第三十七話 戦争の拡大で錯乱
:???視点:
誰もいないはずの商店街。いるのは一人の少女と血の死者と試験興行だけ。そのはずだった。予定では。大幅にずれた予定。物語に乱入してきたかのようにその二人は立っていた。一人の少年は血の死者と同じく、袴姿で日本刀を脇差にさしている。もう一方の少年は特に特徴はないが、優しそうな雰囲気を人一倍にかもし出す不思議な少年。袴の少年――日本一。二つ名を滅亡絶望優しそうな少年――なまえを大瀬良光斗。二つ名を沈黙信号。
「……沈黙」
血の死者が光斗をにらみつけながら呟いた。一方の光斗は名前を呼ばれるような身に覚えもないようで、不思議そうに頭を傾けていた。だが、血の死者が抱えている少女が瑠雨と言う事が分かるとすぐさま睨み返した。
「瑠雨ちゃん……君たち、何をやっているんだ。その子になんの用?」
「……沈黙。ひさしいな。拙者を忘れたか?」
「? 拙者? えっと……どちらさまでしたっけ?」
光斗は本当に覚えがないようで苦笑してしまった。だが、その表情を見た瞬間に血の死者が表情を変えた。どうやら頭にきたらしい。表情が憎しみだけを表現している。それに気づいた光斗はあたふたするばかり。
「拙者は忘れん! 数年前、拙者は無様に貴様に負けた! そして貴様は拙者に『生きろ』と侮辱をした! 忘れるわけがなかろう! 血の死者の名前を!」
「血の死者……死の十六人の一人。思い出した。僕に決闘を挑んできたよね。そして僕は殺さずに生かした。でも、それは当たり前の事で――」
「黙れ! 拙者は敗北して、なおかつその苦しみを背負って生きることなど、これ以上の屈辱はない! だからここで、決着をつけようぞ!」
血の死者は瑠雨を試験興行に受け渡した。瑠雨は何故か大人しく渡される。たぶんだが、光斗と日本の顔を見て安心したのだろう。だが、光斗は困っていた。武器が手元にない。これでは戦えない。
「ちょっと待って光斗君。こいつは僕にやらせてよ」
と出てきたのは日本だった。確かに彼なら武器は持っている。だが、相手は死の十六人の一人。そして何よりも日本は実力が強いかどうか光斗は知らない。ここではいどうぞ、と簡単に受け渡してしまうのも納得がいかなかった。
「こいつは僕がやるよ」
「邪魔者はうせろ。拙者は沈黙しか興味がない」
「絶望には興味がないかな? 僕は一応、滅亡絶望で通っていると思うけど」
「ほほう、そなたが絶望か。噂はかねがね聞いておる。新人の滅亡絶望と死神の詩、青色の多声音と、ともに活躍している新人がいると」
「へー、結構有名になったな僕たち。で、その新人とやりあう気はない? 僕は結構準備運動には使えると思うよ。それに――」
日本はにやりと笑ってこう言った。
「袴姿が僕のキャラとかぶってる!!」
「「そっち?」」
光斗と試験興行のツッコミが発動した。
:ツムジ視点:
くそ、これだけ走って探してもどこにも居ない。俺の予想だと以前、瑠雨が言っていた死の十六人が四人、才無佐に混じっていると。その四人のうち何人かが龍守さんを攻撃した。瑠雨をさらうのが最低でも一人。龍守を倒すのに最低一人。結局は二人以上で行動している。
「っち、風菜も暗月もこんなときだけ……」
いや、あの二人をこの戦いに巻き込んじゃいけない。それにあの二人を使って勝ったとしても結局は力の差が出る。確実に勝つためにはあの二人が必要だった。でも、俺は自分の力で瑠雨を助けたいと望んでいる。俺はなんてこんなにわがままなんだろうか。
「あれ……は」
走っているとビルとビルの間の路地裏に二人の人物を見つけた。その二人はチェックガラのスカートの少女と頭からすっぽり白いフードで顔を隠している人物。フードの方は性別の確認が出来ない。だが二人は服にべっとりと血がついている。龍守さんの血。
「……!」
気づいた。あいつ等だ。龍守さんを傷付けたやつ等だと。そうと分かれば……
俺はまずは相手の後ろをそっとばれないように尾行する事にした。物陰に隠れつつ、二人の様子を確認する。まだ、気づいてはいないようだ。このままこいつらを尾行して瑠雨を取り戻して、さっさとおさらばだ。龍守さんの傷のこともあるが、それは後日でもいい。
すると、チェック柄のスカートの少女が突然、背伸びをしてフードの人物の耳元で何かを呟いた。そして止まる二人の足。俺は警戒しながらも曲がり角の壁に体をべったりとくっ付けて二人の様子をうかがう。
だが、甘かった。ここで止まっちゃいけなかった。倒してから脅してでもいいから瑠雨の場所を探ればよかったんだ。そう、そうしておけば――
「――! あんにゃろう! 逃げやがった!」
突然もうダッシュで走り出す二人。油断していた俺はもちろんスタートダッシュに遅れた。急いで追いかける。二人とも足が速く、俺もついていくのがやっとだった。見失わないように神経を集中させ、追跡をした。くそ、まさかばれるとは思わなかった。気配まで消して探索したが、あのチェックガラのスカートの少女が探索に向いていたのかもしれない。
走って走って、俺は無我夢中で二人を追いかけた。
:???視点:
「どうした絶望! 御主の実力なんてこんなものか!」
「うるさいな」
二人の侍――滅亡絶望と血の死者が真剣で切りあっている商店街。これはこれでシュールな光景だ。と光斗は思っていた。日本の誘いでやって来た商店街。裏道から来れば早いと言われて路地裏からやってきたのだが、着てみれば人は誰も居ない。しばらく歩いていると死の十六人の血の死者と試験興行がいる。もう、ビックリだ。
先ほどから一方的な戦いが続いている。血の死者が日本をずっと切りつけている。それを刀で受け止める日本。先ほどからずっと攻防が続いている。だが、まだ日本には余裕の表情がみれた。光斗はそれを確認してからその戦いを見ていた。
一瞬、死の死者が攻撃を止めたかと思うと、後ろに飛んで距離をとった。
「つまらん。絶望、御主は余裕のようだがこの一方的な戦い。まことにつまらん」
「そう? 僕は丁度良いんだけど」
「ふん、戯言など言っている場合じゃないぞ? 拙者が血の死者と呼ばれているか、すぐに分かる」
すると、血の死者の刀からつーっと、血が鍔から流れてきた。光斗と日本が一瞬驚いたような表情を見せた。日本はすぐさま自分がいつ斬られたのか確認したが――どこも斬られていない、無傷であった。
「まあ、あせるな。これが拙者が血の死者などと呼ばれておる理由。それは我、剣術の技の名前だ」
「名前……」
「ふ、教えてやろう」
そして刀を真横に振る血の死者。刀から出てくる赤い液体はしぶきをあげて日本の目の中に入った。
「っ!?」
「日本君!」
「これが拙者の剣術、血の目隠し。卑怯な目潰しは侍としてどうかと思うだろ? だが、その喧嘩殺法こそ、最強。勝つためには手段を選ばん!」
血の死者はそのまま日本に駈け寄り、刀を振り上げた。日本は右目を開けて自分の刀で血の死者の刀を受け止める。かすかに見える二人の笑み。これは光斗も旋風も強者にあった時に自然と出る笑み。こいつなら、こいつなら自分を殺してくれるんじゃないのだろうか? という歓喜の笑み。
「やるね、血の死者。僕も喧嘩殺法のほうが強いと思うよ。ま、君はそんなのしなくてもその剣術があれば大抵は勝てたんじゃない?」
日本の顔には血の死者の刀から流れる赤い液体で顔を染めていた。
「そうだな、だが、さっきの目潰しをくらってもこの剣を受け止めたのは沈黙と絶望、御主達だけだ。沈黙は気配を探って受け止めたけどな」
「僕の場合は反射的に右目だけ瞑ったからね」
刀が交じり合う。そして二人の殺気も交じり合う。これが死の十六人の戦い。そして戦争。
「僕も滅亡絶望って呼ばれている理由、教えてあげようか?」
「それは楽しみだな」
二人の笑みは笑い声に変わった。
:ツムジ視点:
「はぁ……はぁ…」
「おつかれぇ、亡霊さんよぉ」
「おつかれ様♪」
はめられた。
この二人は最初から俺の存在に気づいていたのかもしれない。見事に俺はこの二人の後を追って工場の廃墟まで誘われてしまった。ここには誰もいない。いるのは俺と目の前の二人。二対一、勝ち目は薄い。だが、スカートのほうが攻撃専門ではなさそうだから、まだ確率はある。
「そんでよぉ亡霊さん。お前、俺達が誰だか知ってるのか?」
「知ってるの?」
「……死の十六人の誰か、ってのは知ってる」
「は、流石って感じだね。何? 追及者にでも聞いた?」
「え、あのお姉ちゃん追及者だったの? だからあんなにしぶとかったんだ」
「……お前等か、龍守さんをやったのは」
「ああ、やったのは実際は俺だけだ。こいつはちょっくら俺のサポートを――」
「だまれ! 名乗れ! お前は誰だ!」
頭が熱い。
ああ、また呼び出してしまった。醜い生き物。
亡霊を。
「はっ! やる気ってか?」
「じゃ、教えてあげるね。ボクの二つ名は涙の雫。三つ名は幻想屋だよ!」
「俺は殺戮奇術。三つ名は破壊屋」
「殺戮奇術……は、お前の部下は雑魚だったな」
「思い出したか? あん時は楽しかったよなぁー、俺の部下にお前を殺せと命令したけど帰ってきた奴は誰一人いない。俺はゲーム感覚で楽しかったよ」
殺戮奇術――ジェノサイド。出会うのは初めてだ。だが、こいつは俺がまだ亡霊をしていた時に自分の部下を送りつけて俺を殺そうとしていた。問答無用で返り討ち。だが、そのゲームが終わる日はなかった。俺が亡霊を止めるまでは」
「さぁここでゲームの続きだ! 名乗れ! お前も名乗れ!」
「……俺は亡霊騎士。破壊屋、そしてお前をバッドエンドへ導く雑魚キャラだと思ってくれていい。お前はそんな雑魚にやられるんだから」
「は、おもしれぇな」
こうして戦争は拡大する。
現在の状況。
人質一名。
戦闘中、滅亡絶望――血の死者 亡霊騎士――殺戮奇術+涙の雫
様子見 試験興行 沈黙信号
負傷者 追及者
「あ、メリゴーランド! うん、乗ろう! 遊園地はやっぱりメリーゴーランドだね。メリーだよ、メリーさんの羊だね。執事になるかも? でもふかふかな羊のほうが私は好きd――」
例外者 妖精騎士
ブログはじめました『今宵の猫は月を見て鳴く』
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