第15話:女色々長恨歌 2番
一純の朝は大抵早い
編集者である母親が夜勤明けで帰る事が多い為、家事の大半は一純がやる事になっているからである
ちなみに銀行員の父親は、今年になってから隣の県へ転勤になってしまい、たまに週末帰ってくる以外は家にいない
そして毎朝キッカリ5時30分に起きてから新聞を取りに行き、朝食と昼ごろに起きるであろう母親の分の昼食を作るのだ
まあ、今まではこんな感じだったのだが、小夜が帰ってきてからは交代でこの作業を分担するようになったため、一純的にもかなり楽になった
そして今日は小夜が朝食を作る日である
台所では、小夜が味噌汁を作りながら魚を焼いてる真っ最中だ
ポピュラーな朝食ながら、シリアル等に逃げないしっかりとした朝食だ
「新妻ってこんな感じかしらね〜♪」
そして本人もいたって幸せそうに、鼻歌交じりで味噌を溶いている
小夜は小夜で、一純との擬似新婚生活(小夜しか思ってないが)をエンジョイしているらしい
そして午前7時、一純が二階から降りて来る
心なし、何時もより足取りが重い気がする
「兄さんおはようございます、今日は遅かったですね?」
小夜は一純に挨拶しながら、不思議そうに尋ねる
それもそのはず、一純は朝食当番に関係なく、5時30分に起きるという事が習慣として身に付いてしまっているのだ
それなのに寝坊するとなると、小夜も不思議に思う
一純はゴシゴシと目をこすりながら食卓の椅子に座る
「・・・・・・・寝不足だ」
そう答える一純の目には、確かに大きなクマができてる
「珍しいですね、本でも読んでたんですか?」
出来上がった朝食を運びながら小夜が尋ねる
一純はフルフルと首を横に振る
「・・・・・・・・・・・・金縛りにあった」
一純は真顔でそう言った
「か、金縛りですって!?」
一純の言葉に小夜は驚く
TVなどではよく見る現象だが、実際に近くでそんなことがあると案外驚くものだ
そして小夜の場合、それが愛しの兄なのだから驚くだけでは終わらない
「す、すぐに御祓いしてもらわなくちゃ!!」
小夜は慌てて霊媒師を呼ぼうと、電話帳を開き受話器を手にする
「れ、霊媒師って誰がいるかしら?・・・・・あ!!細木○子!?・・・・・・・・・・じゃあ連絡先はTV局!?」
小夜はかなり慌ててるらしい、細○先生は霊と戦ったりはしないだろう(多分)
「・・・・・・・慌てるな小夜、あの人は惜しいが違う。それに金縛りも最近科学的に検証されて、霊現象ではないとわかってるらしい。多分、最近色々あったからちょっと疲れてるだけだろ」
確かに最近は忙しかった
小夜が帰ってきたり、麻紀音と出会ったり
・・・・・まあ、本当は他にももう一件あるのだが、一純自身は知る由もない
一純は少しため息を吐きながら、コップに牛乳を注ぐ
「・・・・兄さん、今日は大事をとって休んだらどう?」
小夜が心配そうに尋ねる
「そんなに心配するな、熱があるわけじゃ無いんだから平気だ・・・・・・それより、早く食わないと遅れるぞ?」
そう言うと一純は「いただきます」と言い朝食を口に運ぶ
小夜の方は兄の体を考えると休ませたかったのだが、それ以上は何も言わず、自分も朝食を口に運び始めたのだった
*
8時10分
一純と小夜は家を出て、学校へ向かっていた
そして途中で凛と合流して、一緒に登校する
最初の頃は小夜がイヤ〜な顔をしていたが、最近ではスッカリ慣れたらしく普通に登校している
・・・・・・・というか、もともと一純と凛が一緒に登校してる中に小夜が入ってきた事になるのだが・・・・・
「・・・・というワケで、兄さんが原因不明の金縛りにあって寝不足らしいのよ」
小夜が凛に今朝の事を話す
「ふむ、それは心配だな・・・・・では至急、腕の立つ霊媒師を・・・・」
「・・・・いや、いらんから」
一純はデジャブを感じながら断る
「用心に越した事は無いと思うが・・・・・・」
凛は心配そうに一純を見つめる
「心配しなくても、明日には元気になるから」
強がってはいるが、実を言うと睡眠不足のせいで一純の意識は既に朦朧としている状態だった
おそらく30秒も目を瞑ったら、すぐに寝てしまうだろう
すると突然
ブチンッ!!
何の前触れも無く、一純の右靴の紐が千切れる
「おっとと・・・・」
バランスを崩し、左足を前に踏み出す
ブチンッ!!
途端、左靴の紐も弾け飛ぶように切れ、そのまま転倒する
転んだ拍子に、靴が足からすっぽ抜け宙に舞う
一純は顔面からコンクリートに熱烈なベーゼをかましていた
「だ、大丈夫!?兄さん?」
小夜が手を差し出そうとした瞬間
「な゛〜」
ドサッ!
空から黒猫が一純の頭目掛けて落ちてきた
それに続いて、一純の靴も落下してくる
どうやらすっぽ抜けた靴が当たって、どこからか落ちてきたらしい
黒猫は一純から降りると「な゛〜」と一声鳴き、スタスタとどこかへ去っていった
すると今度は凛が口を開く
「・・・・・・おい、2人とも空を見てみろ」
そう言いながら、凛が空を指差す
一純は、強打した顔面をさすりながら空を見上げる
「・・・・・・・・・何だありゃ」
空の一部が黒かった
しかも何か移動してる気がする
ついでに大音量でカーカー言ってる気もする
「カラスの群れだな、しかも異常に多い」
凛は冷静に答える
「・・・・ヒッチコックみたいね」
小夜も冷静に感想を述べる
そんな2人に比べ、一純の心中は穏やかではない
(・・・・靴紐、黒猫、カラス・・・・典型的な不幸の前触れじゃないか)
そんなベタなと思ってしまう事が実際に起きてしまうと、逆に真実味が出てしまう
・・・・・・ていうか怖い
「・・・・まさか死亡フラグが立ってるとか無いよな?」
一純はポツリと呟いた
「・・・・・・?何か言ったか一純」
凛が聞き返す
「・・・・急がないと遅刻すると言ったんだ」
一純はそう凛に返すと、紐の切れた靴を履き直して歩き出す
小夜と凛の2人は、頭に?マークを浮かべながら一純の後を追うのだった
*
8時30分
3人は、学校の玄関に到着する
何とかギリギリの時間だ
しかも一純は紐が切れて、殆ど引きずってる状態の靴だ
仕方なく途中から小夜と凛に、肩を貸して貰った
何だか回りからの視線が恥ずかしかった
「全く、災難だったな一純」
凛は口ではそう言っているが、心の中では
(朝からこんなに一純と密着できるとは・・・・・今日は良い日になりそうだ)
かなり浮かれモードだ
勿論、反対側の妹さんも同じ状態なワケで
「本当ね〜♪」
満面の笑顔で、これでもかというくらいに密着してる
しかも玄関の前に到着しても離れる気配は無い
1年と2年の靴箱は結構離れているので、流石にここで分かれなければならない
「・・・・・小夜は1年の靴箱の方に行きなさい」
このまま放っておけば、教室まで付いてくるかもしれない
「え〜」
小夜は口を尖がらせる
「え〜、じゃないだろう?ここまでくれば大丈夫だ・・・・・・凛もありがとうな、もう大丈夫だから」
「むう・・・仕方ないな」
一純に言われ離れる2人
「・・・・・名残惜しいけど、仕方ないから自分の教室に行きます」
そう言いながら、小夜は自分の靴箱に向かって行った
・・・・・・どうやら一純が言わなければ、本当に教室までくっついて来るつもりだったらしい
「俺達もとっとと行くか」
「そうだな」
一純と凛は2年の靴箱に向かって歩き始める
そして靴箱の近くまで来た時だった
「ん?」
一純がふと立ち止まる
「どうした一純?」
凛が尋ねる
「いや・・・・あれ・・・」
一純は自分の靴箱の方を指差す
靴箱の前に1人の女生徒が立っていた
小柄で、長いツインテールが特徴的だ
「2年にあんな女子いたか?」
名前は知らなくても、同じ学年の生徒だったら見覚え位はあるはずだが、一純にはサッパリ覚えが無かった
一純に言われ、凛も女生徒をジッと見る
「・・・・・・2年どころか、1年にも3年にも覚えが無い」
凛は生徒会長として、一応この学校に在籍する全ての人間の顔を記憶している
その凛ですら覚えの無い人間だった・・・・
すると、その女生徒も2人に気づいたらしく、後ろを向きスッと去っていった
一瞬だけ顔が見えたが、小さい体格に似合わず目つきの鋭い印象があった
「・・・・あの生徒は後で調べる必要があるな」
凛の方も、負けずに鋭い目つきで呟く
「・・・まあ、それはともかく早く靴を履き替ようか」
そう言いながら自分の靴箱に近づく一純
そして自分の靴箱を見た瞬間、思考が停止する
「・・・・・・・・・・・・・何だこりゃ」
「どうした?」
凛が後ろからヒョイと覗き込む
「・・・・・・・・・・・・・何だこれは」
凛も思わず呟く
原因は勿論、一純の靴箱
何をどうやればこうなるのか、見事に溶接されて開かなくなった靴箱がそこにはあった
元々開くところなんて無かったと思う位キレイサッパリくっついていた
「・・・・・・・新手のイジメ?」
「・・・・・イジメでこんな事するアホもいまい、とりあえず壊して開けるぞ」
そういうと、凛は何処からか刀を引っ張り出すと、石川○右衛門のように見えない速度で刀を振るった
勿論斬った後にはこの台詞
「・・・・・・・・また詰まらぬ物を斬ってしまった」
お約束だ
凛が刀を鞘に納めると、鉄製の靴箱の蓋が綺麗に四角に切り取られ、カランと床に落ちる
「悪いな凛」
一純は礼を言うと、靴箱から内履きを取り出す
「気にするな・・・・それよりもこんな事をした奴を即刻見つけ出さねば」
凛の目に制裁の炎が灯る
生徒会長としてもこのような事は見過ごせない、それに一純が被害者となればなおさらだ
犯人が見つかったら、徹底的に修正してやる・・・・・・・
「とりあえず、さっきここに居たツインテールの女が怪しい・・・・・・・」
凛の目がギラリと光る
「・・・・・まぁ落ち着け凛、さっきの人もこの靴箱を見て驚いていただけかもしれないだろう?」
一純が凛をなだめる
だが今回は凛も引かない
「・・・・・そうだったとしても、私の知らない生徒がいると言う事は腑に落ちんのだ・・・犯人云々の前に、あの女の事は詳しく調べる必要がある」
そこまで言われたら、一純も止めるワケにはいかない
「まぁ、そこまで言うなら止めないが・・・・・・・くれぐれも穏便にな?」
「・・・・・・善処する」
そう言うと2人は、2階にある教室に向かい歩き始めた
そして2人が去った後
靴箱の前に人影が現れた
それは文字通り影であり、顔は分からない
不意に影から声が聞こえる
「・・・・・あの女・・・・依頼主の一人なのじゃが・・・・・放っておけば、後々邪魔になって来るかもしれんのう・・・・・・・」
そういうと影はユラリと揺れる
「・・・・・・・少し大人しくなって貰おうかのう」
影はそう言うと、静かに笑いながら、溶けるように校舎へと消えていったのだった・・・・・・
to be continued・・・・・・・・・・
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