さて、やっと一息ついたので一話書けました。
遅くなって大変申し訳ありません。
七十三話 殺気で錯乱
:???視点:
攻撃開始――充雅はこの状況を心から楽しんでいた。
目の前には正真正銘の化物。キマイラとよばれる言葉では言い表せないほどの禍々しい殺気を放つ怪物だ。引きちぎったと思われた右腕のワニが再生しており、形も爬虫類から猫科の虎のような姿になっている。ますます――興奮する。
面白くないといえば、さきほどから後ろでうろちょろ動く姫君である。右腕がワニから虎へと変わった化物を見てからずっと、背中をつかまれ「逃げて!」と叫ばれる。
「あのな、お前……、あんなカスに俺は負けないんだってば。攻撃開始だぜ? 趣味、特技共に暴力の俺が負けるわけないだろ。それに――あんなの、化物でもなんでもない」
「何馬鹿なこと言ってるの!? テスカトリポカなんて論外! 貴方でも流石に無理よ!」
「……うるせえ、クソアマ。とりあえず黙って――」
充雅からすれば茶番のような会話だった。その会話に割り込んでくるかのように、キマイラが睨みを聞かせながらこちらへものすごい速さで突っ込んでくる。それを見た充雅の表情はぱっと明るくなる。今から殺し合いが出来るという歓喜に。
「おもしれえ。殺してやるよぉぉぉおお!」
「ミツガ!」
セリアスの叫び声もむなしく、充雅はお構いなしに突っ込んでいく。ジャンプをして空中に跳ね上がる。右腕を後ろに引いて攻撃の態勢を作った。それと同時にキマイラも再生した右腕を後ろに引いた。これまた同時に化物同士で腕を前に引き伸ばした。虎と拳が混じるのその瞬間――虎が灰へと変化した。
「っなに!?」
変貌した右腕――灰は充雅を包み込むように蠢き始める。空中では身動きができない為に避けることは不可能である。油断のしすぎ。平和ボケ。そんなことばが脳内に流れ込む。すると、包み込もうとしていた灰に向かって後ろからいくつもの氷柱が飛んできた。氷柱は灰を貫通し、そのままキマイラ本体にも突き刺さる。だが、致命傷とはなっていないらしい。着地をして後ろにさがる充雅。その隣には右腕を突き出してキマイラをにら睨みつけるセリアスの姿があった。
「おまえ――」
「私も戦えるのよ! ミツガ、貴方だけ突っ込まないで!」
「っち……」
たぶん、先ほどの油断を見せてしまったことにより説得力はなくなってしまっただろう。面倒だが――いや、面白くないが共同するしかないと考えた。それに、先ほどの氷柱――。どう考えたって一般人ではない。むしろ人ではない。俺達と同じ化物――というよりも魔法使いだ。そう、魔法を使っている。考え的には科学的なにかだろうと考えた。涙の結晶と誘導者と同じ原理だと――勘違いした。
「しゃあない。さっさと殺すぞ! 面白くないからなあ!」
もう、面白くない。一人で戦えないなら面白くない。そう考えればいいだけ。そう思い違いをしていればいいだけ。本当は面白い。心から面白い。すべてを殺してしまいたいぐらいに。何もかもを壊してしまいたいくらいに。だから充雅は――攻撃開始なのだ。攻撃でしか表現できない存在。
ギュギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
キマイラノ咆哮。それに怯えることなく充雅は走り出す。再びジャンプして、素手でキライラの頭を狙う。先ほどと同じように虎の頭を突き出し、灰へと変わる。今度はサメの腕も同時に襲ってくる。氷柱のことを踏まえてのことなのだろう。知能はあるのだと認識した。だが。無駄だということを。
「しゃらくせえええ!」
先ほどとは違う動き。空中で先ほど出来なかった、回し蹴り。足は見事に灰を払い、そしてサメの頭を蹴り落とす。その勢いのまま突き出された右腕がキマイラの頭に叩きつけられる。何かがつぶれる感触。完璧に何かを捕らえた感触。思わず笑みがこぼれた。
「ミツガ!」
後ろからの声に反応して、キマイラの頭を踏み台にして後ろに下がる。空中で一回転をする。セリアスの頭上を飛び越える。充雅の目に映ったものは地面に浮かぶ水色の光る魔方陣。そしてその中心に立つ彼女。両手を突き出し、言葉を言い放つ。
「我! 氷の姫は絶対零度を求む! ブリザード・フォース!!」
両手から放たれた氷、というよりも吹雪はキマイラを直撃し、みうみる氷漬けにされていく。ゆっくりとした感じで着地をする充雅。前を見てみると、吹雪はやんでおり、目の前には氷の中に留まっているキマイラ。化物といっても生き物だ。こうなっては死んだのも同じだろう。
「やったか?」
「そのようね」
隣に歩み寄ってキマイラを見る充雅の目には代にも珍しいものが映っているのだ。氷漬けの化物。滑稽だ。自分もあの氷漬けにされているものと同じ種類の生き物だと思うと鼻で笑いたくなってしまった。というか笑った。もう、おかしくて。
「にしても、なんだかな、このキマイラ。どっから沸いてきたんだか……」
「それは――私の兄の所為だ。私を殺そうとして――」
「は? 一体、何の話を――」
口に出そうとしていた言葉よりも先にバタンっ! と開かれた体育館のドアの音に気をとられてそちらの方向を二人同時に向いた。そこにたっていたのは見たこともない一人の青年と、隣にいる少女と似たような雰囲気をかもし出す少女。銀髪で異なる色の両目。隣にいるこいつと同じだと充雅は感じた。
「メウトル!?」
「セリシア! 無事だったのね!」
メウトルと呼ばれた少女がこちらに駆け寄ってきてそのままセリアスに抱きつく。満面の笑みのメウトルに対してセリアスは困惑の表情。充雅は思わず隣でイチャイチャしている二人に溜息を吐いてしまった。
「えっと……はじめまして」
「ん?」
話しかけられた。もちろんそれは隣にいるメウトラルと呼ばれる少女と一緒にいた少年のことだ。見た目は自分と同じ、または年下。手に持っている木刀をみると先ほど何かしらの戦闘をしたこと感じさせた。そして、この人物もただものではない。そう、感じさせる何かがあった。
「お前、名前は?」
「僕? んーっと、僕は日本一。漢字で『にほんいち』って書いて『ヤマトハジメ』っていうんだ。そういう君は?」
「俺は鵜飼充雅。んなことより、お前はあんな奴を知ってるか?」
指差した方向には氷漬けにされたキマイラ。それをみて日本は目を丸くする。そして、何故か溜息をはいた。どうやら何かあるようだ。
「僕達も戦ったけど、あそこまで大きくないよ。アレはなんていうのかな、君がやったの?」
「氷漬けにしたのはあそこの姫さんだよ。俺はあんな魔法は使えない。まあ、化物だけどな」
「化物――ね。まあ、僕はともかく化物なら僕も数人――」
と、言ったそばから充雅に向かって一人の人物が横から木刀で切りかかってきた。それをすれすれで避けて体制を整える。目に映った人物は――死の十六人の一人――血の死者だった。そしてキライラが吹っ飛んだときに出来た大きな穴からは赤髪の少女がこちらに向かって駆け寄ってきていた。
「ミルラ!」
「メウトラルちゃんにセリシアちゃん!」
再び少女同士が抱き合うという微笑ましい光景がそこにはあったが、少しは慣れた場所では死の使者――東野練磨と充雅が睨みをしていた。その間に日本がおろおろした様子で立っている。
「ちょっと、練磨くん!? なにやってるの!?」
「滅亡絶望! 貴様はこの人物が誰だかしっているか!」
「え? えっと……」
答えにつまる。誰と言われても今名乗られた鵜飼充雅という名前しかしらない。おどおどする日本を無視して、充雅を睨む東野の目は殺気立っていた。殺すように――殺し合いを今ここで始めるかのように。
「ひさしぶりだなあ、血の使者。そんな怒るなよ」
「怒ってなどいない! 俺は聞いているだけだ! なぜ貴様がここにいる! 攻撃開始!!」
「攻撃開始? ……もしかして――」
日本もこの人物の恐ろしさに気がつき、顔色が一気に変わる。あの、友人である亡霊騎士をも超える二つ名の持ち主。ランキング一位の化物。そして何よりも、出会ってはいけない人物一位。人生終わったも同然である。だが、怯えているだけではいけない。
「ま、まあ、お二人さん。とりあえず落ち着いて――」
「「黙ってろ」」
「はい……」
やはり、死の十六人には敵わないと心の中で思ってしまった。それにしても――首を少し傾けると、そこには三人の少女。先ほどまで一緒にいたメウトラル。そして同じく両目の色が違う二人の少女。彼女達がメウトラルが言っていた四人の姫君のうちの北と西の姫君なのだろう。南――それがフリスなのだ。そして、西――メウトラル。こうして、グラウンドゼロの姫君四人の少女が全員、同じ場所に集まったのだ。
「お兄ちゃん、あれ!」
「んな?」
メウトラルが突然天井を指差した。他の二人の姫君も口をポカーンと開けて空を見ていた。そして――自分もぽっかりと口をあけてしまった。
がっつりとあいた黒い穴から巨大な頭が出てきた。どこからどうみても龍です……。
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