初めての恋をしてからもう10年が過ぎた。
その間に私は私の魂を少しずつすり減らしてきたような気がする。
窓の外ではしんしんと雪が降り続いている。
ピンク色の傘をさしながら、雪と戯れる少女の姿が目に映る。
いつかあの子も私と同じように誰かを好きになって、恋をして、愛し合って
そして自分を傷つけるのだろうか。
その時、背後から声がして恵子はびくっと背筋を伸ばす。
「どうした?深刻そうな顔しちゃって。」
屈託の無い笑顔はこの世の絶望を全て味わいつくしたかのように見える。
薄茶色のコートの肩上には、室内のしっとりとした温度に形を失っていく
雪がまだ少し残っている。
「雪がすごくてさ。」
と当然のことを当然に口走る彼になんだか好感を持てた。
20代後半には見えないその幼いマスクはテレビで見るアイドルのように
純粋でいながら幾多の試練を乗り越えた男の顔だった。
円形の机の上においてあるエスプレッソに手を伸ばす。
喉は渇いていなかったが、久しぶりに彼にあってどういう顔をすれば良いか
よく分からなかった。
隣に座るいかにも就職活動中の大学生は、買ってきたばかりであろう
SPIの問題集を見るともなしに眺めている。
ほんの数秒の動作がとてつもなく長い時間のような錯覚に襲われた。
あぁ、私はこの人に恋をしているんだなと思った。
口の中に広がったエスプレッソは、苦くも甘くも無くただ私の食道を通過した。
恋をすればまた同じことを繰り返すのかもしれない。
頭の中をぐるぐる駆け回る柔らかな思いはきっとゆっくりゆっくり私の心を蝕んでいくのだろう。
彼は私の冷え切ったエスプレッソを勝手に飲んで、
「苦っ。」
と言った。
彼の奥二重の瞳をまじまじと見つめ、ちょこっとだけ笑って見せた。
外では雪がしんしんと降り積もっている。
街灯がその雪を柔らかく照らしだしていた。
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