第28夜:トロイメライを聞きながら・・・ 5番
一純が追い出された生物準備室
凛によって、テキパキとジャージを着せられた少女を中心に、小夜・凛・麻紀音・九十九のいつもの面子にロンを加えたメンバーが、爆発から生き延びたパイプ椅子に腰掛けて、囲むように座っていた
中心にいる少女は、九十九の多少大きめなジャージがくすぐったいのか、モゾモゾと忙しなく、貧乏ゆすりのように体を動かしている
「・・・ところで先生、さっきのは本気なんですか?」
小夜が、ロンに向けてそう切り出す
「さっきのって?」
「勿論、この子の面倒を兄さんに任せるっていう事です。こう言うのもなんですが、この子はいわば研究の成果であって、それを手放すのは研究者としては本意ではないはずです」
小夜は、ロンに向けて歯に衣着せずに尋ねる
確かに、綺麗事だけではどうにもならない事もある
どんな経由であれ、目の前にいるこの子は、あくまで実験動物でしかないのだ
「・・・けっこういい勘してるじゃないの」
小夜の言葉を受けて、ロンの表情が真面目なものに変わる
「実はね、弟から頼まれたのよ。この実験、成功しても失敗しても、失敗した事にしておいてくれって」
「どういう事でしょうか?」
怪訝そうな顔でロンに尋ねる凛
「どうも、上の連中がキナ臭い動きをしてるらしいわ。もし成功したのがばれたら、そこの子が追いかけられた時と同じ事が起きるかもしれないって、そう言ってたわ」
麻紀音を指差しながら、ロンは静かにそう告げた
「そういえば、結局お前はあれから大丈夫なのか?」
凛は、思い出したように麻紀音に尋ねる
「・・・・・・研究所には、ダミーが提出された・・・・・・多分平気」
表情を変えずに、淡々と麻紀音が答える
「・・・・もしかして、成功した時の押し付ける先の確保のために、一純を被験者にしたんじゃあるまいな」
九十九はジト目でロンに視線を送る
「アハハハハハ、そんなわけ無いじゃないの」
「先生、後ろではなくこっちを見て言ってください」
壁を見つめながら笑うロンに、小夜がピシャリと言う
どうやら図星らしい
「仕方ないじゃない。あたしんトコに置いといたらすぐにバレちゃうじゃない』
開き直ったようにロンが言う
小夜が呆れたように溜息を吐く。そして、視線を少女の方に移す
難しい話に飽きたのか、少女はウトウトし始めていた
「・・・まあ、仕方ないですね」
フゥ、と息を吐き、少女の頭を優しく撫でる小夜
「なんじゃ妹、今日は気持ち悪いくらい優しいではないか」
九十九はそう言って、パイプ椅子に座ったまま、ガタガタと少女の後ろに移動する
「気持ち悪いは余計よ・・・・まあ、この子に罪は無いし、私がどうこう言う理由もないわ」
流石の小夜も、相手がこんなに小さくては、理不尽に怒るわけにもいかない
もし、先程兄に抱きついていたのが、同じくらいの年の女だったら、問答無用で因果の彼方まで旅立っていただいたところだ
「・・・・・『流石に、こんなに小さい子供に、兄さんが父性以外のものを抱くはずもないし』の間違いでは?」
「うぐ・・・」
麻紀音の言葉が、ダイレクトに痛いところへ突き刺さる
確かに、そんな思いも無きにしもあらず
「・・・というか、そんな事が分かるって事は、あんたも同じ事考えてたんじゃないの?」
「・・・・・・考えすぎ」
是非とも、こちらの顔を見て言ってもらいたいものだ
そして、何気に凛のほうも、小夜と視線を合わせないように顔を逸らしている
ちなみに、九十九の方は最初から、一純は自分の物と決め付けているので、大して気にはしていない
他の三人は無視して、少女のほっぺをムニムニと摘んでいる
「それはそうと、こやつの名前はどうする?」
ムニムニしながら、小夜達に尋ねる九十九
いい加減呼び名の一つでも決めておいた方がいいだろう
「ちなみに、小夜とロンに決定権は無しじゃ」
九十九が、ピシャリと二人を指差すとそう言い放つ
「な、何であんたにそんな事決められなきゃいけないのよ!?」
「あたしも、名付け親になりたいわよぉ?」
いきなりの発言に、当然不満炸裂の二人
その二人を見て、チッチッと指を振る九十九
「甘いのう、おぬしら二人は既に、『名付け親』以外のポジションに納まっておる。これ以上ポジションを増やすわけにはいかん!」
そう言って、力強く腕を振り上げる九十九
「・・・・・・また意味不明なことを」
ボソッと麻紀音が呟く
「まずロンは『生みの親』!!」
ズビシ!!と効果音がつきそうな位の勢いでロンを指差す九十九
なるほどね〜、と納得しながらケラケラと笑うロン
「・・・聞きたくないけど、私のポジションって一体何なの?」
すっごく不安そうな顔をして、小夜が尋ねる
「『叔母さん』」
「へ?」
「じゃから『叔母さん』、父親の妹じゃし当然じゃろう」
真顔で答える九十九
本人にしたら、悪意などは無く、そのままの事実を述べただけなのだろう
しかし、小夜にとってはこの上ない大ダメージだったらしい
まるで石膏で出来た像のように、真っ白に燃え尽きてしまっている
「おばさん叔母さんオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサン・・・」
どうやら、ダメージが脳神経にまで達したらしい
「・・・・・・この映像をメモリーに保存・・・・・・こんな貴重な映像はそうそう無い」
しかも、最も厄介な記憶媒体に記憶されてしまっていた
「まあ、小夜のことは放っておくにしてだ、名付け親はやはり一純が良いのではないか?我々が名づけるにしても、勝手に名づけるワケにもいくまい」
「・・・・・一生ついてまわるものなのだから、じっくりと考えるべき」
「・・・お前の名前はすぐに決まったではないか」
麻紀音の言葉に、凛が突っ込む
「・・・・・マスターがつけてくれたものだから問題は無い」
・・・さいですか
「まあ、今日はひとまずコレで解散にしましょう。時間も遅いし、おなか空いたし」
ロンがそう言って、パンパンッと手を叩く
「それでは、私は一純を呼んでこよう」
凛はそう言って、準備室から出て行く
発信機と盗聴器があるので、居場所もすぐにわかるだろう
「それよりも、どうするかのうコレは?」
九十九が小夜を指差しながら、面倒くさそうに言う
「オバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサンオバサン・・・」
未だに壊れたままの小夜
復活の日はいつか?
「・・・・・・あのおねえさんは、おとうさんのいもうと・・・・・つまりおばさん・・・・・・あんだすたん?」
「いらん事を吹き込むなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
To be continued・・・・・・・
|