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魔法使いと風精霊  作者: 田中23号
第三章
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第三十話「魔法使いと獣人二人」

アーリアス族の支配地域の町で一晩過ごしたクリスたちは、乗り合い馬車を探していた。


「しかし、本当に姫さんだったんだなぁ」


「え、今更!?」


クリスの感嘆の声に、ルドが驚く。


今回も安宿だと思っていたクリスだったが、ルドの威光によりかなりいい宿に泊まれたのだ。


「むしろ、今までどこかに姫っぽい箇所があったのか、聞きたい」


「えーっと・・・あれ?」


「あにさん、あんまりルドをいじめないでください」


クリスがルドをいじっていると、バールが見かねて止めに入る。


しかしそれは、火に油であった。


「ほほう、ルド、とな?」


「随分仲がよさそうですね?」


やばい夫婦に目をつけられたバールとルドは、冷や汗を流す。






ルドにとってバールは兄であり、しかし同時に気になる男性でもあった。


昔は無邪気に兄二人の後ろをついていくのが楽しかったのだが、二人が隣国に修行に出ると聞いたときに、自分の思いを自覚した。


そして、思い人においつくために、何をしたかといえば、修行だ。


強ければ振り向いてくれると本気で考えていたあたり、脳筋の血は争えない。


だが、そのアピールの仕方ではだめだとフウリに諭され、最近は方向性を変えていた。


それでも、一向にバールは気づかなかった。


そして、アーリアスの里目前になって、ルドは直接的な行動にでるのであった。




バールにとって、ルドは妹であった。


修行で隣国に出ることになったときも、ルドのことは気にかけながらも、どちらかといえばこれから始まる冒険に心奪われていた。


しかし、故郷から外に出て様々な経験をして、ときには望郷の念にかられたが、そのたびに別れの際に涙ぐむルドの顔が脳裏に過ぎった。


そして自分がどれだけルドのことを意識していたかということに気づいた。


同時に、それが叶わぬ思いだということも理解できた。


部族の現状からすれば、ルドの結婚相手は決まっていることはバールにも理解できたのだ。


ルドが家出をして自分の下に来たときには、嬉しいと思う反面、その無知な行動と、なにより自分の思いにイラつきを募らせていた。


なので一緒に旅をする中で、ルドの気持ちにも薄々は気づいてはいたが、目を背けているのだった。







ルドの威光で高級な宿に泊まることになった一行は、いつも通り家族部屋、ソドとソフィーニの部屋、バールとルドの部屋に別れていた。


クリスたちは何か掘り出し物でもないか買い物に行き、ソドとソフィーニは稽古という名のデートへとそれぞれ繰り出していた。


残されたバールとルドの間には、いつもにはない気まずい沈黙が横たわっていた。


いつもならいろいろな話をするのだが、ルドが何か思い悩んだように俯いているために会話が無いのだ。


バールが心配して声をかけても、大丈夫と一点張りのルド。


「それじゃあ、俺もちょっと出てこようかな」


気まずい空気に耐えれなくなったバールが、外出しようとドアへと向かう。


しかし、その袖をルドに掴まれる。


「おお?」


かすかな袖の抵抗に、バールは驚き掴んで離さないルドの顔を見る。


「えっと、ば、バール兄・・・いえ、バールさん!」


「は、はい!?」


ルドの只ならぬ剣幕と、聞き覚えの無い呼び方に驚き、思わず緊張してしまうバール。


その勢いに完全に飲まれ、冷や汗を流す。


「・・・」


「えーっと、用がないなら俺は・・・」


逃げ腰のバールの袖をぎゅっと掴みなおすルド。


逃げれないことを覚悟したバールが溜息を吐くと、向き合うように体勢を変える。


「・・・好きです」


いつもからは想像もできないような消え入りそうな声での告白であった。


それを聞いて、少しの間沈黙していたバールが決心したように口を開く。


「・・・すまん」


バールの苦渋に満ちた、しかししっかりとした声が部屋に響く。


一瞬時間が止まったように錯覚するほどの静寂が辺りを包む。


「・・・そっか。うん、ごめんね、いろいろ我侭言って・・・っ」


掴んでいた袖を離すと、ルドはバールの脇を足早に通り過ぎ、部屋から出て行く。


バールは震えた声を出して去っていこうとするルドに咄嗟に手を伸ばそうとして、思いとどまる。


バールが一人残された部屋には、長い間静寂が支配していた。




その後、夕食のときにはルドの様子は表面上、いつも通りであった。


目を少し腫らしてはいたが、しっかり見ないと分からない程度である。


しかし、それまでずっとバールを意識していたルドの変化は、空気を読むことについては専門家である風精霊にはお見通しであった。


フウリは即座に動こうとはせずに、隣にいる自分の主を見る。


フウリの視線を受けたクリスが頷く。


クリスにしても、バールの変にルドを気遣うような視線である程度のことを察していた。


そうして、夕食の時間は恙無く過ぎていった。




夕食の後、クリスはバールを飲みに誘った。


男三人だけで飲むことはあっても、差しで飲むのは初めてであることに気づいたバールは、同時に話の内容もある程度予測する。


「で、何で断った?」


「あにさんも分かってるでしょう。今のアーリアス族に、お嬢の結婚はとても大きな意味を持ちます。俺じゃだめなんですよ」


「自信がないのか?」


クリスのいつも通りの口調に、しかしバールは血が頭に昇るのを自覚する。


そしてそれを抑える気も無かった。


「あにさんに何が分かる!?俺はあんたみたいに!あんたみたいに・・・」


「俺みたいになんだ?」


勢いよくクリスに食ってかかろうとするが、言葉にならず段々とテーブルに崩れ落ちるバール。


そんなバールにあくまで優しい口調でクリスは問いかける。


「俺、俺は・・・、俺だって・・・あいつのことが・・・!けど俺はあにさんみたいに強くないんです、強く!!」


バールにとってクリスは憧れだ。


全てにおいて強く、すぐに信頼される。


竜人の中でも上位の実力者と同等の実力を持つ強さ。


精霊を嫁、娘と言って憚らず、それを有無も言わせず周りに認知させる強さ。


一国の王に信頼され、一国の王と渡り合う。


高位の精霊たちに信頼され、愛されている。


しかし、気負うことなく自由に生きている、その様。


そんなクリスにバールは憧れ、しかし自分はそうなれないと諦めている。


「んじゃ、頼れよ」


「え・・・?」


クリスがまっすぐバールを見つめる。


「お前の目の前にいるやつは、強いんだろ?んじゃ頼れよ、別に知らない仲でもないんだ。きっと力を貸してくれる。なぁに、俺に解決できないことだって、俺の家族と、仲間と力を合わせれば大抵解決できる自信があるぞ」


「けど、あにさん、俺・・・俺・・・」


「おう、いつでも頼ってくれよ。こう見えても、弟分には甘いんだぜ。必要なら世界征服くらいしちゃうよ?」


泣き付くバールの背を優しく叩きながら、クリスがおちゃらけたように言う。


アーリアス族の中でも将来を嘱望されているバールは、誰かに頼られることはあっても、頼ることは無かった。


不器用なバールは、頼り方も分からなかった。


しかし、頼れる兄が出来たバールは、しばしの間泣くのであった。




少しの時間泣いていたバールであったが、すぐに行動に移ることにする。


「あにさん、俺、行ってきます。あいつ許してくれるかわかりませんが。自分の思い、伝えてきます!」


「おう、ふられたら自棄酒くらい付き合うぞ」


「はい!行ってきます!」


クリスからエールを送られ、バールが走り出す。


酒場の周りの客からも、野次混じりの応援が飛び交い、バールを後押しするのだった。




ルドは部屋にいた。


バールと部屋を替わったソフィーニも、ルドの様子が変であることには気づき、何かと話かけている。


それにはいつも通り反応し、話も弾むのだが、たまにルドの視線が入り口に向けられていることにソフィーニは気づく。


そしてその扉がノックされる。


すごい反応速度でルドが扉に顔を向ける。


「ど、どうぞ」


顔を向けて固まるルドに代わってソフィーニが返事をする。


「失礼しますよ」


扉から湯気の上がるトレイを持ったフウリが入ってくる。


ルドは明らかに落ち込んだような顔をする。


「ふむ、重症ですね。ソフィーニ、少しばかりソドの所に行ってもらっていいですか?」


「うん」


ソフィーニはルドを気遣わしげに見ながら、部屋を出て行く。


フウリはそれを見送り、お茶の入ったカップをルドに渡す。


「少しは気分も落ち着きますよ」


「あ、ありがとう、姉さん」


カップを受け取ったルドは、息を吹きかけ冷ましながらお茶を口に運ぶ。


「断られたのですか?」


「っ!?」


急なフウリの問いに、ルドはむせる。


その様子を冷静に眺めながら、フウリはルドの対面のベッドに腰掛け、自分のお茶を啜る。


「わ、私そんなに態度に出てたかなぁ?」


「赤の他人では分かりませんが、私なら丸分かりです」


ルドの疑問にフウリが優しく答える。


「それは嬉しいような?」


「喜んでいいですよ」


「あはは」


ルドは明らかに空元気な笑い声を響かせる。


その姿にフウリは痛々しさを感じ、一つ頷く。


「ふむ。私がけしかけたのが原因でもありますからね」


「そんなことないよ、いつかはこうしてたし。結果振られちゃったし」


フウリの言葉に、すこし間を置いてルドが真剣な、というよりも今にも泣きそうな顔で返答する。


「では、諦めますか?」


「だって、振られちゃったし・・・」


フウリはそっとルドの横に座ると、その頭を抱き寄せる。


「あまり無理をするものではありませんよ。泣きたいときは泣いて、すっきりしたほうがいろいろ見えてきます」


「無理なんて・・・」


ルドの言葉は途中で途切れ、部屋には嗚咽が響く。


フウリはルドが泣き止むまで、その頭を優しく撫で続けた。


優しく見守るその仕草は、まるで母のようであった。


少しして、ルドが真っ赤な目をして顔を上げる。


「うう、ごめんなさい」


「何で謝るのですか?」


「だって・・・」


泣き止んだルドは、恥ずかしそうにフウリに視線を合わせる。


「ふむ、まぁいいでしょう。それでルド、改めて聞きますが、諦めるのですか?」


「私は・・・諦めたくない、けどバール兄さんの邪魔にもなりたくない」


ルドは今の気持ちをそのまま口にする。


それを聞いたフウリは頷く。


「バールは責任感が強く、不器用で、おまけに肝心なときに弱腰ですからね。あなたのことは好いてますよ、これは絶対です」


「そう、かな?」


不安そうにルドはフウリを見つめる。


「ええ。ただ、あなたの身の振り方次第で戦争になるかもしれないと考えているのでしょうね、自分のせいで同族が死ぬのが耐えられないのでしょう」


「うん・・・」


自分の立場とバールの考えが理解できるルドは、フウリの言葉に力なく頷く。


「まぁ、しかし、馬鹿ですね」


「え!?」


「何を驚いているのですか。我が主は仲間の面倒くらい見る甲斐性はありますよ?」


フウリが然も当たり前のように言う。


「バールは、頼り方が分からないのでしょう。なのでもう少し待ってみませんか?」


「・・・うん!」


「ふふ、いい子ですね」


フウリがルドの頭を再度撫でる。


ルドは恥ずかしそうにしながらもされるがままに身を任せるのであった。




少しして、フウリがそっと立ち上がる。


「姉さん?」


「そろそろ邪魔になってしまいそうなので。頑張るのですよ、ルド」


それだけ言うとフウリは扉から出て行く。


その後姿を呆然と見送るルド。


するとすぐ後に、フウリの出ていった扉が慌しい足音と共に開けられ、バールが突入してくる。


その姿を見たルドは一瞬嬉しそうに目を輝かせるが、すぐにそっぽを向く。


しかし、そんなルドの様子に気づかないバールは、まっすぐルドに歩み寄る。


「すまん、ちょっといいか」


真剣な表情でルドを見つめ、問いかけるバール。


ルドは明らかに焦っている。


「な、何?今日はもう遅いし、明日でもいいでしょ?」


「すぐじゃないとだめなんだ、頼む!」


「わ、分かった、分かったから頭上げてよ!」


バールの誘いを、その顔をちらちら見ながらも、まるで興味がないといった風に装おうとするルド。


しかしバールが必死に頭を下げ、それを見たルドが慌てて了承する。


「すまん」


「あ・・・」


バールはルドの腕を優しく掴み、足早に部屋から出て行く。





「バール兄さん?」


「お嬢・・・いや、ルド」


「ひゃい!?」


宿の裏庭にルドを連れ出したバール。


自分を落ち着かせるように深呼吸する。


そして、意を決したようにルドに語りかける。


「昼間のことだが、伝えられなかったことがある。・・・俺もお前が好きだ!」


「え・・・!?」


バールはこれ以上ないくらいに真剣な顔で告白する。


「けど、ルドの結婚はアーリアス族の行く末を決めることだ。だから俺の思いは部族のためにならないと思った」


「・・・うん」


バールという獣人が、そういう男であることを知っていたルドは静かに頷く。


「俺は怖かったんだ。俺が思いを貫いたせいで、もし部族が危険にさらされたらと思うとな。今でも正直怖い」


「うん」


「俺はずっと自分が先頭を行かないといけない、強くなくちゃいけないと思ってたんだが、あにさんが、頼れ、って言ってくれたんだ。好きな女の涙見るくらいなら、俺のちっぽけなプライドなんか捨てちまおうと思った。だから、もう一度言う。ルド、お前が好きだ」


バールが泣きそうなルドをまっすぐ見つめて告白する。


雲に隠れた月の代わりに、宿から漏れるほのかな明かりが二人を照らす中、向かい合う。


「遅い、馬鹿兄」


「すまん」


泣きながら罵倒するルドに、謝罪するしかないバール。


「まぁけど、ぎりぎり、本当にぎりぎりだけど、合格かな。・・・私も好きだよ、バールさん」


雲の合間から顔を見せた月が、ルドの頬を伝う涙を輝かせ、その綺麗な微笑みにバールはしばらく見惚れる。


やがて二人の影は近づき、一つになるのだった。

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