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ろーぷれ
作:めろん



第52話 効果音


 森の中を進む悠は、明らかに苛ついていた。
その理由は、至ってシンプル。

「……邪魔だ」

鬱蒼と生い茂っている木々が邪魔だから。
が、それは森なので仕方がないことである。

「あー、めんどい」

 悠は無表情でそう言って足を止めた。
そして、ポケットに突っ込んでいた右手を前方に生い茂っている木々に向けた。

「暗雲の閃光は―…」

「って、止めい?!」

魔法を発動しようとした悠を、麗は勢いのよい突っ込みで止めた。

「……なんだ?」

そんな彼女にイラッとした顔を向ける悠。

「“なんだ?”じゃないわよ!? 何、自然破壊万歳みたいなことやらかそうとしてるのよ?!」

「真っ直ぐ行った方が速いだろ?」

「いや、そういう問題じゃなくてね!? いい?! そんなことをしたらきっとこの森に住むリスとか小鳥とかが……」

面倒臭いからという理由で大規模な自然を破壊しようとしている悠の考えを変えさせようと、必死になって突っ込みを入れる麗。

「でも、確かに急いだ方がいいと思います、です」

そんな彼女の隣で、鈴がいつもの調子で口を開いた。

「へ!? りっ、鈴まで何言って―…」

「葵はあの恒に拐われた、ですよ?」

鈴は麗の発言を遮って、

「……もしかしたら、今頃葵、襲われているかも、です」

彼女の努力を無に帰す一言をさらりと口にした。

「破滅をもたらす!!!」

「きゃああああああ!?」

直後、悠は前方に広がる森を盛大にぶっ飛ばした。
勿論、この森に住むリスとか小鳥とかのことなんかお構い無しに。

「死神殺ス!!」

 邪魔な木がなくなり視界は絶好調。
悠は思い切りそう叫ぶと、素晴らしい速さで走り出した。

「ああ!? 折角追い付いたのに!! ちょっと待ちなさいよ、悠?!」

みるみる小さくなっていく悠に叫んだ後、

「鈴! 何、火にガソリンぶっかけるようなこと言ってるのよ?!」

麗は悠に大爆発を起こさせた鈴に突っ込みを入れた。
すると、

「……ウフフ」

「!? 鈴――?!」

麗は驚き、固まった。

「人が驚き慌てる様は、いつ見ても面白い、ですね」

何故なら、いつも無表情な鈴が、愉快げに笑いながらそう言ったから。

「え? りっ、鈴さん?」

「ウフフフフフフフフフ」

(この娘誰えええええ?!)











 同時刻。

『月光』

「させませ―…っ!」

振り下ろされた大きな鎌、鎌子を剣で止めた葵は、死神の左手に気付き、素早く後ろに跳んだ。

月華(げっか)

振り下ろした鎌子を振り上げながら彼を追う死神。
――鈴の言う通り、葵は死神に襲われていた。

「し、死神さん、どうして急にこんなことっ?!」

その攻撃も同じように剣で止めた葵の問いに、

『第9ステージのボスのオレ様に勝てないようじゃラスボスに勝てないからだ』

死神はそう答え、彼の額に左手の人指し指を当てた。

「――!!」

『どっかーん』

しまった、と葵が思うより先に、死神はいつもの抑揚のない声を発した。
直後、

「うわあ!?」

その指先で本当にどっかーんと爆発が起こり、葵は後方の壁に叩き付けられた。

「ゴホッ! っう―…!」

痛がる隙も与えないよう、死神が不敵な笑みを浮かべて銃の形にした左手をこちらに向けたので、葵は慌てて壁を蹴った。

『ばーんばーんばーん』

「なんなんですか、その攻撃はあああ!?」

死神が発した効果音の通りにバンバンとこちらに向かってくる弾を避けながら、葵はわけが分からないと言うようにそう叫んだ。

『む? 知らないのか?』

彼の言葉に、死神は小首を傾げながら、

『言葉には、魔力がある』

と、言った。

「なんか聞いたことありますけど、多分意味が違いますよね?!」

『フッフッフッ。葵、避けてばかりじゃオレ様に勝てないゾ』

攻撃を避けながら必死になって突っ込みを入れる葵の上半身と下半身を切り離すように、死神は鎌子を横一直線に振るった。

月輪(げつりん)

「させませんっ!!」











「……」

 先程まで森だった所を抜けた悠は、大きな沼の前で立ち止まっていた。

「はあっ……はあっ……やあっと……追い付いてやったわよコノヤロー……」

「……です……」

彼の後ろから麗と鈴が息を切らせてやって来た。

「……」

しかし、悠はそれにはまったく反応せずに沼に目を落としている。

「……? どうしました、ですか?」

「シカト? シカトですか?」

そんな彼の隣に、鈴と麗は別々のことを言いながら移動した。

「っ!!」

「きゃあ?!」

そして驚きの声をあげた。

『おお? おうおう、女連れとは色気付いてんな』

そこに来て初めて、水面から顔を出している二匹の河童が目に入ったから。

『これでますます怪しくなったな』

『おう。人間を連れている河童なんて聞いたことがない』

二匹の河童が意地の悪そうな笑みを浮かべて悠に向かって言うと、

「は? 馬鹿か、貴様ら? これは食糧に決まってるだろ」

悠はさらりとそう返してみせた。

「って、何言ってるのよ、悠?!」

「もしくは身代わり」

「いや、ふざけんじゃないわよ?!」

「あるいは下僕」

「いやいや、もっとふざけんじゃないわよ?!」

「だからここを通せ」

「シカトですか!?」

悠は横から入る麗の突っ込みを綺麗に無視し、河童たちに言った。

『だから何度も言ってるのだろ? 通りたかったら此処から3KM(きろみょーん)東に進んだ所にある橋を通れ』

「馬鹿か、貴様は? ここを真っ直ぐ行った方が速いに決まってるだろ」

『だから駄目だって!! ここはオレたち河童が住む神聖な沼であって、お前のような人間が入っていいような場所じゃないの!!』

「だから、俺はその河童様だと言ってるだろ?」

『『く……』』

 何度言っても同じようにしか応えない悠に、河童たちは顔を見合わせた後、

『……分かった。そこまで言うなら、』

『お前が河童だという証拠をオレたちに見せてみろ』

と、悠に言った。

((証拠?!))

それを聞いて、鈴と麗の目が輝いた。
そして、二人はその目をばっと悠に向け、わくわくしながら彼が次にどう出るかを待った。

((甲羅!? それともお皿?!))

「……」

そんな二人はいないものとして考えた悠は、漆黒の瞳を閉じて、静かに息を吐いた。

「……これでどうだ」

「『!!』」

それは、まばたきの間の一瞬の出来事。
悠が再び目を開けた時、彼の肌の色は、人間らしい赤みを帯た色から、爬虫類のようなザラザラとした緑色になっていた。
これは、目の前にいる二匹の河童とまったく同じ色。

「ゆ、悠、それ……」

「ずっと魔法で隠していた……ですか?」

「……」

二人はいないものとして考えているせいか、悠は二人のかすれた声にも応えなかった。

『お、おい……もしかするとアイツ本当に……』

『い、いや! まだ分からねぇぞ! ここは長老に確認を―…』

「……その長老というのは何処にいるんだ?」

悠は、分からずやな河童たちに小さく舌打ちをしてそう尋ねた。

『は? そんなの町の中に決まって―…』

「あっそ」

河童の答えを聞いた悠は、鈴と麗を後ろにどん、と押し、素早く沼に飛込んだ。

「「!! 悠!?」」

『あ! クソ!』

『行かせるか!!』

そんな彼の行動に驚く二人と、彼を追う二匹。
 そうして水面が静まった頃、

「「?!」」

ドッパーン、という豪快な爆音と共に、巨大な水柱があがった。
更にしばらくすると、肌色に戻った悠が、平然と陸に上がってきた。

「ゆ、悠、大丈夫だったの?」

「一体何があった、ですか……?」

「和解してきた」

((絶対嘘だ))

とか思った鈴と麗に、

「……行くぞ」

悠はくるりと背を向けて進み出した。

「え、ええ……」

「はい、です」

若干疑問を抱きながらも、それに頷いて足を進め始める麗と鈴。
死神の城までもう少し。












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