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ろーぷれ
作:めろん



第28話 穴の中


 再び森に入った葵は、辺りを見回しながら引き続き悠を探し回っていた。

「悠、何処に―…って、うわあ!?」

そうやって左右にばかり気を取られていたせいか、葵は雨でぬかるんだ地面に足を滑らせ、そのままうつ伏せに転んでしまった。

「いったた……」

 葵がそこから状態を起こすと、

「?」

丁度真正面の地面に、大きめの穴が空いていることに気が付いた。

「……穴?」











「……ったく……葵め……なかなか足速いじゃない」

「……これで探すのが二人になってしまった、です」

 葵に遅れて森に入った麗と鈴が、息を切らしながらそう言った。

「あーもー、か弱いレディほっといてどっか行くってどういうことよ?!」

「こういうこと、です」

「ア〜ンド、ぐちゃぐちゃだし、ドロドロだし、びしょびしょだし、寒いし、風邪引くし、雨降ってるし、最悪だし!!」

「傘が何処にも売ってなかったから仕方ない、です」

頭を抱えながら叫ぶ麗に淡々と言葉を返す鈴。

「大体“あっち”ってアバウトすぎんのよ、死神のヤツ!! もっと深く! 細かく! 繊細に教えなさいってのよ!!」

「……麗、取り敢えずあそこで雨宿りしましょう、です」

 残念ながら、麗が何故そこで“繊細”という言葉を使ったのか理解出来なかった鈴は、大きな木の下を指さしてそう言った。

「うな〜」

よく分からない唸り声を発しながら、彼女が指さした木の下に移動する麗。

「! 麗、あちらを見てください、です」

「うな?」

すると、うなだれている麗に鈴が別の木の下を指さしてそう言った。

「! あ、あれは……!」

そちらに目を向けると、麗は大きく目を見開いた。

「はい、いかにも怪し気な穴がある、です」

こくりと頷きながら鈴が言うと、

「100N銀貨!!」

鈴が指さした大きな穴の少し手前に落ちている小さな銀貨を発見した麗が嬉しそうに叫んだ。

「……そう、ですね」

彼女の発言を聞いて初めてそれの存在に気付いた鈴。

「凄いわ!! こんなところにお金が落ちてるなんて!!」

「いえ、この距離でそれに気が付いた麗の方が凄い、です」

銀貨を拾い上げてエキサイトしている麗に、左手を横に振りながら無表情で鈴がそう言った。

「……で、こ〜んなところにお金が落ちてるってことは、」

 すると、麗は銀貨から目を離し、

「此処を通った人がいる、ってことね」

目の前の地面にぽっかりと空いている大きな穴を見据えて不敵に笑いながらそう言った。

「!」

麗はふざけているのか真面目なのかよく分からない、と鈴は思うのであった。









 穴の中は、真っ暗な闇の世界が広がっていた。

「わあ……真っ暗」

その中に入った葵が思わずそう呟くと、

『まあ、穴の中だからね』

と、前方の闇から返事が返ってきた。

「あ、そっか。そうですよね―…って、わあ!? 水?!」

 葵は、独り言の筈が返事が返ってきたことを驚かずに、自分の右足が水の中に入ってしまったことに驚いた。

『大丈夫。ただの水溜まりだよ』

「ほ、本当ですか? よかった」

闇の中から聞こえてくる声を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす葵。

『……足、怪我してるね。血が出てるよ?』

すると、この暗闇の世界でも視力が利くのか、声の主がそう言った。

「はい。さっき上で転んじゃって」

そのことをまったく不審に思っていない葵は、照れ笑いしながら応えた。

『痛そうだね。いい薬をあげるよ』

「わあ、本当ですか? ありがとうございます」

『じゃあ、もっとこっちにおいでよ』

そう言って、声は葵を前方に招いた。

「はい……って、あれ? 僕は誰と話してるんだろう?」

それに返事をして歩を進めた葵は、やっと自分が何者かと会話している不思議に気が付いた。
そして、自分の足が深々と水の中に入るのを感じた。

『河童だよ』

そう言った直後、声の主、河童は、先程からずっと構えていた三日月型の鎌を振り下ろした。

「え――」

 勿論葵は、暗闇のせいで目の前にいる河童がどのようなことをしようとしているのか分からない。
そうして、ただ鎌が自分の身に振り下ろされるのを待っている葵を、

「葵!!」

聞き慣れた声の主が抱き締めるようにして自らが盾になった。
 鎌は勢いを殺さず、その背中を深く切り裂いた。

「!? 悠?!」

 自分が探していた友人、悠の突然の登場に驚く葵。
それに次いで、葵は自分の手に温かい液体が付着したのを感じた。

「ゆ、悠……これ、もしかして……血?」

恐らくそこにあるであろう悠の顔に、恐る恐る顔を向ける葵。

「……大丈夫だ。だから速く此処から出ろ、葵」

すると、悠は葵を離し、出口に向かうように葵の背中を押した。

「出ろ、って……悠は?」

何も見えないのだが、葵は振り向いてそう尋ねた。
 その時、辺りが少し明るくなるのを感じた。

『邪魔するな! その人間はオレの獲物―…』

 自分の攻撃を邪魔された為に腹が立った河童は、再び鎌を振り上げながら怒鳴っている途中で、

『……だ……』

眉間に鋭いナイフが突き刺さり、そのまま仰向けに倒れた。

「葵! 悠!」

 鎌の豪快な落下音が消えると、今度は河童を見事一撃で倒した麗の声が聞こえてきた。

「! 麗、鈴は!?」

その声を聞き、葵はそちらに振り向いた。

「此処にいます、です」

すると、麗のすぐ後ろに、杖先に一点の白い光を点した鈴が走ってきた。
そのおかげで、真っ暗な穴の中は随分と明るく照らされた。

「お願い! 悠が怪我してる!」

「分かりました、で―…」

葵の言葉に了解している途中で、鈴は言葉を詰まらせた。

「? 鈴?」

そんな鈴に疑問符を向ける葵。
すると、鈴は悠を指さして言った。

「ゆ、悠、血が……青い、です」

「え?」

鈴が指さした方、悠に振り向くと、予想外の光景に葵は目を見開いた。

「悠……!?」

「……」

鈴の明かりに照らされた悠は、背中から大量に青い血を流していた。

「……俺は悠じゃない」

 悠は三人の視線から逃れるように漆黒の瞳を伏せると、

「河童だ」

静かな声でそう言った。












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