第27夜:トロイメライを聞きながら・・・ 4番
人間というものは、予想以外の出来事に遭遇してしまうと、混乱を通り越して、硬直して動けなくなってしまうものだ
一純も、一応普通の人間なので、目の前に映る予想だにしなかった光景に、おもわず思考が停止し、硬直してしまっている
それもその筈だ
一純がカプセルの中にいるであろうと想像していたキメラという生物は、ライオンに色々とくっついた、伝承通りのキメラだ
しかし現実は、一純の予想を、360°見事に裏切ってくれた
実験カプセルの中にいた生物
そらは、頭部にある羊のような大きな角を除いて、まさしくその姿は人間の少女そのものだった
しかも、外見は10歳そこそこ
当然、服など着ているはずもない
文字通り、生まれたままの姿という奴だ
幸運な事に、一純にはペドフェリアのような特殊性癖は無いのだが、見た目が子供とはいえ、目の前に全裸の少女がいては、流石に目のやり場に困る
そんな一純の心境を知ってか知らずか、目の前の少女は、チョコンと座ったまま、一純をジッと見上げている
今しがた生まれたばかりの無垢な瞳が、一純を見つめる
図らずも、二人で見詰め合う状態になってしまう
「なあにボケっとしてんのよ、結果はどうなったの?」
一純のアクションのなさに業を煮やしたのか、背後からロンがヒョイと覗き込む
そして、バッチリと二人の視線は交差する
「あらあら、案外上手くいってるじゃないの。爆発しちゃった時は、姿を留めてるかどうかも不安だったんだけど。6割位は成功ってとこねぇ。あそこで出力が安定してれば完璧だったわ」
ロンは、目の前にいる『キメラ』の少女の姿に、さほど驚いた様子も無く、実験の結果について考察してる
「俺が言うのも何ですけど・・・全然イメージと違いますね、キメラとは」
一純は、自分が感じたことをそのまま、ロンに伝える
「それもそうねぇ。キメラって言えば、ゲームとかにで出てくる怪物のイメージがあるもんね〜。でもね、今回の実験では、人間のDNAをメインに据えて行ったから、こういう結果は、当然といえば当然だったのよねぇ。あ、さっき九十九ちゃんが言ってた、貴方の体に色んな動物がくっついてるっていうヤツ?アレって意外に正解だったのよねぇ」
そう言ってケラケラと笑うロン
・ ・・色々と初耳な上に、笑い事ではないと思うんですが
「それに本当なら、こんなに幼い状態じゃなくて、ちゃんとした成体の状態で生まれる予定だったのよ?それに、知性と知識もちゃんと脳にインプットさせて、すぐにでも自立できるようにプログラムしてあったはずなんだけど・・・」
そういって、少女の方を向くロン
そして、一純を外に出し、入れ替わりにカプセルに入り、少女の前にしゃがみこむ
「初めましてお嬢ちゃん、あたしの言葉、理解できるかしら?解るなら首を縦に振ってくれない?」
目の前にしゃがむ、男とも女とも分からない奇妙な生物を前に、ジッと見つめ返す少女
そして、数秒の時間を要して、その首はコクリと、確かに縦に振られた
どうやら、言葉は理解できるようだ
「まあ、生まれたての子供だしね〜。後は教育しだいってトコロかしら・・・・・・というワケで」
そう言ってロンは、少女を抱き上げると、クルリと反転してカプセルから出る
「頑張ってね、一純君♪」
そして、笑顔で少女を一純に押し付けた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
突然の出来事に、再び硬直する一純
「だって、さっき言ったじゃない。俺の遺伝子を持ってるなら、俺の子供みたいなもんだ、とか何とか」
いや、確かに言いましたけど、あれは言葉のあやというかですね・・・・・・
「誤魔化すでない一純、わしも確かに聞いたぞ」
後ろから九十九が言う
そういえば、忘れていたが、小夜・凛・麻紀音・九十九の四人も居たのだった
「そうよ、あなたはいわば、この子のお父さんなんだから」
ロンの口から、衝撃的な一言が発せられる
「お、お父さん?」
ロンの発言に、一純の顔が引きつる
まだ、17歳なのに、お父さんですか!?
そして視線を、自分の腕の中に納まっている少女に向ける
少女は、抵抗する事も無く、一純の腕の中でジッとしている
すると、不意に顔を上げ、一純の顔を見つめる
そして
「・・・・・・・・オト〜サン?」
片言でそう言うと、その顔が笑顔で綻ぶ
どうやら、「お父さん」という単語のもつ意味を理解できるらしい
そして、そのまま一純の胸に、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる少女
どうやら名実共に、一純は少女から、お父さんと認定されたようだ
「この子、鳥の遺伝子も持ってるから、刷り込みの習性もあったのかもね〜。随分貴方に心許してるじゃないの」
そう言うと、ニヤニヤしながら一純の肩を叩いてくるロン
刷り込みっていうと、初めて見た物を親と思い込むアレか・・・
ていうか、この人は完璧に今の状況を楽しんでるだろ
一純は頭痛を感じながらも、溜息を吐く
この頭痛も、最近になって頻繁に起こるようになった気がする
慢性化しない事を、切に願いたいものだ
そんな事を考えながら一純は、自分の腕の中で丸くなる少女の頭を、クシャリと撫で付ける
どうやら、麻紀音の時といい、一純には、撫で癖のようなものがあるようだ
そして、一純はふと気づく
背後に居るであろう四人の、異様な静けさに
そして、背後に漂う妙な雰囲気に
何と言うのだろうか、いつもの空気がピリピリと肌が痛くなるような感覚だとしたら、今回の空気は、生温いような、肌にまとわりつくような空気だ
怖いというか何と言うか・・・・・・不気味だ
以前、小夜・凛・麻紀音がブチ切れた時よりも、ある意味怖い
怖すぎて、背後を振り向く事ができない
目の前には、腕の中で丸まる異形の少女と、ニヤニヤと笑い続けるオカマ
こんな、ありえないシチュエーションは、近年稀に見る・・・というか、稀にだろうと何だろうと、普通の人生を送っていたら来るはずない
日本から、ロリコンが消滅する位ありえないだろう
ポン
「!?」
ちょっとばかし現実逃避していたら、背後から肩を叩かれた
突然の奇襲に、口から心臓が飛び出しそうになる
一純の脳は、未知の恐怖に対応すべく、再び現実逃避という手段に打って出ようとした
「一純」
しかしその目論見は、凛の呼び声により阻止される
「な、何でしょう?」
少し声が裏返りながら、一純は返事を返す
そして、恐る恐る後ろを振り返る
今までの経験上、この振り向いた先に存在するのは、修羅か鬼神かどちらかだ
一純は振り返りながら、腕の中の少女の目を手で覆う
幼子が見たら、間違いなくトラウマになるであろう光景を、見せぬようにである
大人が見ても、失禁してしまいそうになる程の迫力だ
そんなものを、この子に見せるわけにはいかない
一純の、無意識に働いた、親心というヤツだろうか
だがしかし、そんな一純の配慮も、徒労に終わる
「一純・・・忘れてるわけではないだろうが、何時までも裸の娘を抱き上げてるというのは、少々いただけないと思うぞ?」
コホンと咳払いをして、凛が言う
凛のその様子に、怒りは感じられず、普通に一純をたしなめているだけのようだ
「ちょうど、わしのジャージがあるから、コレでも着せてやろう」
九十九はそう言って、隅においてあった鞄の中から、自分の物とおぼしきジャージの上下を取り出す
「というワケで兄さん。流石に兄さんといえど、女性の着替えの席に同伴させる事は出来ません。しばらく、その辺でブラブラして来て下さい」
そう言いながら、一純の腕の中で丸まっていた少女を受け取る小夜
少女の方も、少々名残惜しそうだったが、抵抗も無く小夜の腕に移っていく
今まで全裸だったのに今更だとか、ジャージを着るだけなのにそんなに時間は掛からないだろうといった考えは、どうせ抵抗したって無駄なので、大人しく飲み込んでおこう
「・・・まあ、終わったら呼んでくれ」
無抵抗主義を常日頃から心掛けている一純は、妹の言葉を素直に聞き入れて、その妹によって吹っ飛ばされ、跡形も無い準備室の扉をくぐって外へと出て行ったのだった
to be continued・・・・・・
|