第1夜:プレリュード
「ふぅ・・・・・・・・」
授業も終わり放課後、俺は本日何度目かわからない溜め息を吐いた
周囲の生徒達は、今日の授業が終了したという開放感から、すでに浮かれモードに入っている
そんな中で俺は、1人浮かれる気分にはなれずに、只々ため息を吐く
陰鬱な空気を醸し出している、というのが我ながらよく分かる
ちなみにその空気の成分には、今日は俺に構わないで分が多量に含まれている
朝からこんな感じだったのだから、回りの方もさぞかし気を使った事だろう
だが1人、その陰鬱な空気を読めない命知らずのザ・フールが、無謀にも虎穴に飛び込んできた
「いずみん〜、そんな何時までも重力10倍な空気背負ってないで帰ろうぜ〜」
悩みとは無縁そうな茶髪のツンツン頭が話しかける
「・・・・・・いずみん言うな佐倉、お前が言うと果てしなく気持ち悪い」
俺は心の底から嫌そうな顔を向けて、そいつの顔を見る
この目の前に立っている奴の名前は佐倉正臣。一応俺の友人にあたるような気がしないでもない
「・・・・・親友に向かって気持ち悪いはないじゃないか!!酷いぞいずみん!この悪魔超人!!」
佐倉はその親友に罵詈雑言を浴びせながら、ビシィッ!いう効果音が付きそうな勢いで指を指す
ボキッ
まるで枯れ枝をへし折ったかのような乾いた音が、教室に響く
「指があらぬ方向にぃぃぃぃぃっ!?」
無言で俺に人差し指をへし折られた佐倉が、教室内を縦横無尽に転げ回る
椅子や机に激突しようがお構い無しだ
周囲のクラスメート達は、慣れた身のこなしで転がってくる佐倉を回避している
これも日常茶飯事の光景だ
「人を指差すなって小さい時に教わらなかったか?」
俺は指をへし折ったついでに、佐倉に小言を言ってやる
「教わった気もしないでもないけどこんな体罰があるなんて初耳ですがぁぁぁぁぁっ!?」
不思議な方向に曲がった指を押さえながら、佐倉は依然として、絶叫しながら転げ回っている
もう少し周囲に迷惑のかからないように悶絶してもらいたいものだ
「ふぅ・・・・・・・・・」
俺は更に溜め息を吐き出す
このアホに付き合っていたら、無駄に体力が消費されてしまう
ここは早々に退散するが吉だ
「・・・・・とっとと帰るか」
俺は机の横にぶら下がってる鞄を掴むと、教室を転げ回る佐倉をほっぽって教室の入口に向
かって行く
「いずみんの薄情者ぉぉぉぉぉっ!!」
ゴスンッ!!
振り返りざまに、セカンドべースに牽制球を投げるかの如く俺が投擲した大リーガークラスの速度の広辞苑が、佐倉の脳天に鈍い音を立てて直撃する
なんかスローモーションで佐倉が倒れていく
「・・・・へへへ・・・・・お花畑だぁ・・・暖かぁい・・・・」
妙なうわ言を言いながら安らかな顔になって行く佐倉
流石ヤバイと思ったにクラスメート達が、フランダースの犬のラストみたいな状態なっている佐倉に駆け寄って来ている
「・・・・・・いずみん言うなって言ってるだろうが、このヒヨコ頭」
勿論俺は無視してサッサと帰路についた
(アホに付き合ってる暇は無い・・・・・・)
帰路を進むにつれ俺のテンションは再び下がってきていた
そもそも何故俺が、こんな欝状態になっているかというと、その原因は昨日親に唐突に聞か
された、「明日妹が帰ってくる」の一言だった
(・・・・・・・妹に会うだけでこんなに鬱になるものか)
そうなのだ
俺こと高倉一純は、今日9年ぶりに妹に会う
妹は小学生に上がる際、唐突に、とある全寮制の学校に通うと言い出し、そのまま現在に至るまで、親元を離れて暮らしていた
しかし何を考えたのか、今年高校に進級からしばらくして、これまた唐突にこっちに戻って来ると言い出したのだ
校則の非常に厳しい学校だったらしく、今まで一回も帰省した事は無く、顔も、たまに送られてくる手紙に同封されてる写真で見る程度だ
最も、両親は学校行事等で、ちょくちょく会いに行ってるらしいが
(うぅ・・・・・・胃がキリキリして来たぞ)
俺の緊張もクライマックスだ
正直、9年ぶりの再会を果たしても、9年前の幼い妹と違う、思春期真っ只中の成長した妹相手に一体何を話し、どう接してやればいいのかサッパリ分からない
それどころか、もしかすると妹が家から離れる決意をしたのも、兄である俺に、嫌気が差したからなのかもしれない
自分としては、嫌われるような事をした覚えは全くの皆無なのだが、女性の思考回路という物は複雑怪奇な構造をしている物らしい。もしかしたら知らず知らずの間に、妹の怒りの琴線に触れるような事をしてしまったのかもしれない
そんな思考の悪循環が、一純の不安をより一層掻き立てていた
(・・・・・・このまま家に着かなければいいのに)
仕舞いには、そんなありえない現実逃避まで始める始末
しかし、どんなに一純が現実逃避しようとも、リアルは容赦なく一純の背中をマイホームへ押していく
だが一純は気付いていない
マイホームを覆う、強烈でいて異様なオーラに
妹の発している「兄さんに会いたいオーラ」に
飛ぶ鳥が落ちるほどの、ドス黒く恐ろしいオーラに・・・・・・・
to be continued・・・・・・・・
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