第2夜:小夜の夜想曲 1番
「これが我が家か?」
気後れしながらも家に帰り着いた一純は、思わずそう呟いてしまう
外見的には何ら異常はない、いつもの我が家だ
ただ明らかに雰囲気が違う
今まで暮らしてきた住み慣れた我が家とは思えないような、異質な空気が辺りを取り巻いているように感じられる
だが、何時までも玄関先で立ち往生してる場合ではない
一純は意を決して、我が家いう名の魔窟に足を踏み入れる事にした
「・・・・・・・ただいま」
そう言いながら、玄関の扉を開く一純
玄関は異常無し
だが異様な雰囲気の根源は明らかに家の中、しかも居間周辺であるという事は確信できる
・・・・・・・・玄関から居間に近くにつれ、徐々に空気が痛くなって来たのだ
一純はある意味、放射能の漏れた核施設並に危険な雰囲気の場所に、果敢にも歩を進める
おそらく、ここで逃走してしまったら、核は反物質にランクアップしてしまい、更なる被害がでてしまうだろう
そして一純は居間の扉に手をかけた
喉がカラカラに渇いているのが、自分でもハッキリと分かる
そして意を決したように、一純はゆっくりとドアのノブを回していく
やがて、ドアノブがこれ以上回らない限界までくる
後は、これを引っ張るだけで、全てがハッキリとする
一純は、ドアノブを回した時と同じように、ゆっくりとゆっくりと扉を開いていく
そして視界の中に、徐々に居間の中の様子が映ってくる
一純の目に映ったのは、9年もの間見ることの無かった、かつてこの場所にいる事が当然であった人間
それでいて、初めてこの空間と一緒に映ったと言っても過言ではない程、成長した人間だった
腰まである、黒曜石を思わせるくらい美しい黒髪
整った顔立ちに、スラっとした細身の体
十人いれば、関係ない奴らまで集まり始めて、合計二十人が美人と答えるであろう女の子が、居間のソファーに腰掛けていた
ハッキリ言ってこの女の子が、本当に自分の妹なのか全く自信がない。
ただのお客さんだと言われた方が、まだリアリティがある
そして不意に、ドアを開けた音に気づいたのか、女の子が一純の方に顔を向けた
「・・・・・・兄さん?」
女の子が・・・・・・いや、妹の小夜がソファーから立ち上がって、一純に歩み寄る
「・・・・・・小夜・・・なのか?」
一純は未だに自身が持てず、思わず聞き返してしまう
「ええ・・・・・・正真正銘・・・兄さんの妹の小夜です。分かりませんでしたか?」
疑問詞をつけられた事がショックだったのか、小夜が不安そうに尋ねる
「・・・・・・悪い、あんまり綺麗になってたんで、正直自信が持てなかった」
自分でも言った後で、何てこっぱずかしい台詞を言ったんだと思ってしまったが、実際にそう思っていたのだから仕方がない
一純にそう言われ、不意に小夜の目が潤みだす
そして
「にぃぃぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
感極まった様子で、小夜が一純の胸目掛けて抱きついてきた
「さ、小夜!?」
突然の出来事に、一純は驚きを隠せない
胸に顔をうずめてられていて表情はわからないが、小夜からは静かに嗚咽が聞こえてくる
「・・・・・・・」
一純は何も言わず小夜の頭を優しく撫でる
小さい時は、もっとやんちゃな印象があったのだが・・・・・・
これも成長というやつなのだろうか
一純が感慨深くなっていると、不意に小夜から嗚咽が止む
「・・・・・・兄さん?」
心なしか、背中に回されている小夜の腕に力が入る
「・・・・・・何故、一度も私に会いに来てくれなかったのですか?」
・・・・・・・あれ?なんだか雰囲気が変わったぞ?
「私は待っていました。来る日も来る日も、兄さんが私に会いに来てくれる日を」
小夜の腕に更に力が入った
「さ、小夜さん?ち、ちょっと苦しいんですけど?」
一純の背骨がギシギシと嫌な音を出し始めた
「なのに兄さんは、この9年間一度も会いに来てくれないどころか、手紙の一通も送ってくれませんでしたね?」
「さ、小夜・・・・・ちょ・・・・・背骨が・・・・・」
「兄さんは遠方に旅立った妹に対して、これっぽっちの心配もなかったのですか?」
小夜は静かにそう言いながら、スゥっと顔を上げた
(し、修羅がいる・・・・・・)
薄れゆく意識の中で一純は思い知った
人間の根っこの部分がそう簡単に変わるようなものでは無い事を
「さあ、答えなさい!!兄さぁぁぁぁぁんっ!!!」
トドメとばかりに小夜の腕に力が入った
「☆¥■%∴£λ〆℃!!!!!」
声にならない悲鳴を上げながら一純は思った
(・・・・・コ、コイツは・・・・・9年前と1ミリも変わって・・・・・・な・・・・い・)
そうして一純の意識はゆっくりと闇の中に沈んでいった
9年前の小さい小夜を走馬灯のように頭に浮かべながら・・・・・
to be continued・・・・・・
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