうな事をやってるみたいじゃない?あたしも混ぜてもらえないかしら?」

 そして朱鷺戸はさりげなく話題をすり替える。

 智代は依然不機嫌そうだが、まあ嘘はついてないし。

 にしても朱鷺戸の奴、サバゲーに乱入する気だったのか?

 真意の方は定かではないが……智代の所為で訊く機会を逸してしまった。

 「無茶を言うな。例え私達がよくても、そういう事はちゃんと他の人達にも確認をとる必要があるだろ?」

 「やりたいなら広場行ってみろ。まだ余ってるかもしれんし」

 「わかったわ。行ってみる」

 「ああ、銃だけでなく、センサーの方も持って来いよ。それと、もう直ぐ始まるから急いだ方がいい」

 「ラジャー!」

 難色を示す智代を遮り銃の在りかを教えると、朱鷺戸は笑顔で敬礼しながら走っていった。

 こういう時は、さっさと行ってもらうに限る。

 さて、後はこっちのむくれてる奴をどうにかせねば。

 「いいのか?勝手にあいつの参加を認めて」

 「問題無い。てか、俺らだって参加者全員把握出来てねえし」

 「それはそうだが……」

 「むしろ、秋生さんも知らないイレギュラーな存在が居る意味はデカイ。これで少しは勝ち目も出てくるかもな……」

 それが、優れた運動神経を持ち、恐らくサバゲー経験者であろう、マイエアガンを持つ女・朱鷺戸なら最高の伏兵となってくれるやもしれない。

 「何だ?おまえも古河さんのお父さんを警戒しているのか?あの人はそんなに強いのか?」

 「ぶっちぎりでな……秋生さん一人と残り全員で戦っても、勝つか負けるかわからん」

 「そんなにか……なら、どうしてみんなと一緒に行動せず、独りで行ってしまったんだ?そんなに手強い相手なら、尚更みんなで協力すべきなんじゃないか?」

 「なら、お前はそうしろ。俺は独りで行動する」

 不思議そうに問いかけてくる智代を、あえて突き放すように言って俺は歩きだす。

 「待て!」

 だが、やはり簡単には逃がしてはくれず、腕を掴まれ阻まれる。

 「どうしてそういう事を言うんだ?おまえの事だ。何か考えがあっての事なんだろう?ちゃんと話してくれ」

 「放せ。それぐらい自分で考えろ」

 「わからないから訊いてるんだ!」

 俺はあくまで冷たく腕を払い行こうとしたのだが、智代はムキになって今度は両手でしがみつき、必殺の柔らかバストアタックで俺の理性を破壊しにきた。

 くっ……おのれ……だから見つかりたくなかったんだ!

 「ちゃんと理由を説明……」

 「お待たせ~!光線銃持ってきたわ!」

 おまけに朱鷺戸までが最悪のタイミングで戻ってきやがった!

 しかも、お待たせって!

 「どういう事だ!?まさか、こいつと二人っきりで行動するつもりだったのか!?」 

 やっぱりそう思いますよね~!

 「違う!朱鷺戸が勝手に言ってるだけだ!」

 「ん?一体何の話?」

 「おまえはオーキと一緒に行動するつもりなのか?」

 「え?ん~、その前にルールとかわからないから、とりあえず彼に訊きに来たんだけど」

 「……そうなのか?」

 「だから、俺は知らんて」

 智代はまだ疑っているようだったが、ひとまず朱鷺戸の答えを聞いて怒を和らげる。

 腕はホールドの方は、益々締め付けられ痛いぐらいだが……。

 それにしても朱鷺戸の奴、いくらなんでも戻ってくるの早過ぎないか?

 



 「なるほど。手を組んでもいいわけね」

 一通りルールを説明すると、朱鷺戸はようやく納得いって頷く。

 「そうだ。それなのにオーキはわざわざ単独行動しようとしているんだ。おかしいと思わないか?」

 「そうかしら?あたしは何となくわかるけど」

 自信有り気な微笑でそう答えた朱鷺戸に、智代はムッとして目を座らせる。

 「ほう……なら、どういう理由なのか聞かせてもらおうか」

 「いいわよ。つまり……」

 その時だった。


 パーーーーーーン……!!


 サバイバルの始まりを告げるスターターピストルの炸裂音が森に響き渡る。

 

 ザッ!!


 俺は反射的に半身になって胸のセンサーを庇いながら後方に飛び退き、ほぼ同時に朱鷺戸は転がりながら距離をとって片膝で銃を構える。

 

 ビィー…………


 まだピストルの残響が残っている中、遠くの方で被弾音が鳴った。

 開始早々早くも脱落者が出たらしい。

 これは恐らく……、

 「裏切り、かしらね……」

 「だろうな……」

 朱鷺戸の呟きに俺も頷く。

 「どういう事だ?」

 ただ一人棒立ちのままポカンとしていた無垢な智代が訊いてくる。

 仕方あるまい。

 心苦しいが、現実を告げるとしよう。

 「だから裏切られたんだよ。手を組む約束をしてた相手にな」

 「そんなのズルじゃないか!」

 「甘いわね坂上さん。これはあくまで最後の一人になるまで続けられるバトルロイヤルなのよ。ルールに反していないなら、裏切りも立派な作戦の内だわ」

 「手を組もうと結局いつかは敵同士になるんだ。なら、初めから独りの方が後腐れないだろ?」

 「それが、おまえが一人になろうとする理由か?」

 もちろん、それだけではない。

 が、ここではそういう事にしておこう。

 「そういう事だ。坂上、今回は見逃してやるから早く立ち去れ。俺か朱鷺戸がその気だったら、お前はとっくにやられていたところだ」

 俺は銃口を智代に向け、『退去しなければ撃つ』と気迫をこめて通告した。

 余程ショックを受けたのか、智代は暫く俯いて立ち尽くす。

 だが、再び上がったその瞳には、彼女らしい確たる強い意志が宿っていた。

 「かまわない」

 「は?」

 「かまわないと言ったんだ。おまえの敵になるぐらいなら、今ここで撃ってくれてかまわない」

 そうきたか……。

 思わず朱鷺戸と顔を見合わせ苦笑する。

 たかがゲームなんだが……本当に頑固と言うか、負けず嫌いな奴だ。

 「ふうっ……ああ、そうかよ!」


 ビィィィィィィィィィッ!!


 俺は溜息を一つつくと、容赦なく引き金を引き、その電子音を響かせた。

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